第七話
八月十三日 秋葉原人体自然発火事件
東京都千代田区の秋葉原駅前にて、複数人の男女が突如として発火した。
被害者の中に、ライターなどの火種を所持している人物はおらず、未だ発火原因は謎。
被害者はその日、東京都港区で行われていたコミックマーケットに参加しており、いずれも東京ビッグサイトを出た後、秋葉原へとそのまま買い物に来ていた。
幸い死者は出ていないが、被害者はその日に買ったものが一部、または完全焼失してしまったことによる精神的ショックが大きいものと見られる。
ネット上では心配の声と同数かそれ以上にネタとして取り上げている投稿も多い。
『ついにリアル炎上を迎えてしまったわけですねわかります』
『コミックマーケットなんてもの、オリンピックを堺に中止にすればよかったのに、なんで復活させちゃったのか』
『オタクって夏場湯気出てるよね。実はいつも火をたいてるんじゃね』
『皮燃やす前に体の脂肪の方を燃やしてやれよ』等。
今あげたのは極端な例だが、被害者がオタクだったという点と、死者や重傷者は出ていないという点で軽い気持ちでイジれる余裕があるのだろう。
九月二十日 池袋連続怪奇現象
東京都豊島区で、九月二十日正午から十三時に掛けて怪奇現象の目撃証言が相次いだ。
いずれも豊島区内で発生しており、その中でも池袋駅周辺での目撃が目立っている。
複数のマンホールが突然飛び上がったり。
いけふくろうが飛び去ったり。
一つのビルの窓ガラスが一斉に割れたなんて話もある。
そしてその割れた窓ガラスには、森や海、洞窟のようなその場には無い風景が写っていて、床には実際に葉っぱや砂等が散っていたという噂まで。
その他にも停電や街中の機械のショート。地鳴り。
まるでオカルト街と言えてしまうようなオンパレードだったらしい。
証拠となる写真や動画はTwicker等のSNSに複数上がっている。
僕は専門家じゃないから突き詰めれば何か出るかもしれないが、軽く調べた限り合成写真の線はうすそうだ。
ちなみにいけふくろうは現在は元の場所へと戻って来ている。
十月三十一日 渋谷区フラッシュ騒動
東京都渋谷区にて十月三十一日零時直後、とてつもなく強い白い光が発生した。
まるで昼間のような強い光が突如として発生し、それは次第に強くなり目を開けていられないほどにまで発達した。
この現象が目撃されたのは渋谷区内のみに止まり、すぐ隣の区民の目撃者の証言によると、まるで渋谷を包むようにドーム状に光が発生していたと言う。
ソースの動画はネットにも上がり、ニュースなどにも取り上げられた。
原因は今の所不明だが、交通機関にも多大な影響が予想されるため、急ぎ調査を進める方針にあるという。
◇
僕的にここ数ヶ月の事件を纏めた電子板を眺めつつ、新しく発生した東京都未成年集団失踪事件の内容を要約してまとめる作業を部室のノートPCで行っている。
いくらスマートデバイスが発達したとはいえ、所詮は携帯デバイス。PCに成り代わることはない。
ネットニュースやまとめブログ、αちゃんねるで情報を収集するのは僕の日課だ。
こうしてまとめた情報を見てみいると、今回の失踪事件は前三つと比べ物にならないぐらい起こっている事件のレベルが高いように思う。
なんせ今まで負傷者は出ても死者は出ていなかったわけで。
でも今回、既に行方不明者一人が死体となり発見されており、制服や子供服が路地裏で見つかっているって話もある。その服を着ていたであろう人間の死体が上がるのには、そう時間はかからないだろう。
そのうち消えた六百六十六の被害者全員が発見されると僕は思っている。それもそう遠くないうちに。
ニュースでは死体の発見アナウンスこそあったものの、服とゼリー状のなにかの情報は報道されなかった。まるでそれらの内容を避けているかのようで、気持ち悪い。
「なーんかきな臭いんだよね。オカルトってか陰謀的な? まぁ同じようなもんだけど」
ネットでは神隠しって噂もあったかな。それに加えて『とおりゃんせ』の歌詞の公開。これはまだごく一部の人間しか知らないだろうけど。
まとめ記事を見る人は多いだろうけど、そのコメント欄まで目を通すような暇人は少ないだろう。
これはもう超常現象以外の何者でもないでしょ。これは僕たちの時代が来たのでは?
