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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
二章 安息を求め彷徨い、そして嗤う。
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第七話

 大雨の中、僕たちは渋谷駅東口歩道橋の上を歩いていた。

 首都高を走る車が水を跳ね、歩道橋へと滝を作る。何も知らないで歩いていると悲惨な思いをすること間違いなしだ。

 ここ数年で渋谷の街は大きく姿を変え、駅周辺には高いビルがいくつも並んでいる。だが、今尚工事自体はいくつも動いており、街のあちこちに仮囲いが設置され、クレーン等の大型重機が頭をのぞかせている。

 そんな最先端の街渋谷の片隅にある喫茶店に向けて僕達は足を運んでいる。

 歩道橋を警察署側に降り、信号をいくつか渡り、坂を登ったそこにあったのは、想像よりもひっそりとした佇まいのお店だった。と言うか場所を間違えたのではないかと疑うレベルで営業している感じが薄い。

 というか全く営業している感じがないんだけど。からかわれたやつ?


「こ、これはまた……本当に場所あってる?」


 優希が少し引き気味な口調で僕に問う。

 先日の秋葉原のイベント時に貰ったメモを頼りにきてみたものの、どうにも学生には入り難い入り口に思わず立ち止まる。と言うより立ち止まれただけ運が良い。下手したら見逃して見つけられなかったかもしれない。

 地図に強い優希が居てくれて助かった。僕と遥じゃ辿り着けなかった自信がある。


「んー? キョーヤが言ってた喫茶店ってここ?」

「あ、あぁそのはずだけど」


 遥の問いに曖昧に返事を返す。


「す、すごいお店ですねぇ……なんていうかー、廃墟? みたいなー?」


 初衣は若干引き気味に僕とお店を交互に見る。


「いや別に僕の趣味とかじゃないからね?」

「あ、はははぁー……」


 だめだ聞く耳持ってないやつじゃん。

 この子、見た目に反して結構頑固というか意思が強いというか、男を尻に敷くタイプっぽいんだよねイメージが……。


「なあ場所があってんなら入ろうぜ。この雨じゃ傘さしててもどんどん濡れてくるって。もう靴までびしょびしょで気持ちわりーよ」


 そう言いながら和人が足首を振ると、つま先から水が飛び散る。


「ちょ、やめ。汚いだろ」


 よく見ると周りもだいぶ寒そうだ。

 どうしようかと迷っていると、後ろから聞いたことのある声が響く。


「あっれーお客さん? 団体様じゃーん」


 驚いたような声に振り向くと案の定、奈々が買い物袋を片手に立っていた。


「って君かー久しぶりだねー。あれ? そうでもない? まぁ本当に来てくれて嬉しいよー。ささ、入って入って。お連れさんもどぞどぞー」


 向こうも僕に気づくなりぱっと笑顔を浮かべて対応してくれる。営業スマイルってやつかもしれない。大学生恐るべし。

 僕らの前に入り込みドアを開けると、ドアを押さえて道を作ってくれる。


「ささ」


 どうやら入れと言っているようだ。


「ま、ここまで来たら入るしかないんじゃない? 正直寒いからなんでもいいので暖を取りたい。マフラーも濡れたし」


 優希の一言に押され、僕たちは雪崩れ込むように店の中に入った。

 店の中は外見とは裏腹に綺麗に整っている。入り口からすぐの場所には少数のカウンター席が設けられており、その奥にはお酒のボトルがいくつも並んでいた。まだ飲める歳ではないしわからないけど、高そうだ。

 ぼんやりとしたオレンジ色のライトがお洒落な雰囲気を醸し出している。


「マスター! お客様だよー!」


 元気いっぱいに声を上げると、バーカウンターの奥からマスターと呼ばれた二十代半ばぐらいの男が姿を見せる。


「奈々ァ。また客引きでもしてきたのか? ただでさえ辺鄙な場所にある上、今日はこの大雨だ。よくもまぁ捕まったもんだな。変なキャッチと間違われねーようにしてくれよ。うちはひっそり細々な営業スタイルがモットーなんだからな。厄介ごとはごめんだぞ、起こすな。いいな? ここは飲食店だ」

「ちょっと! 新規のお客さんのいる前でなんてこと言ってんの!? 人をなんだと思ってんのよ! セクハラだからねそれ!」


 若干頬を赤らめながら店長に対して強気な態度で怒鳴る。

 眠気まなこを擦りながらも口元を歪ませる。もしかして寝てた? まさかね。ぱっと見夜が本番のお店だ。この時間に仕込みもしないで寝てるなんてことあるわけない。


「全く、失礼しちゃうなぁ。鏡夜君には少し前にお店の宣伝はしたけど、今日来てくれたのは私無関係ー」


 店長とのやりとりを見ていると、一番最初のそっけない態度が嘘のようにはちゃめちゃだった。いやまぁ初対面の人には誰だって冷たく接する。


「ほぉーん。まぁなんでもいいさ。いらっしゃいお客人。5名様ってなるとカウンターじゃちょっと手狭になっちまうな。嫌じゃなきゃ下の席を使ってくれ」


 そういって指差した先には地下へと続く螺旋階段があった。

 どうやら一階はバー、地下はカフェのカフェバーなお店らしい。


「てことだから、下の好きな席に座って待っててよ。すぐ水とおしぼりとメニュー、後メガネの子にはブランケットも持っていくね」

「あ、ども」


 店の前でしてた会話を覚えてたんだ。すごい。これがリア充。


「いいよー。今日寒かったしね。あ、席のおすすめはね、一番奥の壁際の席かな。ソファーがふかふかで気持ちいいんだー。お客さんこない時は独占して寝てたりするの」


 言われるままに地下に降りる。

 防音室と会議室も一部屋ずつあり、螺旋階段の下のスペースには小さなステージも設置されており、一通りの楽器が並んでいた。

 ここは一体なんのお店なのだろうかと考えてしまう。


「喫茶店……だよね」

「わかるぞ鏡夜、その気持ち。なんか秘密のアジトみたいな感じするよな。カフェは表向きの姿――みたいな」

「いやそこまでは言ってないけど……」

「なんでだよ!」


 叫ぶ和人をよそに、僕らは店の地下フロアへと足をおろした

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