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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
二章 安息を求め彷徨い、そして嗤う。
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第四話

「と、言うことがあったわですよ。みんなもっと僕のことを心配してくれてもいいんじゃない?」


 週明けて月曜。

 僕は一日の授業を乗り切り部室へ足を運んでいた。

 下校時間が早くなっていることもあって、準備の必要な運動部などは活動休止していたり、簡単なトレーニングのみを行なっているが、文化系の部活に関しては、割と活動を再開するところも増え始めている。

 危機意識薄すぎだと思うんだよね。まぁ人のこと言えないんだけどさ。

 廊下を使っての走り込みや筋トレなどをする部活が多く、廊下からはむさ苦しい掛け声が聞こえてくるし、汗の匂いがするわで若干ストレスだが、仕方ない。

 珍しく優希と一緒に部室に向かい今日は四人の部員が集まって机を囲んでいる。

 土曜日に僕が体験した一部を皆に話し終えたところで、マウンテンデューで喉を潤す。

 一応僕が死を体験したなんて話は今のところ誰にもしていない。妄想乙とか馬鹿にされるのがオチだろうし、僕自身認めたくない現実だからね。

 自分が信じていないことを人に信じさせるとか無理ゲーすぎる。


「あの後そんなことがあったなんて全然知らなかった。冬場の熱中症? なんにせよ大事なくてよかったね」


 ボサボサの髪をニコニコした遥に梳かされながら、優希が心配そうに告げる。そんな彼女に便乗するようにうんうんと頷く和人。


「で、その命の恩人である自称後輩ちゃんを探すってわけだ。人探しなんてなんか探偵みたいで面白そうだな!」


 なんだか楽しそうだなこいつ。人探しとかそう言うの好きなのだろうか。変わった趣味をお持ちなことで。オカルトマニアから探偵志望に肩書きを変えておいてやろうか。そういえば昔オカルト現象を探偵が調査する。みたいなゲームがあった気がする。意外にオカルトと探偵は相性が良いのかもしれない。


「まぁ救急車を呼んでくれたのは多分彼女じゃないけど。気を失う前に一緒にいた気がするんだ。僕の妄想じゃなければだけど」


 それを聞くなりなぜか和人は後ずさる。あれ、僕何か変なこと言ったかな。


「え、もしかして後輩ちゃんって鏡夜の妄想なのか……? 少しでも羨ましいと思った俺のウブな心を返してくれ!?」

「しらんがな。羨ましいって、僕気を失って倒れて、病院送りになってるんですけど……?」


 まぁ記憶はあやふやだし。気を失う直前に起きたことはそれこそ妄想じみているわけだから、僕自身も彼女が現実に存在する人物なのかはわからない。

 思い返すと全身に鳥肌が立ち、吐き気が込み上げて来て、とっさに口元を掌で覆う。

 大丈夫。僕は今こうして生きてるじゃないか。それが全てだ。

 言い聞かせるように心の中で何度も唱えつつ強く太ももをつねり、落ち着いたところでマウンテンデューをあおる。

 甘い微炭酸が僕の思考をクリアにした。

 死という経験は基本的に人生で一度しか味わうことはない。それを僕はすでに知っていしまっている。

 夢等での死というのは、総じて現実味の薄いものだ。幾らリアルに感じても、所詮は夢。自分が想像できる域を出ないし、そもそも目が覚めれば次第にわすれてしまうものだ。それがどれほどのものだとしても。

 だが、僕は今でもはっきり覚えてる。忘れることのできない衝撃的な記憶として、海馬に強く焼き付いている。たとえそれが妄想だったとしても、僕にとっては現実と変わらない。

 ある研究で、自殺願望のある人間に仮想的に死という情報をインプットした結果、彼らはそれ以降自殺しようという素振りを見せなくなったという。

 それほどに死というのは苦しいものなのだ。体験したことがないから自殺なんて考えが浮かぶ。死の直前の恐怖や苦しみを知っている人間は、きっと死にたいなんて思わないだろう。少なくとも僕は思えない。

 震える手で、殻になったジュースの缶を握り潰し、大きく深呼吸。……よし。落ち着いてきた。

 僕の前には、職員室でわざわざ借りてきた顔写真付きの名簿が一冊。

 その中に記憶の中の彼女がいなければ、全ては倒れて意識が飛んだ間に見た幻だったということになる。

 でも、もし、彼女が実在していて、アポが取れて、記憶を共有していたのなら、あの時起きたことは……もう僕だけの妄想ではすまなくなってしまう。

 そんなこと、考えたくもない。

 ありえないとわかっている。それこそオカルトだ。死を体験した高校生なんてそうそういない。ポジティブに考えれば、いいブログのネタになるよねって感じ。どっちかといえばαちゃんのスレ向きか?

