一話 転生と約束
「くそっ...失敗だ!!」
いつからだっただろうか?とある事で記憶がなくなり、空虚な人生に再び熱を取り戻したのは。
このゲームを始めた時?国を救った時?まるで自分のようなキャラでプレイして魔王を倒した時?ちがう、
――彼女に出会ってからだ――
彼女は女神のように美しく可憐で、気高かく、その姿に似つかわしくない最高峰の力を持っているのと同時にその力は激しく制限されている中で必死に希望を、未来を、人々の命を紡いでいく宿命を背負い、それが終わるときは死の時のみ、俺はそんな彼女に恋...いや愛を捧げるのだった。
しかし生き写しでは彼女は救われない、長くて僅か16歳で命を落とす運命でそれ以上は絶対に生きれない、そういう設定だからだ。
運営にお問い合わせした時に絶対に不可能だと言ってさえいればここまで必死に、生活を捧げるとは行かないまでもこうなることは無かった、こうまでこのゲームに入り込んでいるのは自分にも分からない、だが確かなことは彼女に愛を捧げている事だ。
「弁当買ってくるか…」
次の挑戦の為に歩きながら考えてたのがいけなかったのだろうか?青になったからと信号を渡ろうとした時
キキィィィィィィィィッッ!!!!!
「あっ…」
そうして俺の人生は幕を閉じた、考える間もなく車は迫り、跳ね飛ばされる。
血が流れている、どこか他人事のように感じながらそう言えば痛みがないなと考える。
痛みがないのは単純に損傷が激しすぎて痛みが完全にマヒしたからである、段々と意識が落ちていく中、ただ一つだけ考える。
(彼女を助けたかった...)
たったそれだけを思い、そして――
ーー意識を落とすーー
『自分』が分からなくなるほど沈んでいく意識の中、光を見た気がした、俺はその光に包まれたかもしれないしさらに深く、深く沈んでいったのかもしれない、ただ確かなことは俺は新たな命に宿ったということだ。
そして一気に意識が覚醒する、その瞬間俺は大いに困惑する。
「あれ?おれ...車に轢かれたんじゃ...」
いや教会に『加護』を貰いに...
「え?いや俺は...誰だ?」
「どうしましたか?イージス」
声が響く、それは俺の知らない言語。
「あっ...グゥあぁぁああぁぁあぁあああッッ!!」
途端に脳に杭が撃たれているような痛みが起き、たまらず身もだえ、少しでも痛みを逃がすために叫ぶ。
「アァああああぁっぁあぁぁぁぁぁぁああああ――」
それは途中で途切れる、俺の意識が無くなることによって。
もう一度目が覚める、今度はベットの上で先程までの頭の痛みはないがズキズキと未だに痛んでいた。
「ここは...?」
身体は何故か重く、俺の口から出た言葉は知らない言語だった。
不思議に思いながらもどこか普通に思っている部分がある、それを確かめようとするもこの部屋唯一の扉が開かれる。
「あっ、起きましたか、イージス」
一瞬驚きの表情を作ったがすぐさま元に戻る、これまた知らない言語だが何故か意味は理解できた。
それよりも一つ気になる言葉が出てきた。
「イー...ジス...?」
それは俺が死ぬ直前まで考えていたゲームの操作キャラの名前だった、しかし俺には妙にその名前がしっくりときて言い知れない気持ち悪さが少しこみあがって来る。
「どうしましたか?あなたの名前ですよ?」
「そう...ですね...あの、ここはどこですか?」
「教会ですよ?覚えてないのですか?」
俺は頷く、教会に来た記憶は一切ない、でもなぜか俺の頭は冷静だ、どこか納得しているふしもある。
「ふむ...記憶はありますか?」
神父の瞳が少し光り、青の目から水色の目に変わる、それに驚きつつも答える。
「ありま...いや...わかり、ません」
とっさにそう言ったがどこか違う気がする、最終的にわからないと答えた。
神父は少しの間俺の目を見つめ、やがて眼が元の青に戻っていく、その目は悲しそうな瞳だ。
「そうですか...あなたは4年ほど前に私の教会に拾われまして、一日前の神託の儀で気絶をしていたのです」
不思議とそのことを受け止め、納得しながら『なぜそうなったか?』という気持ちが湧く。
「記憶を失った理由は簡単です、あなたが授かった『加護』が劣等の証の『聖の力』を授かったのですから」
神父はどこまでも悲しそうな顔で、その顔は俺の身を案じている顔だ。
「この都市から出て行ってもらいます...」
「え...?」
俺は二重の意味で驚く、劣等教義を護りの証と言われたのとあのゲームと似すぎているからだ。
「本当はこんな小さな子供にこんなことはしたくないのですがこの都市ではあなたは暮らせません...」
俺のこの記憶が正しければこの都市は魔の神々を信仰する者が多く、『聖の力』の『加護』を授かった魔族、亜人は魔の神々を裏切った者として酷い迫害を受けてこの都市では暮らせれない、普通にここに居座り続けると死ぬことになるだろう。
ちなみになぜ神父は俺の心配をしてくれるかというと神父はこの都市では数少ない混沌の神々を信仰している者でその教義の守りながら細々と孤児院を運営している。
「幸いにもこの教会で『加護の儀式』を行ったので他にはばれていません、イージス、今すぐこの都市から逃げなさい」
その瞳からは固い決意と覚悟が見て取れる、やはりその顔は俺の為にやってくれていると分かる優しくとも厳しい表情だ。
「...わかり、ました」
