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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
一章 そして、霧が彼らの日常を侵し始める。
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第三話

 僕と遥は家から自転車で行ける距離にある新宿の高校に通ってる。

 進学校というわけでもない、ごく普通の高校。

 そこに通ってる生徒ももちろんその程度の人間が多いわけで、昼休みなどはとてつもなく騒がしい。と言っても休憩時間に騒がしいのはどんな進学校でもかわらないだろうけど。

 私立高校なだけあり、この学校には必要以上に大きな食堂がある。空間としては広いはずなのだが、余白を意識したソーシャルディスタンスデザインのおかげで日々席の取り合いが行われていたりいなかったり。

 僕はいつもここで食事を済ます。

 なんせここの食堂はとにかく安い。

 母も父も仕事が忙しく、父に関しては滅多に帰ってこない出稼ぎ族。金銭的に余裕があるのであれば、お弁当を作るより買った方が有意義な時間と言える。

 僕は母の時間をお金を使って浮かせているのだ。超親孝行なのではと自分では思っている。あまり理解されないが。


「それにしてもうるさいな……」


 これだけ安ければ当然沢山の生徒が押しかけるわけで、今日も食堂内はとても騒がしい。席の確保にも一苦労だ。

 それなりに広い空間。高い天井にはトップライトが設置されていて、燦々と輝く太陽からの光が差し込み、もう十一月も半ばだというのに食堂はほのかに暖かい。


「そんなに言うならコンビニでなにか買ってきて食べるとかすればいいだろ?」


 僕の独り言に口を挟んできたのは、正面の席に座っている男子生徒――宮坂和人みやさかかずとだ。超常現象研究部の部員で、まぁ一言でいえばオカルトマニアだ。

 数少ない僕の学校での話し相手でもある。


「嫌だよ。あ,いやコンビニ弁当を食べるのは別に嫌じゃないけど、昼休みに教室にいるとか地獄でしかないよって事」

「なんで? 自分の席の方が落ち着かない?」

「はぁ、教室に残ってるのなんてある程度のカーストにいるグループじゃないか。もしそんなのに目をつけられたらいやだ。イヤホンつけてるだけで難癖つけて来そうだし。そもそも昼休みの僕の席が僕の席じゃない可能性まである」


 グループで集まって飯を囲むために、他人の席を拝借している可能性は十二分にある。

 いつもいないヤツが急に教室にいると不都合が生まれて言いがかりをつけられるかもしれない。


「流石に言いがかりがすぎるんじゃ……いやお前のクラスのカースト事情はしらないけど」


 引き気味に答え、一つため息をつく。ため息を付きたいのはこっちだ。


「いつもの世界への戯言だよ。言ってないとこんな世界やってられない」

「あ、そう」


 和人は興味なさそうに切り捨てる。


「まあ、それに値段がぜんぜん違う。ここで食べれば、七百円はするであろうランチがたったの三百円で食べれるんだぞ。その恩恵は大きい。お金ないし」


 そう告げると、「結局は金かよ」という哀れみを含んだ視線を向けられた気がした。


「ま、俺は人混みとかきにしないタイプだし、お前が席をとっておいてくれるから楽でいいけどな。もし人混みが嫌いならいくら安くてもこんな人混みには――んー……来るかもな。普通に安くて味も最高だし。あ、じゃあ俺のお気に入りのわら人形と五寸釘でも使うか? 特別にタダ、無料で使わせてやるよ」

「……持ってるの? というかそれ、部費で買ったやつだろ」


 しれっと物騒なことを言う和人にドン引きする。


「いや、冗談だって……つっても最近じゃ呪いの道具もアプリ化されてるけどな。いい時代になったもんだよな」

「まぁ、流石に僕は人殺しするほどここの食事に執着はしてないよ」

「そりゃ残念。せっかくそういう類いの部活なんだし、もっといいのが経費で落ちるんじゃないかとちょっと期待したんだけどな。本場の呪いセットあれ結構高いんだよ……買って部室に飾っとこうぜ――って冗談だよそんな目で見るな!」


 肩を落とす和人は、果たして本当に冗談で言っていたのだろうか。たまに本気で言ってるんじゃないかとおもう時がある。

 こいつが犯罪を犯したなら、僕はきっと“いつかやると思ってました”と証言することだろう。リアルで行ってみたいセリフランキング上位だよね。実際の事情徴収なんてされたらキョドってそんな事言えなさそうだけど。

 今なおぶつぶつと呟きながらMirageを操作して呪術道具の類を調べているであろう和人を現実に引き戻すため、僕は咳払いを一つして話題を変える。


「そういえば和人。例の件で送った記事、読んだ?」

「ん? あぁ、おう。読んだ読んだよ。相変わらずどこからそんな情報とか写真とか引っ張ってくるんだよって感じだよなlronRabbit。というか、あんな写真直接貼り付けていいのかよ。さすがにちょっと引いたぞ」


