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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
一章 そして、霧が彼らの日常を侵し始める。
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第六話

 遥と別れて自分の教室へ向かう。僕と優希が同じクラス、和人、遥はそれぞれ別クラスだ。

 開きっぱなしの教室のドアをくぐり自分の席に着くと、見計らったように優希からメッセージが届く。

 教室の中を見回してみるが、優希の姿は見当たらない。もしかしたらサボりかもしれない。

 たまに消えるんだよなぁ。流石に授業には出てた方がいいと思うんだけど、そこまでお節介になるつもりもないのでなにも言わない。


《そういえば今週末の予定忘れてないよね?》


 今週末の予定……なんだっけ。

 何かあったことは覚えてるけどなんの用事だったのかがいまいち思い出せない。

 そんな僕の様子を見てかもう一文。いやおかしいよね教室にいないんだから。


《秋葉原のUDXでやる最新VRハードの試遊イベント》

《忘れてたな?》

《あーそれだ思い出した。ちゃんと予定は開けてあるから大丈夫》


 数年前にアニメ等を筆頭に一時的なブームとなっていたVRゲーム。

 当時は最新ゲーム機などに外付けするものなども出て勢いがあったが、今となっては完全に下火だ。

 VRChat等に一定層いるが、その程度。

 何よりMRデバイスであるMirageに完全に負けてしまっているのが問題だった。まぁMRとVRを比べるのも酷な話だが。

 その正当進化ハードとして開発中の『G.A.T.E』の試遊イベントが今週末行われる。

 “Galaxy Augmented Travel Entrance”の頭文字を取ったこの『G.A.T.E』の今までと違うところは、コントローラー等の周辺機器が一切必要ないという点。

 あくまで脳波をキャッチして機械が読み取れる形の電気信号に置き換え、仮想の肉体を動かすらしい。

 外付けハードの脳への接続という面ではMirageも行なっていることではあるので不可能ではないのだろう。実際Mirageの開発元も技術提携しているらしい。

 未だに多くを明かしていない謎の多いハードだが、週末のイベントでいろいろなことが発表されるという。そう発表されたのが約一年半前のことだ。

 そしてネットでのイベント参加券の抽選販売が半年前に行われ、ものすごい倍率の中抽選が行われた。残念ながら僕は落選したわけだけど。

 幸運なことに優希が当選したことによって、同行者として参加する権利を見事獲得したわけですよ。まさに優希様様って感じ。

 まぁ忘れてたわけだけどね。


《君絶対忘れてたでしょ。君がどうしてもって泣きついてくるから分けてあげたのに》

《泣きついてはないでしょ。頼みこみはしたけど》


 仮想パネルを震える指が弾く。口元が引きつっているのを感じる。

 図星を突かれるのはやはり面白くない。


《まぁいいけど》

《昼飯ぐらいおごってよね》

《わかってるって》

《それだけの価値は余裕であるからね》


 なんせ世界が注目してるハードだ。その先行試遊会が日本でやるなんてこれはもう行くしかないでしょ。

 しかもTGSみたいな超巨大イベントでのお披露目ではなく秋葉原で。しかも人数制限のあるイベント。まさに奇跡だね。


《当日は秋葉原駅で待ち合わせよう。現地だといろいろめんどくさそう》


 チケットをもっていることが会場でしられたら熾烈な争いが繰り広げられるに決まってる。もちろん身分証などの提示が必須で、偽装や転売ヤー対策はされているが、それでも同行者として入ることができるわけだからね。

 そういうことがあるのは目に見えて分かってただろうに、なぜ同行者一人まで許可したんだろうか。僕はその同行者なので深く追求はしないが、結局は同行者券が転売されているわけだからね。

 そんなことを思いながら了解の返事を確認すると、すでに始まっていた午後の授業へと視線を向けた。

 授業は退屈だ。もちろん簡単すぎてとかそういうことではない。むしろ授業内容は半分ほど理解できていない。

 それより僕は今、都内で連続して起こっている事件の方にすべての興味が持っていかれている。心ここにあらずなのだ。しかも、今まで起きている事件、そのすべてが一寸でもずれれば自分の身に降り注いでもおかしくないという。遠くて近い事件。

