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泥団子と公爵様  作者: 狐火
10/28

10泥団子 牧場へ行く ④



◇◇


美味しいアイスクリームを食べた後、わたしは領主様とナビファス伯爵の厨房へ向かった。

…… はい。性懲りもなくお子さま抱っこですが、色即是空 です。


「これはまた、随分と大袈裟な」


そうなのです。領主様も思わずといった感じで声を上げていましたが、目の前の撹拌機はやたら大きいんです。一キロ弱のものを撹拌する機械が畳一枚分の幅をとっているんです。


「これでも軽量化されたのですわ。此方のハンドルをこの様に回すと、ほら、この羽が回りますの。一回りで職人が30回まわす動力になりますのよ」


「それならばもっとコンパクトにできたのではないでしょうか?」


「そこなのですわ。軽くしますと上にあるハンドルを回す度に軸がずれて……ほらね、こんな感じで安定しませんの」


そもそも上にハンドルがあるから安定しないのよね。ただでさえ力は上から下へ掛かってしまうので、それに更に頑張っちゃう力が掛かると左右に揺れが出ちゃうよね。でも、手動となると……。んん?


「ユンナ、紙とペンを貰えますか」


わたしは向こうの世界にある手動ミキサーを幾つか描いてみた。


「これはボクの居た世界にある手動ミキサーです。大きさはこのくらい」


「あら、小さいのね」


「はい。このタイプはバネの戻る力を利用しています。…… これがバネの形です。用途によって大きいものや小さいものがあります。これをこの部分につけて押します、そして力を弱めると戻ります。回転を増やしたいのであれば、この部分を長くしてやると良いです。大事なのはここの長さとバネの長さを同じにしてあげること、それからこんな風に二重に……なのです」



◆◆


ハルのバネについての説明は非常に分かりやすいものだった。彼女に言わせるとアイスクリームを作る為に必要な物としてこの大きさは必要ないのではないかと言うことだった。私には理解できない機具の話だったが、どうやら伯爵には通じるものがあったようだ。

バネについての特許をハルは伯爵に一任するようだ。それに関しても「いつ消えてしまうか分からないのに、そんな無責任なことできません。それよりアイスクリームの種類の種をカザフス領の果物を使ってくれるらしいですよ。良かったですね。あ、あのカボチャも試してみたらどうでしょう? 収穫祭限定品とか。国が豊かになると欲が出てくるでしょ。人間って人と違うものが欲しくなるんです。限定品良い響きでしょ。」ニヤリと大人の真似をして笑っているが、全く欲がないというか、あんなんで生き馬の目を抜くような世の中生きていけるのか?


「ハル様の利発さには頭が下がりますわ。もし、仮にこの先公爵様と縁が切れることがありましたら、是非わたくしどもの領地へ入らしてくださいませ。食客として大切にさせていただきますわ」


伯爵の言葉に無邪気にニコニコ笑っていたが、駄目だ 駄目だぞ。そんな可愛い顔を見せたらお前のような世間知らずな子供は、あっという間に食べられてしまうんだぞ!


「ナビファス伯爵、年端もいかぬ子供を誘惑するものではありませんよ。ハルの世話は我がカザフス領でしっかりと面倒を見るつもりでおりますから。絶対縁は切りません」


「あ~ら、怖いお顔。さて、公爵様の気分を損ねて今後ハル様と会わせて貰えないなんて事になったら大変だわ。ここは我が領地もハル様の幸せを願う同盟を結ばせていただくことにしますわ」


なるほど。 ハルの幸せを願う為の同盟関係を結ぶのは良い案だ。幾つかの正常な領地経営をしている領主と強固な繋がりができれば、ハルが今後理不尽に苦しめられる懸念材料も減らせるかもしれない。


「そうか。それは素晴らしい。」


「ふふ、そろそろ良い時間だわね。ハル様、お昼はわたくしどもの牛でバーベキューにしましょう。先日 肉牛の買付で東の国へ出掛けてきましたの。そこでバーベキューというもので歓待を受けましたのよ。ハル様はご存じかしら?」