 『あんな写真』とは、多分少年の死体の写真だろう。軽いモザイク処理は行われてていたが、それはほんとに控えめなもので、目を凝らせば見えてしまう。

 なんならあの程度なら解析班は元画像を復元するだろう。

 流石に倫理的にアウトなようで、昼前には危ない写真はきれいに削除されていた。

 もちろん魚拓は取ってある。自分でやっていてなんだが、一度ネットにあがった画像は完全削除は難しい。

 Twickerなどではすでに多くの無断転載が確認できている。アフィブロガーも必死だった。

 事件の内容はもちろん、消された画像についての詳細や、そんなグロ画像を平然と載せるlronRabbit氏を叩くものまである。一種の祭り状態だ。


「人のソースで記事書いててよく言うよ」

「ん? なんか言ったか?」


 ボソリと呟いた僕の言葉を和人が拾うが、僕は何でもないと首を横に振る。

 まぁ、そこまで含めてlronRabbit氏の思惑どおりなのではないかと僕は思っているけど。

 情報の拡散。これは非常に大事なことだ。

 いくら有益な情報でも人目につかなければ意味がない。僕も見習いたい。

 それが炎上マーケティングだとしても、成功していればそれでなんの問題もない。それを僻むのは自分の無能さをひけらかすのと変わらない。

 自分のサイトからは画像を削除することで、BANを避け、だがネットの特性を利用し拡散する。

 さらに言えば、アフィブロガーがIronRabbit氏を批判すればするほどに彼という存在の認知度が上がる。認知度が上がれば当然次回はアフィブロガーからではなく本家を見てくれる可能性も上がるだろう。

 情報は広まるにつれ誤った認識が発生する。

 情報をより正確に知ってもらうには、やはり大元を辿ることが一番なのだ。


「でも、これでだいぶこの事件も不可解なことが増えてきた。記事最後に書いてあった子供服と制服。それからゼリー状のなにかが散乱していたってやつとか」

「それな。何なんだろうなゼリー状のなにかって」


 和人が魚のフライの最後の一切れを口に運びながら言う。


「さぁ。でも死体近くに散乱していたものなんだから、何か関係はしてると思う」


 事件現場にあるものといえば、血や肉片、精々胃の中に入っていたものぐらいだろう。ゼリー状の散乱物なんて想像つかない。死の直前にゼリーを食べたとも思えないし。


「だよな。てか、この件ってもうニュースとかでも取り上げられてるんだったか?」

「ああ、昼前にはトップニュースに上がってたよ。死体も行方不明になっていた子供の一人だって公式に確認が取れてたはず確か名前は――三橋祐太みつはしゆうただったかな」


 僕がいうと、和人は呆れたように肩を竦めた。


「なにさ」

「いや、クラスメイトの顔と名前は未だ一致しないのに、仏の名前は覚えれるんだな」

「う、うるさいな! 興味のないクラスメイトなんて覚えるだけ無駄でしょ。記憶領域は効率よく使わないと」

「わかったわかったって。で、その死体の見つかった場所は?」


 少し前のめりになりながら和人が問う。

 さらっと流された気がして納得いかなかったが、気を取り直して記憶を漁る。


「ちょ、声が大きい。ここ一応食堂だぞ」

「おっとつい……」


 浮かした腰を椅子につけ、片手で口元を覆う。


「で、現場だよね。ええっと、確か新宿駅付近だったと思うけど」

「マジかよめっちゃ近場だな。ちょっと帰りに見てかね?」


 そう言って和人はデザートについてきていたゼリーに、きれいに折った紙スプーンをつける。


「別にいいけど、多分もう規制が掛かってて近づけないと思うよ」


 そんな現実的な意見を突きつけた僕に哀れむような眼差を向ける。


「んなこたぁわかってるさ。ただなんか、散乱してるゼリー状の何か? ぐらい見つからないかと思ってさ。警察だって人間だろ。処理漏れだってあると考えるのが妥当だろ」

「無理だと思うけど……まぁ行くなら付き合うよ。特に予定もないし」

「よっしゃ決まりだ。念のためゴム手袋とスポイトと瓶を持っていかないとな。部室にあったか?」

「あるわけないだろ。超常現象研究部だようち。化学部とかならともかく」

「んじゃそこら編の調達は任せとけ。どっかの部活から借りてくるから」


 和人が何かぶつぶつとメモを取っているのを頬杖を付きながら眺めていると、視界の端で長い白髪が揺れる。


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