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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
一章 そして、霧が彼らの日常を侵し始める。
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第四話

「ごめーん飲み物買ってたら遅くなっちゃったー」


 人混みでも長く綺麗な白髪はよく目立つ。

 両サイドで括った髪を、まるで生きているかのように跳ねさせながら遥が姿を見せる。

 薄いクリーム色のブレザーに、明るい青のチェック柄プリーツスカートが僕の学校での女子制服。控えめに言って可愛い。青色のリボンには黄色がアクセントカラーとして取り入れられている。

 この制服目当てで入学する生徒も少なくないとか何とか。

 遥はこの時期ブレザーを着ないで紺色のカーディガンを着ることが多い。学校指定のものではないらしいけど、特にお咎めはない。僕にも同じものを勧めてきたが、愛用のワインレッドのポンチョがあるので遠慮している。

 ちなみに男子制服は暗い青色のズボンになっている。ブレザーは基本的には同じ。聞いてないか。

 僕の隣に腰掛けると、不思議そうに首をかしげながら顔を覗き込んでくる。


「あーいや、今日の放課後、新宿駅付近の事件現場に足を運んでみようかなって話をしてたとこ。それより早く食べろよ。時間なくなるぞ」


 内容を聞くと、少し遥の顔が歪む。ふてくされている時の顔で、はぁ。と一つため息。


「あんま危ないことしないでよ? キョーヤの面倒見るのは私なんだからっ。全くもう。いただきます」


 この発言からわかるように、遥はあまり現地調査や検証なんかの体を使う作業を好まない。もちろん基本的には一緒にくることもない。

 でもまあ、それをする僕に口を挟んでくることはないので、あまり気にしてはいない。

 ちょっとした小言を漏らした後でスプーンを掴む。

 遥は日替わり定食ではなく麻婆丼を選んだらしい。

 これで一人を除きいつものメンバー、つまりは超常現象研究部のメンバーが揃った。三年生も一年生もいない。ほぼ身内の部活みたいなものだ。故に部費だって殆ど出ない。部屋がもらえてるだけでも感謝しなければいけない。

 つまりお高い呪いグッズなんて買っている場合ではないのだ。

 僕らはいつもここで集まって食事を取っている。いわゆるリア充という存在に近いのではないだろうか。そんなことないか。リア充は食堂に集まっている有象無象を藁人形で呪い殺すなんてことを真剣な顔で話さない。

 問題のもうひとりの部員――北上優希きたがみゆうきにも定期的に声をかけて入るのだが、どうしても人混みが嫌だとこの場に来たことは一度もない。

 なんなら昼休みに姿を見た覚えもない。

 以前どこに行っているのかと聞いたことがあるが、“別世界”などと言ってごまかされてしまった。

 プライドは高いしクールだし、便所飯しているとは思えないので、きっとどこかぼっちに優しいオアシスがあるに違いない。いつか聞き出したいものだ。

 屋上は鍵がかかってるし、昼休みに学外に出ることは許されていない。なら……だめだ。全然思いつかない。やっぱ便所飯?

 活動にはなかなかに協力的でキレる奴なのだが、それ故に惜しい。

 僕はMirageの画面をタップして浮き出た仮想モニターでチャット履歴を見返す。

 今日もさそってはみたのだが。


『人混みとかイラネ』


 と一瞥されてしまっている。その後は既読すらつかない。

 思わずため息が漏れた。

 僕も人に集団行動のあれこれを諭せるような人間じゃないけど、それでももう少しとは思ったりもするわけで。


「またゆーにゃんはパス?」


 僕の様子を伺って遥が尋ねる。察しが良いな。


「ああ、ほら」


 仮想モニターの外部観覧モードをオンにして遥にチャットログを見せる。


「まあ、ゆーにゃんらしいね。ちょっと寂しいなぁー」

「それな。諦めてるけど、一応声だけは定期的にかけるようにしてるよ。諦めてるけど」


 大事なことなので二回行ってしまった。

 一通り文面を見せた後、外部観覧モードを解除する。このモードは解像度が著しく落ちるしリフレッシュレートも安定しない上、たまに気分が悪くなるから長時間の使用はなるべく避けているのだ。

 僕と遥のやり取りを見て和人が茶化しに入る。


「まめだなあ鏡夜は。そんなに優希のことが好きかね、遥というものがありながら」

「はあ? そんなんじゃないって。僕は一部員として情報交換の場としてもこの場が使えたらいいなと思ってだな。昼休みはニュースの更新も多いし。それに遥は家族だ。そんなんじゃない」


 しまった。ちょっと早口になってしまった。これじゃ説得力が薄い。

 自分の名前が不意に出てきて首を傾げている遥は放っておく。


「わーったわーったって。ちょっと言ってみただけだろ全く」


 笑いながらゼリーの最後の一口を口の中に入れて和人が立ち上がる。


「そんじゃ俺はトイレ行って先教室戻ってるわ。次の授業移動教室だからな」

「おう。また部活で」

「じゃーねーまた後でー」


 僕らは小さく手を振って見送る。


「キョーヤも先に教室戻っててもいいよ?」

「いや、別に教室に戻って特にすることもないから待ってるよ」


 もしかしたら教室に戻っても僕の席はないかも知れないし。と続けそうになって、やめる。あまり卑屈な返しをすると引かれてしまう。


「えへへ、ありがと」


 そういうとまたゆっくりスプーンを動かし始める。

 昼休みの後半。そろそろ食堂から人が退散していき、むしろ教室のほうがうるさくなる時間だ。

 僕は椅子に浅く腰を掛けてTwickerのタイムラインを流し見する。

 集団失踪事件のことをTwickerでワード検索すると、やはり今朝の記事が話題になっていてトレンド入りまでしている。

 テレビのニュースなんかでも取り上げられたことで、思った以上の広がりを見せているが、やはり僕の知っている以上の情報はなさそう。

 こうしてみると改めてIronRabbit氏の現代社会に対する影響力がわかる。

 昨今のまとめブログといえばTwicker速報に成り下がっている部分があるが、その中でこのクオリティで記事を上げてくれるのはとても好感が持てる。そしてその内容もしっかりしているのがまた良い。

 今朝上がった記事にもコメントが溜まってきており、僕はそのコメントの中に面白いことを言ってる者がいないか見て時間を潰すことにする。

 といってもこういう胡散臭いまとめブログにコメントを残すような人間にまともな人間は少ないとは思うけど。

 けどまぁ暇つぶし程度にはなる。たまに掘り出し物の情報もあるし。


「ん? 何だこいつ」


 四ページ目のコメントまで来たところでスクロールする指が止まった。

 わざわざご丁寧にコテハンをつけて気になることをつぶやいている奴が目ついたのだ。ハンドルネーム『UI』を名乗るそいつは、どうやら失踪事件の被害者の妹らしい。


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