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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
二章 安息を求め彷徨い、そして嗤う。
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第十話

 目が冴えてしまい寝付けない僕に、さらに追い討ちを掛けるように雨水が窓を叩き、雷の音もよく響く。時折鈍い音とともに地響きまで聞こえてくる。もしかしたら近くに落ちたのかもしれない。

 非現実。非日常。

 僕の部屋はマンションの共用廊下側に位置している。その部屋の窓にたたきつけてくるということは、相当な横殴りの雨なのだろう。廊下の水捌けが追いつかず洪水になってるかもしれない。

 ベッドの上に横になり、天井をただひたすらに眺める時間が続く。

 寝るには良い環境ではないが、起きているなら無音の世界よりかはよっぽど心地良い。


「はぁ……なんだかなぁ……」


 あの後、運ばれてきた食事を口にしながら、奈々を交え改めて情報を整理した。

 奈々曰く、お客さんも来ないから話していてもいいと店長に許可をもらったとのこと。

 僕たちは死を経験して現実に戻ってきたが、奈々は気がつくと霧が晴れていたという。何か特筆すべき事象もなく、いつものようにバイト先に向かっていた最中の出来事だった。

 改めてその日の天気予報やニュースを菜々と優希のスマホを使い確認したが、濃霧予報なんかは見当たらない。ましてや不審者の目撃情報すらない。VRイベント関連のニュースで埋め尽くされていた。

 だが、僕と初衣、そして奈々。三人もの人間が霧を観測し、それぞれはっきりと記憶している。

 しかも僕と初衣に至ってはお互いを視認し、行動までも共にして、その記憶を何一つ矛盾なく保持しているのだ。


「僕がなんらかの体調不良で意識を失ってしまい、その間に見た夢という線も絶たれてるし、もう何が何やら」


 随分前に夢を他者と共有する感じのゲームがあったな。なんて思い出す。


「明晰夢……か」


 だがフィクションはフィクション。現実は現実だ。夢を第三者と共有するなんてことはあり得ない。

 そう思いネットで調べてみると、意外にも夢を共有する現象は起こるという記事を多く目にする。


「間主観的夢……インターサブジェクティブドリームねぇ」


 正直半信半疑だが、事実そういう体験をした人がいるという。

 だが、僕と初衣はつい先日まで見ず知らずの他人だったわけで、そんな人間と夢が共有されることがあり得るのだろうか。


「馬鹿馬鹿しい。そもそも僕が仮に気を失っていたとして、同じタイミングで初衣も気を失ったなんてことがあり得るはずがない。まだ感応精神病の方が現実みがあるレベル」


 夜中に見る夢ならいざしれず、今回は真昼間に起こった出来事だ。


「夢、妄想、幻覚、こういうのって一体なんなんだろうか……」


 ちょっと哲学っぽいことを言ってしまった。

 何はともあれ、生きているんだ。それでいいじゃないか。優希もそう言っていた。僕だってそう思う。あったかもしれない不安に怯えながら日々を過ごしていたら、それこそ今回の不可思議な現状の思う壺だ。

 もしまた同じような経験をしたら――その時はその時考えればいい。悩む時間は人生の無駄。

 気分転換にYahooニュースを覗いてみるが、目新しい情報はない。続いてIronRabbit氏のブログ。こちらも変化なし。

 コメント欄を確認してみるが、こちらも収穫ゼロ。最新の物に至っては記事と関係ない雑談で埋め尽くされている。


「まったく。知名度が上がるのは嬉しいけど、民度の低下はどうにかならないものかね」


 セカイノオワリは情報を正確に取り扱ってくれるだけあって、毎日毎日どうでもいいようなニュースを上げたりはしない。

 新着記事が増えればその分おかしなアンチコメも分散するわけだが、悩ましいところだ。

 ふと、いつもなら全く気にしない場所へと視線が吸い寄せられる。


【ご意見・ご感想・情報提供ボックス】


 コメント欄とは別に設けられているその問い合わせ窓口。


「IronRabbit氏なら、何かわかるかな」


 最近扱っているネタがネタなので勘違いしそうになるが、彼が主に扱っているのはあくまでも事件だ。僕たちと違ってオカルトじゃない。

 ましてや脳科学者じゃあるまいし、コンタクトを取ったところで何も起きないかもしれない。

 でもこれだけの良記事を書けるだけの情報収集能力があるなら、依頼すれば引き受けてくれたりしないだろうか。

 考えてみて、ライター業、探偵業にどれだけの依頼料がかかるのか想像し、考えは胸の内にしまっておくことにした。

 もう不安要素胸の内にしまいすぎてそのうち張り裂けるんじゃないかと思う。


「問い合わせちゃえばいいんじゃない?」

「うおぉ⁉︎ びっくりした……脅かすなよな……」


 僕の部屋のドアから遥が長い白髪とメガネ越しの碧色の瞳を覗かせていた。


「い、いつからそこに……?」

「んー? キョーヤがなんだかなぁって言ってたところあたりだったかなー。なんか難しそうなことぶつぶつ呟いてたから声かけるのためらっちゃって」

 

