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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
二章 安息を求め彷徨い、そして嗤う。
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第十一話

 深夜の都内某所。

 作業着を着た二人の男が、いくつかの機材を抱えて歩いていた。

 人通りは一切ない。周辺は工事の為に交通規制をしているが、実際に重機が動いていたりするわけではない。

 この規制エリアの中には彼らの姿しかない。


「よし。ここら辺に据えるか。西成ィ、俺は向こうにターゲット据えてくるから、ここの点にスキャナー据えとけよ」

「了解っす。宮田さん」


 宮田と呼ばれた男は、引いていたオレンジ色のケースをその場に置くと、代わりに西成から三脚を受け取りそのまま数十メートル先まで歩き、三脚を据える。

 ここ数年、こんな仕事を頻繁に行なっている。国からの依頼で、東京都内を丸々レーザースキャナーでスキャンする業務だ。

 限られたエリアに限定するならともかく、都内全域なんて正気じゃないと思った。

 だが仕事は仕事だ。上から命じられればやらざるをえない。それに金払いも非常に良い。


「つっても、異常な密度でスキャンしてるせいで、一スキャンに四十分以上かかるなんてことも頻繁に起こるし、流石に手持ち無沙汰だよなぁ」


 スキャンした後には点群に色の情報を与えるために三六〇度しっかり写真も撮影する関係上、作業進捗は良くない。

 そんなふうに一人愚痴っている間に三脚も据え終わり、肩にかけたトランシーバーで連絡を入れる。


「こっちは準備できた。スキャナーに映らないよう一時退避する」


 宮田が無線から手を離して数秒、ジジッと言うノイズがながれて。


「オーライ。こちらも準備オッケーですんで、今からまわします。終わったらまた連絡入れます」


 少し離れたところで重い音が聞こえてきた。どうやらスキャンが始まったらしい。

 俺らの普段使っているスキャナーじゃ絶対こんな大きな音はならない。今回の仕事用に支給された特殊仕様のものらしい。点郡密度を限界突破させて、ほぼ面として捉えることができるという。

 普通に買ったらいくらするか。考えただけで鳥肌が立つ。

 もし倒して壊しでもしたら洒落にならない。それがこの仕事を億劫に思う理由の一つでもあった。

 近くの茂みに身を隠し、三脚が倒れないよう見張りながらも、Mirageを起動してネットニュースを眺める。

 この時間やることも特にないので、半休憩時間といって良い。普段であれば十分かからないことも多いので慌ただしいが、四十分となれば自由に使える時間だ。


「一体お偉方はこのデータを使って何をしたいんだろうなぁ」


 上からは大規模な都市開発計画のために使用するとだけ聞かされている。


「そりゃ最近じゃ3Dを使った検討なんかも多くなってきてるらしいが、流石にやり過ぎだろ」


 不思議なことに、スキャンしたデータの合成や編集作業は別会社が行うことになっている。

 だからこそ気になる。このデータが何に使われるのか。

 最初にスキャンしたのは秋葉原、その次に新宿、渋谷、浅草と続き、今に至る。

 終わりの見えない作業というのはそれだけで苦痛だ。いかに金払いが良くても。

 小さいため息が漏れる。この仕事中は常にため息との戦いだ。なるべく部下の前では出さないようにしているが、こう一人でいる時間はつい漏れてしまう。


「今度また部長に聞いてみるかなぁ」


 そんなことを思っていると、トランシーバーからノイズが漏れた。


「スキャン完了、スキャン完了ー」

「了解。スキャナーをしまって次のところに移動だ」

「オーライ」


 重たい腰を上げ、三脚をたたみ肩にかけ、西成が来るのを待つ。

 スキャナーはとにかく重い。それゆえに三脚に上げたり下ろしたりするときは常にヒヤヒヤする。

 できることなら自分でやりたいが、ターゲットの選点作業をさせるのはまだ心許ない。

 大きなあくびを一つして、夜空を見上げる。

 その夜空と、自分たちが今撮った点群データの違いはなんだろう。そんな考えが、ふと過った。

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