 イベントの方も開催中止なんて話も出たほどだ。実際いくつかのイベントは潰れていて、イベント関係の仕事をしている人の悲鳴がネットでは多く見られた。

 事実、秋葉原で事件が起きた時には、一度開催未定となってしまっていたが、なんとか開催にこぎつけたらしい。

 もし開催中止となっていたら世界中から大ブーイングが起き、日本が袋たたきになっていたまである。

 秋葉原集団人体自然発火事件の初期段階では『G.A.T.E』、並びにMirage否定派による工作なんじゃないかという噂もたった。

 部室には事件をびっしりまとめてある電子板も作った。不謹慎な気もするが、とても興味が引かれている。人間ってやつは好奇心には勝てない生き物なわけ。

 自分に言い訳をしながら、僕は机の下でMirageをタップする。Mirageの出す映像は自分以外には基本的に見えないようになっている。つまりはハンドジェスチャーにさえ気をつければ、ほぼほぼばれないってこと。

 一部の学校や施設では、Mirageの電波を妨害する仕組みを導入しているらしいが、うちの学校には関係ない。

 まぁもちろん盗撮盗聴の類ができないように、そこら辺の機能の使用時には音がでたりする。

 現状ではスマートフォンの時のような消音ツールなども出回っていない。

 本当か嘘か、Mirageはシステム的に第三者がプログラムを組むのが非常に困難なものになっているらしい。

 ソシャゲなども基本配信がなく、ゲームがしたい場合はスマホと二台持ちにするか、リモートするしかないのが現状だ。

 Mirageを起動すると、一件の通知が届いていた。

 通知元は、僕がほそぼそとやっている超常現象研究部のブログだ。そのブログにダイレクトメッセージが来ていた。

 このブログは自慢ではないが、知名度はとても薄い。薄いというよりほぼ無いに等しい。

 なにせ名目上学内の部活動としてブログをやっているのに、学内でさえ知っている人間なんかいるの? ってレベルだからね。

 まぁ特に宣伝とかしてるわけじゃないから仕方ないけど。

 珍しいメッセージに期待を膨らませて開く。


「おぉ……うっそ。まじか」


 メッセージの内容に思わず声が漏れた。

 差出人はなんと、今僕の中で話題沸騰中の『UI』氏だ。


――お初です。中野初衣なかのういと申します。

超自然ブログ『オカルティア』管理人様ならもう既にIronRabbit様のブログ『セカイノオワリ』に書き込んだ私のコメントをご覧になられたでしょうか。

UIという名前で書き込んでいます。

あの場に書き込んだことはすべて真実です。

警察は信用できません。何かを隠しているように思います。

そこで、超常現象を扱っていて、同じ学校に通っている身近な存在である管理人様に一度相談にのって頂きたいと思い、メッセージを遅らせていただきました。

私事で申し訳ないのですが、現在外出することが難しいので、近いうちに伺う旨を伝えておきたいと思います。

兎月鏡夜さん。くれぐれもお気をつけてください。

中野初衣――


 と、以上がメッセージの内容になる。

 要約すると、オカルトマニアの僕に今回の件についての考えなんかを聞いて、相談したいという話。

 まぁ、僕も近場の被害者家族からなにか話を聞けたらいいなーとか思ってたからちょうどいい。

 流石にこっちから聞きに行くのは不謹慎極まりないからね。向こうからアポ取ってくれるなら万々歳なわけ。人助けだと逃げ道を作れるから遥に文句を言われる心配もない。

 といっても、僕はオカルト系好きだけど詳しいわけでももちろん専門家でもない。なんなら和人のほうが詳しいまである。

 そんな僕をわざわざ名指しするなんて変わり者なんだろうか。まぁ学校の先輩として近くで相談できる人間を探しているみたいなニュアンスだったけど。

 ここはひとつ、先輩として頼もしいところをみせなければ。

 ちょっと腑に落ちない部分もあるが、明確な日程や場所などが明記されているわけでもないので、僕にできることはただ待つことだけ。

 放課後の部活のネタができたと僕は頭の中で情報を整理することにした。

「はあ、僕ってなんて不謹慎なんだ」

 無意識に声に出てしまっていて、反射的に口元を抑える。

 僕の悪い癖だ。思っていたことをそのまま口に出してしまうことがある。

 不謹慎だと口に出してみたものの、僕の心は正直で、興奮を抑えきれずにいた。

 ニヤつく口を、必死に正す。

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