「だって死亡した男性の付近に落ちていた凶器と思われる刃物からは本人以外の指紋は見つけられなかったって話だし、これはマインドコントロールによる自殺的な?」
もしかしたら洗脳なんてない単純な集団自殺なんて可能性もある。追いやられた人間の最後の足掻きとして世間をざわつかせるみたいな?
流石にターゲットが未成年に限定されてるからそれはないか。
あれ、洗脳されて自殺した場合って自殺になるんだっけ、他殺になるんだっけ。
ちょっと気になって調べてみると、だいぶ前にロシアで行われた大規模な洗脳による自殺事例がヒットした。死者は百人を超え、社会問題にまで発展してたらしい。
「全然知らなかったな」
死亡者の大半は、あるSNS上でゲームに参加していたという。
これは洗脳の手法としては一般的なものらしい。ネットに依存する現代社会においてこれほど都合のいい方法もないだろう。
「100人超えの洗脳死者……なにか関係ある――わけないよね。この事件だって結構前の記事だし」
それでもちょっと気になって公開されている行方不明者のSNSアカウントを検索してみる。一部の失踪者の家族が情報を求めてSNSを活用していたからすぐ見つかったが、特におかしい言動はない。
なんなら行方不明になる直前まで投稿している人までいる。それも他愛もない呟き。
というか家族にSNS覗かれるとか絶対嫌なんですけど。死体蹴りと言っても過言ではない。僕なら生きてても帰ってきたくなくなるよ。
「はいはい関係なーし。終わり、解散!」
「相変わらず独り言多い奴だな。丸聞こえだからあんま声に出さないほうがいいと思うぞ。内容も内容なんだから通報されても文句言えない」
「キョーヤは家でもこんな感じだからね―。もう治らないと思うよ。あはは」
「笑い事じゃないよ⁉︎ 気付いてるなら言ってよ!」
失礼なことを言いながらガラッとドアを開けて遥と和人が部室に入ってくる。
「というか、考えは声に出したほうがまとめやすいって言うし、みんな積極的に声に出していくべきだと思うわけだが。そう思わない?」
僕の言葉を華麗にスルーしてパイプ椅子を引き腰掛ける。
「あれ、ゆーにゃんは部活もサボり?」
遥が部室を見回しながら言う。
「そ。まぁ見た目通りマイペースだからね。それに強制参加な体育会系の部活でもないし」
何より今日は用事があるって僕に告げて帰っていった。
「まー部長のお前がいいならそれでいいけどさ。それにしても北上に用事って珍しいな」
「そうだっけ? むしろ急用とかでいなくなること多かった気がしてるけど……僕の気のせい?」
まあ、急用がほんとに急用なのかは知らないけど。サボる口実か、それとも一人でひっそりと情報収集してるとかもあるかもしれない。
僕はマウンテンデューを一口すすると再びキーボードを叩き始める。
「そういえば未成年集団失踪事件はもうまとめ始めてるのか?」
「もちろん。僕を侮ってもらっちゃ困る」
電子板の方に視線を向けると、遥と和人もそれにつられて視線を向けた。
「さすが仕事が早いことで。この暇人め」
なんで僕が罵られているんだろうか。むしろ褒めて然るべき場面じゃなかった?
「暇人なんじゃなくてこれが趣味なんですけど。和人こそいっつも暇してるくせにネタまとめるのすっごい遅いよね。僕より早くまとめて、僕の方手伝ってくれてもいいんじゃない?」
和人はタイピングがあまり得意ではないらしい。スマホ世代はこれだから。フリック入力じゃやはり非効率だ。何より社会に出たときに絶対にこまる。接客業とかなら良いかもしれないけど。
僕の言葉に少しムスッとしながらも、電子黒板に書いてある内容を確認し始めた。