歩きながら(お子ちゃま抱っこなので、景色だけ移動な感じですが)伯爵の東の国の話を聞く。


「はい。ボクの居た国ではキャンプ場や庭のある家でそうしたことをします。」


「ええ、わたくしが伺った先では海を見ながらでしたわ。肉の焼ける白い煙のなかでのそれでしたが、とても楽しくてね。わたくし外での立食は初めてでしたのよ。それも不器用に切った肉や野菜を焼いて、あ、そうそう イカを頂きましたのよ。イカ ご存じ?」


東の国の訪問がとっても楽しかったんだろう事が伯爵の熱を持った眼差しから伝わってきます。バーベキュー 楽しいですよね。海鮮焼きは残念ながら経験ないのですが、イカは好きですよ。


「はい。海のものを焼くのを わ、ボクの国では海鮮焼きと言います。イカや貝が主ですがバーベキュでは無礼講なのでなんでも大丈夫なんです。ステーキ肉だったりソーセージだったり、いろいろです」


子供の頃近所の人たちとよくバーベキューをしていた。地区の運動会の後や夏祭りの夕方、みんなで冷蔵庫の中のものを持ち寄って焼いて食べていた。キャベツにくるんだソーセージは肉汁が良い感じでキャベツに染みて美味しかった。締めの焼きそばは結局みんなお腹一杯になって罰ゲームみたいなカリカリを器に装って翌日の朝ごはん用に持ち帰ったっけ。今思うと子供の頃住んでいた村は貧しかったんだと思う。スーパーは週に二回の販売車だったし、小学校も片道一時間の山越え。雨の日は危ないからお休みして、そうそう修学旅行はみんなでジャージ。緑色のジャージでテーマパークを一列行進してたわ。引率の校長先生がピリピリしてて、やたら点呼をとりたがって担任の先生がげんなりしてたんだ。笑えるよね。


「丁度良かったわ。あなた」


「やぁ、良いタイミングだよ。火も落ち着いてきたからいつでも始められるよ。」


うっわ。この人も大きい。

領主様と良い勝負かな。

領主様の朱色の前髪が風に揺れてチラチラとピンク色の瞳が覗く。領主様は御自分の瞳の色を気にしているようだけど、派手な髪の色の方がずーっと気になると思うのですよ。手を伸ばして前髪を撫でてみる。サラサラだね。染色では無さそう。石造りのバーベキュセットの前に居る人の髪も空色とか。この世界の人たちはなかなかにカラフルさんですなぁ。


「ハル様。主様が困っておられます」


ん? あ、前髪摘まんだままでした。サッサッサと。

「ご免なさい。この世界の人たちの髪の色が綺麗だなぁって思っちゃって。勝手に触ってご免なさい」


「あ、イヤ、うん。」


ちょっと対応に困る返しだけど、怒ってなさそうだから良しとしましょう。


「ハハ……。これは面白いものを見られましたな。フィーナ。僕のこと紹介してくれないかい。」


「あら、ご免なさい。ハル様、此方 わたくしの連れ合いですの。民の者ですが良しなに引き回してあげてくださいませ。」


民の者は貴族じゃないってことかな? 女性で伯爵を継いでいるってことだからお婿さんだね。


「初めまして。ヴィサワーゴ公爵様カザフス領にてお世話になっていますハルです。今日はナビファス伯爵様の牧場に見学させていただきに来ました。とても楽しい時間を過ごさせていただいています。有り難う御座います。」


お子ちゃま抱っこだけど挨拶できたよ。やっぱり生温い視線をもらったけどね。わたしは悪くないはず。苦情はこの何でか知らないけどドヤ顔してる男に言っとくれ。


「ご丁寧な挨拶、プッ、あ、ありがとぅ、ございま、、プッハァー。何でジェレッドが どうだ みたいな顔になってるわけ? おかしいでしょ」



うん。なんか色々おかしいけど、バーベキュは楽しかったから良しとしましょう。


あ、ワイバーン ちゃんと見せて貰ってない‼


そう気が付いたのは翌朝になってからなのでした……。




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