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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
一章 そして、霧が彼らの日常を侵し始める。
6/41

第五話

144.UI

私は今回の事件で行方不明になった被害者の家族で妹です。

テレビなどでは報道されていないようなのですが、先日記事にしていたお金の件

あのお金と一緒に手紙が一通入っていたんです。

姉の字ではありませんでした。

何故ニュースで取り上げられていないのか不思議です。


145.名無し兎

手紙の内容を載せろよ話はそれからだ。

まぁ本当にそんなものがあるのかは謎だけど


146.名無し兎

お姉さんの死をネタにして目立ちたいだけでしょ。そもそも姉なんていないに一票


147.名無し兎

てか問い合わせ窓口あるんだからそっちに投稿すればいいでしょ。それをわざわざこんなコメント欄に書くこと自体がおかしいと思いますが……。

目立ちたがりと思われてもしょうがないと思います


148.UI

姉は実在しますが、証明とか、難しいので信じてくれない人はそれでもいいです。

手紙には、『とおりゃんせ』の歌詞が書いてあるだけで他には何もありませんでした。

警察にも提出ましたが、なんの情報にもなりません。

どうかこの件に関しても取り扱ってください。よろしくお願いします。


「とおりゃんせの歌詞が書かれていた手紙、か」


 事の真相はどうあれ、事件に関してまた新しい情報が掴めた。

 僕の声に反応して遥が首をかしげるが、首を横に振ってなんでもないことを伝えるとすぐ口を動かし直した。そんなに頬張らなくてもと思いながらも、もきゅもきゅと口を小さく動かす遥を見ているとどこか和む。とても美味しそうに食べるんだよね遥って。


「あれ、そういえばお金って結局どういう話だったんだっけ」


 遥に聞こえない程度の声で呟いた。一応横目に遥を確認するが、特に気にした様子はない。

 僕はあやふやな知識を固めるために『セカイノオワリ』のバックナンバーを漁る。すると最近の記事なだけあってすぐに見つかった。

 どうやら行方不明者の家族の家に、出所不明の現金六百六十六万円が届けられていたという話らしい。

 ポストとかに届くのではなく、必ず直接室内の机等においていき、もちろんおいた現場を目撃した人物もいない。

 通報日前後で強盗事件が発生したという話も聞かない。

 最初は六百六十六というあからさまな数字から、おかしくなった家族や冷やかしの第三者が自演しているのかとも思われたが、警察への報告が相次いだことで、関連付けて捜査を始めたらしい。


「六百万って学生の僕からすればすごい大金だけど、冷静に考えると人一人の価値が六百六十六万円って、明らかにはした金なんですけど。順当に社会人になった人間なら二年も働けば稼げるレベルの金額じゃん」


 ネットの掲示板などを漁ると、僕と似たような意見が山のように出てくる。

 で、本題はこのお金に『とおりゃんせ』の歌詞が書かれた手紙が挟まっていたってところ。ニュースなんかでも今まで大きく取り上げられていなかったと思う。

 有名じゃないところまでは負いきれていないが、ネットで騒がれていないということは、そういうことだろう。


「そんなあからさまなことがあれば報道されてても良さそうなもんだけど」


 改めてニュースサイトや掲示板を展開して見てみるが、それっぽい単語は見当たらない

 代わりに『とおりゃんせ』の歌詞や『とおりゃんせ』に関する都市伝説じみた記載はたくさんヒットする。


 通りゃんせ 通りゃんせ             ここはどこの 細通じゃ

 天神さまの 細道じゃ              ちっと通して 下しゃんせ

 御用のないもの 通しゃせぬ           この子の七つの お祝いに

 お札を納めに まいります            行きはよいよい 帰りはこわい

 こわいながらも                 通りゃんせ 通りゃんせ

 

 このなんとも不思議な歌詞には、様々な噂がある。まぁここでは割愛するけど。

 その多くは、というかほぼ全てが恐怖を煽るような都市伝説だ。子供を生贄に捧げるための歌だという話が特に多い。


「生贄……」


 まさかこの現実でそんなファンタジーなことはないとは思う。とはいえ火のないところに煙は立たないとも言う。

 何より消えた人数が現在判明している限り666人、そして被害者家族への666万円の現金の提供。あからさますぎるが、宗教とはそういうものだ。悪魔的な宗教儀式のために必要な人さらいだとすれば、ありえない話じゃない。


