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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
三章 仮想と現実の境界、それは彼らの認知の外側。
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第九話

「そんなことってあり?」


 Mirageは基本的に使用者以外に操作することはできない。腕輪型の本体から発される特殊な電気信号が使用者の脳とMirageをリンクさせ、脳の視覚野へと直接映像信号を送っている。らしい。

 Mirageの初期設定時は専門設備のある店舗へ行き特殊なヘッドギアを装着し、それとMirageを接続することで、使用者の脳からの固有の信号を識別し、自分だけに見える仮想の映像が映し出される。

 共有モードは、その特殊信号を脳との直結型から拡散型にすることで、第三者にも映像が観覧、並びに操作が可能になる。

 つまり、逆に言ってしまえば僕以外にアプリを操作できる人間はいないはずで。


「AIが意図的にアプリを終了させるとか、そんなバカな……」


 そういう演出のゲームならいくつか見たこともあるが、これはゲームじゃない。リアルタイムに投影される映像だぞ。

 だが、他にそれらしい理由は見つからない。そもそもアプリが意思を持って存在しているなんてことが異例なのだ。何が起こってもおかしくない。


「なんなんだよAIって……。ほんとに人工知能なの? でもそれ以外に彼女の反応を説明できないのも事実なわけで……んーむ」


 いっそNornに連絡して対応してもらおうか。


「……いや、流石にそれはまずいか。公式のストアにないアプリってことは、認可されていないものだろうし、下手したらパッチが当てられて起動しなくなるなんてこともあるかも」


 公式のアプリじゃない以上、お咎めなしだとしても結局何の対応もしてくれないだろう。わざわざ危ない橋を渡る必要もない。

 IronRabbit氏が言うことを鵜呑みにするのであれば、このアプリは僕を危険から守ってくれるはずだし。間違っても人生で二度も死を体験したくない。

 いや、少なくとももう一度は体験するわけだけど。


「まあ、保身ぐらいにはなってくれるでしょ。きっと」


 何よりフォルテをもう少し観察してみたい。あわよくば友好的な関係を気づきたい。

 人類初のAIと友達なんて、すごいことだ。

 そうすれば、彼女のモデルデータをコピーしてもらえるかも。IronRabbit氏に言えばくれるかな。くれないよね。

 AIが自己判断を下せるなんて話は聞いた事がないが、フォルテならあるいは。


「よし」


 そこで、僕はもう一度アプリのアイコンをタップして、アプリを立ち上げてみる。時刻はそろそろ八時になりそうな頃合い。すぐ出なかったら一度家に戻ろう。その後に考えよう。

 そう思いながら半ば諦め気味に待っていると、立ち上げは問題なく行われるようで、すぐに暗い画面とフォルテの姿が映し出された。


「あによ」


 半目開きに僕を見る彼女の姿が現れる。改めてとても表情が豊かだ――じゃない、今度は機嫌を損ねないようにしないと。


「女の子の扱い。しかもツンツン系なんて、非リアにはハードルが高すぎる……」


 彼女に聞こえないよう呟く。相変わらず不機嫌そうな面構えだ。

 どうしようか迷った挙句、僕は正座し膝に手をつき、小さく頭を下げてみる。

 AI相手に一体何をしているんだろうと言う疑問は一旦捨て置く。いちいち気にしていては埒があかないし、僕が今頼れるのは彼女だ。険悪にはなりたくない。

 例えアクターがいるとしても。


「えっと、いや。なんかすまんかった」


 僕が謝罪を口にすると、わかれば良いのよと言わんばかりにフォルテの表情が緩む。何だよチョロインか?

 そもそもMirageにインカメラのような機能はないわけだけど、一体どうやって僕の仕草を確認しているのだろうか。もしかして今僕が頭を下げたのって何の意味もなかったやつ? ちょっとショックかも……。

 そう思いつつも、フォルテの瞳はしっかり僕を見つめている。特殊なプログラムでこちら側を把握しているのだろうか。


「で、何かしら。あたしだって忙しいんだから。あんたにばっかかまっていられないのよ」


 出だしと同じ質問。だが、そこに不機嫌なオーラはこもっていないようで一安心。


「忙しいって、何してるの? だってAIでしょ? 僕がアプリを開いていない間は眠っているような物じゃないの? 電源が入っていないわけだし」

「おバカ。あんたの持ってるアプリに紐づいてるわけないでしょ。そのアプリはあたしの生活している鯖への中継機のようなものよ。私には私の生活があるんだから」


 ――という設定。だろう。


 AIが独自にネットワーク上で活動するなんてことがあり得るのだろうか。


「具体的には何してるの?」

「そうねー。掲示板のスレをのぞいたり、監視カメラの確認したり、寝たり?」

「は、ニートかよ。草」


 僕の言葉にキッと表情を尖らせる。


「ぶっ飛ばされたいの⁉︎ 良いからさっさと用件を言いなさいよ! また切るわよ!」


 これ以上の詮索は本当に消えかねない。AIの日常生活とか興味深いけど、とりあえず自重しよう。いつかブログの記事にできると良いな。


「ごめんて。聞きたいことは二つ。一つはさっきまでそこにあった地下に続いてる階段について何か知らない? 気づいたら消えてたんだけどって話で、もう一つがこのアプリって結局何をするものなのってこと。 IronRabbit氏からは結局細かい話を聞いてなくてさ。家に入るための鍵みたいなもの? みたいな説明は受けたんだけど、僕には何のことかさっぱり」


 できる限り簡潔に、そして若干早口で言いたいことを吐き出す。


「ウッソあんた何も知らないわけ? 呆れた。アイラに何も聞かなかったの? というかそれ以前にアプリの権限をもらうぐらいだからキョウカイについても色々と知っているものだと思っていたのに。とんだ素人ね」


 キョウカイ? 家の境界の事だろうか。たしかに地下に家があるってことは、ここら辺一体は彼女の私有地ということになるのか? いやでもここは公園の敷地内だけど。

 いまいちキョウカイという言葉の意味がピンと来ていない。


「セキュリティー面を考えて、外出中なんか光学迷彩なんかで家の境界をカモフラージュしてる的な?」


 足で地面を鳴らしてみるが、光学迷彩が揺らいだり解けたりはしない。なんて高度な技術なんだ。違うか。


「バカ。大バカ。違うわよ。鏡界! 鏡の世界! 常識でしょ。義務教育からやり直したら?」

「鏡の……世界? 鏡ってあの鏡? 光を反射させたり人を写したりする?」


 どこの世界の常識だよ。そんな言葉初めて聞いたんだけど。お前がそう思うならそうなんだろう。お前の中ではなって感じ。

 義務教育で習ったのかな……いやないでしょ。少なくとも僕の記憶にはない。もちろん記憶喪失だからと言う話ではない。

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