 そう言いながら遥は僕の部屋に入り、パソコンの前の椅子に腰掛け、ぐるりと一回転した。

 雷と雨音で扉が開く音がかき消えていたのだろうか。

 僕も寝そべっていた体を起こし、ベッドの上にあぐらをかく。


「で、何のよう?」

「ん?」


 可愛らしく首をかしげて僕の問いかけに答える。


「いや、何か用があったから来たんでしょ」

「んー。特に用という用はないかなー。キョーヤ疲れてたみたいだから、念のため様子を見にきただけだよ。うなされてたりしたらどうしようーって」


 当然のことのように笑顔で答えるが、まさかいつも僕の様子を僕の意識がない間に確認しているんじゃないだろうな。ちょっと不安になるが、それを確認することも、また不安だ。

 そのうち部屋に簡易的な鍵でもつけようかな。


「それより、キョーヤの愛しいIronRabbitさんに今日の話聞いてもらうか悩んでるんでしょ? 私はいいと思うなー」

「愛しいって使い方おかしいでしょ……まぁ尊敬はしてるけど」


 表現が引っかかるが、まあいい。


「せっかく声をかけるチャンスなんだし、この機会にお近づきになった方がいいんじゃない? こんなネタ二度とないかもしれないよ?」


 確かにこんなチャンスは早々ないだろう。超常的なネタは好きだけど、それは第三者として観測する場合に限る。自分がこの身で体験したいなんて微塵も思わない。二度と。

 だからいつも事象を後追いするだけで、それに対して妄想を膨らましている。

 結局は野次馬精神旺盛なチキンやろうさ。知ってますとも。でもそれって僕だけに当てはまることじゃないよね。きっと全人類そうだよ。

 実際に現場検証なんかも偶にはするけど、それだってたかが知れてる。

 それが今回はどうだ? 僕らがど真ん中に立った出来事。僕たちしか知らない出来事だ。


「ね?」


 遥は椅子からベッドにペタペタと移動して、僕の横に座り顔を覗き込む。


「当たって砕けろってことかな」

「おー。珍しくキョーヤが乗ってきた。私ちょっとああいうグロい記事平気で書いちゃう人がどんな人なのか気になっただけだったんだけどな」


 僕が乗ってくるのが予想外だったのか、ちょっとおどおどしている。


「うるさい。それより煽ったのは遥なんだから、送る文章考えるの手伝ってよ。情報の整理も兼ねてさ」

「オッケーい。任せといてよ。社交性ないキョーヤに変わって文章考えてあげよう」

「社交性ないのはお互い様でしょ……まあ僕や優希よりはましか」

「えっへん」


 遥に文句を垂らしながらも、僕は Mirageのメモ機能を立ち上げて下書きを始める。


「ねーねー見えないよー?。早く共有モードにしてよ」

「あぁそっか。忘れてた」


 Mirageの物理画面を数秒ホールドして立ち上がる共有モード起動のボタンをタップして僕たちはあーでもないこーでもないと文章を考え始めた。

 実際に起きたことから、僕の考えまで。



 夜は一層深くなり、書き上がる頃にはまぶたが閉じるのを堪えるのに必死だった。

 出来上がったのはメンヘラ顔負けの長文。ちょっとこれを送るのを躊躇ってしまうほどに。


「ったく、結局寝てるし」


 出来上がった文章を再確認している僕を他所に、遥は僕のベッドで枕とクッションに埋もれて小さな寝息を立てている。

 頬を突いたりしても起きないのを見ると、もうだいぶ深くまで落ちたようだ。

 とても無防備で、寝相で乱れた服の隙間からお腹が顔を出している。


「はあ……まあいい。僕もこれを送ったら寝よう……ふあぁぁ……眠い。今週はまだ始まったばっかだからね。学校にも行かないと」


 うとうとしながら送信ボタンをタップする。

 送った後の虚無感はどうも苦手だ。まるで今までしていた事が無に帰ってしまったような。そもそも届いていないんじゃないかと思えてくる。見当違いなことを言っていたらどうしようと考えてしまう。

 心臓の鼓動が心なしか早くなっている気がする。


「寝れるかな……」


 そんな心配をしていると、ポーンという軽い音と共に、Mirageの通知のアイコンが浮かび上がる。

 僕は反射的にその通知を開く。


「――――――っ」



 そこにあったのは、一枚の画像だった。


 人、人、人。沢山の人の、集合写真。だけどどこか普通じゃない。


 薄暗くて、白いモヤがかかっていて。それでもわかる――



「何だよ……これ」


 確認できたのは、

 意識なく倒れた人。

 ゼリーのような赤みがかった半透明の物体の海。

 そして――沢山の骨。

 僕の見た集合写真は、死体のそれだった。

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