「こういうことは和人のほうが詳しいか。後で聞いてみよう」

「あ、そういえばさ」


 いつの間にか食事を終えていたらしい遥が話しかけてきた。

 僕は首を傾けて遥の話を聞く。


「この学校にも今回の集団失踪の行方不明者っているらしいよ」


 思わず息を飲んだ。

 確かに今回の事件は東京都中の学生が対象となっていることを考えれば、僕たちの通う学校からも被害者が出ていてもおかしくない。

 なんでそんなことに気づかなかったんだろう。完全に盲点だった。

 これも人間の本能なのだろう。どこかで自分の周りでは大丈夫と思うその思い込みのせいで可能性の外にあった。


「ど、どっからそんな情報を持ってきたんだよ。僕全然知らなかったけど」

「ふっふっふ。女の子の情報網を侮らないほうがいいよー? というかキョーヤが友達いなさすぎてそういう話題にすらならないだけじゃない? 最近ゆーにゃん以外のクラスの子達と話とかした? あ、授業進行上ーとかそういうの意外で。世間話的な?」

「ぬぐぐぅ……」


 図星を突かれて言葉も出ない。

 僕の学内における情報網の薄さは理解はしているが、あらためて言われると少しくるもがある。


「い、いや、ほら和人と話してるじゃん情報なら十分――」

「和くんもそんな人付き合い大好き系じゃないじゃん。どっちかっていうと自分の世界の人みたいな」

「だ、だけど、無意味な話をしている連中と無意味に喋っていても仕方ないじゃないじゃん。こういう話をするなら和人と情報を交換したほうが――」

「はいはい。わかったからそんな必死にならなくてもいいよ? 私は、ちゃんとキョーヤのみかただからねー。あはっ」


 必死の弁明も容赦なく切り捨てられる。


「ぬぐっ……そんな目で僕を見るな。なんか悲しくなるだろ」


 あれ、もしかして僕って実は情報収集能力低い? 

 いやいやいやいや。学内限定のローカルコミュニティ内の情報なんてマスコミだって手に入れられないレベル。そういうもんだよ。

 どうせ話してる内容だってネット以上のものはない。それを誇張し面白おかしく話題のタネとしてまくだけだ。アフィブログより無意味。

 僕は一人小さく頷く。


「まーキョーヤの学内情報網の薄さはおいておいて。その失踪者だけど、私達の一つ上の学年だったみたい。それで、私達の一つ下には妹もいるらしいよ」


 ん? 妹とな。

 そういえばさっきの『UI』も失踪者の妹ですみたいなこと言ってたような。被害者には妹がいることが多い? これは大発見じゃないか? 僕以外誰も気づいていない共通点じゃ――


「はぁ……」


 ――そんなわけないか。ただの偶然か、もしくはは、UI本人か。

「で、その一年生の妹さんも、事件後からは学校には来てないみたい。親も心配して家で保護してるんじゃないかな」


 案外妹の方も――なんて考えが過るが、間一髪で押しとどまる。流石に不謹慎だ。適当に別の言葉に差し替える。


「まぁそうなるわな。むしろ僕たちだってこうして学校に来ていていいのか疑問なんだよね。学校側の危機感うすすぎ問題」


 まだどこに犯人がいるかわからないから気をつけて登下校しましょうとか言ってるだけで学校は通常通り。どうやって気をつければいいんだよって感じなわけだが。

 自粛命令を出してくれないかな……出してくれないよな。日本だもん。

 顔が割れてるわけでもなく、服装が特定出来ているわけでもない。さらに言えば男か女か、複数犯か単独犯なのかもわかっていない。何もわかっていないのだ。手がかりゼロ。

 学校側の甘すぎる警戒態勢を思うとがっくりくる。

 当然といえば当然だ。被害者は未成年オンリー、教員は成人。危機感が薄いのは仕方ないと言える。誰だって自分の身に起こりえないことには鈍感なものだ。

 背もたれに全体重を預けて天井を仰いだ。


「なんなら集団催眠とかの可能性だってあるし。まぁもしそうなら外部との接触を完全に立つしか予防策はないわけだけども。あ、いっそ引きこもる? 非常食とかも家にストックはあったよね、追加で買い込めば一月はひきこもれると思うよ」

「だーめ。キョーヤただでさえ外でないし光に当たらないんだから、学校にぐらいいかないと」


 こう、冗談に正論で返されると困ってしまう。


「だめかぁ……こういう一大事ぐらい――だめかあ」


 いいと思うんだよなぁ。だって人の生死がかかってるんだよ? この世の危機意識低すぎない?

 見上げた先には、私立高校だなと感じることのできる高い天井が広がる。派手派手しい照明に目を細めた。

 しばらくそうしていると予冷が響く。

 食堂のざわつきは一層激しくなり、ゆっくりと人が人の波に乗って食堂から排出されていった。

 まるで出荷だなと口に出しそうになり、飲み込む。


「さて、と。そろそろ僕たちも戻るかね」


Mirage本体のタッチパネルをタップすると、視界に広がっていた全てがフェードアウトする。


「だねー。流石にこれ以上ぼーっとしてると授業に遅れちゃうね」


 人の波が収まってきたところを見計らって僕たちも食堂を後にした。


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