第七話
カラッとしたいい天気。兎月遥は自室で一人窓の外を眺めていた。
理由は特にない。鏡夜が昨日送ったメールの件で渋谷に行くと言うので暇を持て余している。
「キョーヤ、大丈夫かなぁ……Iron Rabbitさんが変な人じゃなければいいんだけどなぁ」
机の上の置き時計はすでに十九時を回っている。学校で別れてから大体二時間になるわけだ。
Mirageの通知を確認してみても、そこに鏡夜からの通知はない。
チェーン店の喫茶店からの通知等が来るたびにMirageを起動しては閉じるを繰り返している。
まるで恋する乙女のように、はたまた子供の帰りを心配して待つ親のように、彼女はソワソワとした時間を過ごしていた。
「暇だなぁ。やっぱり後をつけてみたほうが良かったのかなぁ?」
鏡夜と別れてから、和人と二人で彼の後つけてみるかという話も出ていたのだが、結局それは決行されることはなかった。
優希は今日は学校に来ていないようで、連絡連絡も取れていない。
「むぅ……えいや!」
鏡夜に対してメッセージアプリのスタンプ機能をひたすら連打する。が、それらに既読がつくことはなく、虚しい気持ちになるだけだった。
気晴らしにパソコンを起動して皆んなとプレイしているネットゲームにログインする。
そこでMirageから着信音が響く。Mirageの通知や着信音は、意図的に共有しない限り自分にしか聞こえない。
「もしもし――あ、はい。そうです。はい――――はい。わかりました。直ぐに向かいます。はい。合流場所は――――――」
普段より冷めたトーンで電話の受け答えを終え、通話を切る。
小さく深呼吸を一つして椅子から立ち上がると、部屋着から着替え始めた。
サスペンダーつきのショートパンツの上からピンクのセーターに身を包み、ベッドに腰掛けてハイソックスに足を通す。
頬を数回叩くと自室の扉を開けた。
「おかーさーん。ちょっと外出てくるねー!」
「え、もうすぐ夕食できちゃうわよー?」
「うー……多分すぐ戻ると思うから!」
そういって両サイドで髪を括りながら玄関を出た。
玄関に掛けられた鈴が揺れ、高い音を奏でる。