肯定の言葉に少々驚きながらも矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
「酷なことだとはわかっています...明日朝早く私と共に都市の外に向かい、そこであなたを途中まで見送ります、いいですか?絶対に何が何でも戻ってきてはいけませんよ、そうなれば最悪牢屋に入れられて荷物をすべて取られて放り出されますから」
「すでに荷造りは済ませてあるので明日までこの部屋から出ないでくださいね、記憶がないと思いますけど彼女との別れの挨拶は出来ますよ」
「分かりました、その...質問三つほどいいですか?」
神父は無言で頷く。
「この国の名前と大陸の名前を教えてください」
「セメタリ―王国とアルカナ大陸と言います」
やはり俺が知っているゲームの国と大陸の名前が同じだ、だがまだ確定ではない。
「出来ればですけど混沌の神々の聖書を荷物に入れてくれませんか?」
混沌の神々の聖書は俺が知っているゲームの通りならばかなり神代の歴史の通りに書かれている。
「簡易版であれば可能です、厚さは...私の手ぐらいです」
「ありがとうございます、最後にあなたと彼女の名前を教えてください」
少し悲しそうな顔をした後名を告げる。
「...私はエルダーと言って彼女...あなたの幼馴染みがセラフと言います」
「...分かりました、少し寝て待ってます」
「休めるのは今日ぐらいなのでしっかりと寝てくださいね」
そしてエルダー神父は部屋から出ていく、その姿を見送りながら俺は目を閉じる、すると眠気はやってきてひと時の眠りにつく。
寝るまでの間、俺は一つの事だけを考えていた、それは簡単だ
―この世界に彼女がいるならば絶対に守ってみせると―
「ん...?」
人の気配がして目が覚める、頭の痛みはだいぶ良くなっており冴えている。
「あ、ごめん起きた?」
そこに居たのは8歳...俺と同い年の女の子がいる。
その子は綺麗な黒髪に赤い目をしており、将来は絶対美人になると思う容姿だ。
「誰だ...?」
彼女は悲しそうな顔をする、もちろん俺が覚えていないからだろう。
「セラフだよ...覚えてないんだね...」
その悲しそうな顔を見ていると何故だか胸が締め付けられる、記憶ではなく心で覚えているのだろうか。
「慰めにしかならないと思うがセラフの事は心が知っている、って言えばいいのか分からないが君が悲しむのは見たくない」
真っ直ぐと見つめる俺、そんな様子に彼女は驚き、恥じらう。
「わかった...」
「あぁ、ありがとう」
そう言って頭をなでる、彼女はすぐ顔を赤くして手を払う。
「ごめん、つい、な」
「嫌じゃないけど...は、恥ずかしいの...」
彼女は顔を赤く染め、そんなセラフをかわいいと感じる、...そんな彼女にもうほぼあえなくなることが寂しいな...
「ははは......セラフ、二つ大事な話がある」
しばらく間を開けてから話し出す、このことを伝えなければいけない気がするからだ。
「なに...?」
その目は不安げだ。
「俺はこの都市から出ていくことになったのは知ってるよな?俺がいなくなった後絶対に俺の話はしないでくれ、場合によってはセラフの命に関わるからな」
「あ...わ、分かった...」
この時で最後かもしれないということがセラフの心を苦しめる、しかし俺はさらに苦しめることを言わなければならない。
「...セラフ、僅かな事しか言えないが、俺には護るべき女性...いや護りたい女性がいる、だから俺は強くならなければならない、その過程で俺は死んでしまうかもしれないかもしれない......だからセラフ、俺の事は忘れてくれ」
「え...い、いやだよ...忘れたくない...」
彼女はその瞳に涙を溜める、泣かないように頑張っていたついに大粒の涙が瞳から落ちていく。
「...すまないセラフ...俺は、俺はセラフが知っているイージスではないんだ」
その瞳から逃げるように俺はエルダー神父にだけ話しておこうと持っていたことを告げる。
「き、記憶の、事...?」
聡い子だと思う、ここで泣いたって別れることに変わりはないと分かっているからだろうか、泣きながらも俺の話を聞く。
「違う、俺には別の人間の記憶があるんだ」
「う、うそ...あなたは誰なの...」
「...分からない、たぶんだが俺とイージスの人格は混ざり合ったんだと思う」
「そう...なのね...」
俺の知ってる魔法ではこんなことは出来ないがまだ魔法の事やいろんなことを知らない彼女は半信半疑ながらも信じる。
「前の俺は分からないが俺はこんな時に嘘は言わない、俺は...俺はセラフが知ってるイージスではないんだ...」
心がチクチクと苦しい、セラフを突き放すのは嫌だが俺は絶対に彼女がいるとすれば会って護るのだ、これだけは譲れない。
「だからもう俺の事は忘れてくれ...」
「いやだよ...そんなの嫌だよぉ」
セラフはぽたぽたと涙を落としていく、それほどまでに彼女は俺の事を好きなのだろうか...
...これに応えなければ俺はこの世界に居る資格はない。
「...わかった、セラフがもしも、もしもどうしても俺に会いたくなったら13歳の春の始まりにドラニカ王立学園に来てほしい、俺はそこにいる」
彼女を抱きしめる、静かに俺の胸の中で涙を流し、俺はそれを受け止める、この腕のぬくもりを忘れないために。
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