 見出しは『俺氏、一度死んだ件』? それとも『死んだら異世界じゃなく現代に転生していたわけだが』みたいな。古いか。こんなんじゃネットの海に埋もれちゃうな。もう少し捻った見出しにしないと誰にも読んでもらえない。見出しだけで中身が見えてないと。

 いいブログはいい見出しからってね。無名は尚更。ネタは過去最高なんだから。

 無理やりポジティブに変換してみる。


「クックック……。はぁ……」


 思わず溜息をついた。

 馬鹿馬鹿しい考えを片隅におしやって名簿の表紙を撫でる。

 名簿の表紙には「二〇二五年度一年生名簿」と書かれたシールが貼り付けられている。ちょっとシールの角が剥がれてペロペロしているところを指先で弄んでいるとなんだか和む。


「どうしたん? 見ないの?」


 優希が不思議そうに首を傾げる。


「あ、いやその……」


 これを開いたら現実が見えてしまう。

 そう思うと、怖くて開けられずに表紙を眺めている状態だ。察してよ。


「私達が二年生でよかったよねー三年生だったら探さなきゃいけない名簿が一冊増えちゃうわけだし」


 言いながら遥が僕から名簿を奪い取り中身をパラパラとめくり始めた。


「あ、ちょま」

「えー? もう表紙とにらめっこするのもあきたでしょー? というかあきっちゃった。私は飽きたの! 早く中身確認しないと下校時間きちゃうじゃん。それにこれ以上ここのシールいじってたらほんとに剥がれちゃうし、そうしたら余計な作業が増えちゃうよ」

「いや、それはそうだけど、まだ心の準備が……」


 自分で言っておいて、心の準備ってなんだよと思った。

 夢であった少女が実在するか否か。答えはその二択じゃないか。いくら迷っていても開いた先にある現実が変わるわけじゃない。箱の中の猫の生死は、観測するより前に決まっている。この世界の観測者は僕じゃない。自分が観測したことによって世界が分岐するだなんて、それなんて厨二病?

 現実はいつだって無情なんだ。

 いつかやってくる現実なら、早めに終わらせてしまった方が得策だと、直感が告げている。

 確率解釈は無意味だ。世界は、始まる前に収束する。

 意を決し僕は適当にパラパラと中身を見て、へーとかふーんとか謎に頷いている遥からバインダーを取り返す。


「なにがへーなんだよ。ただの名簿だし、なにより遥は彼女の顔もしらないでしょ」


 急に名簿を取られたふくれ顔から一転。わざとらしく手を口元にあてて驚いたという仕草をとる。


「あったしかに! でも見てるとたのしーよ? この子かわいーなーとか、綺麗だなーとか?」

「学校側が持ってる名簿の写真って、入学前に送る証明写真でしょ? 証明写真なんて可愛く取れるの? あ、元がいいとどんな機械でも可愛くとってくれるか……知ってた」


 というかそもそもなぜ疑問形なんだという感想はしまっておき、僕は一ページ目から順番にページをめくっていく。


「なあなあ、一年生、可愛い子いたか?」


 僕が一人一人目を凝らして確認している中、小声で和人が遥に問う。


「えー。うーん。うん、和くんにはおしえなーい」

「は? なんでだよ」

「なんとなく? だって和くんっていやらしい目つきすることあるんだもん。後輩を悪い先輩から守るのも、先輩としての義務って奴だよ」


 ケタケタ笑ながら言う遥に動揺しているようだ。


「はあ⁉︎ し、してねーだろ! お俺はいたって健全な眼の持ち主だっての!」

「健全な男子はいやらしい目してるっていうじゃん?」


 墓穴を掘ったと和人が歯軋りを立てて唸る。


「お前らなぁ、もう少し探し物してるんだから静かにだな――」


 文句を言いながらも視線は写真に落とす。

 和人が文句ありげに何かを主張するが、すかさずその主張を遥に踏みにじられる。


「たのしそうね。やっぱここは面白い」


 あくまで傍観者として二人のやりとりを見ている優希。

 そんないつもと変わらない日常に僕は安堵する。きっと全部夢だったんだと思えてくる。


「まぁ悪くないよね。少なくとも僕は――」


 だが、僕の安直な考えはすぐに打ち崩された。

 四ページほどめくったところだ。そこに見つけてしまった。できれば見つけたくなかった、記憶の中の少女。


「おい、鏡夜? なにフリーズしてんだ?」


 言葉途中で黙り込んでしまった僕を不思議そうに皆が見ている。和人が目の前で手を振って、意識確認のジェスチャーを取っているが、それに構っている心の余裕はなかった。

 心臓の音がうるさいほどに響く。全身の血管が強く脈打ち、体は暑いのに気分は冷んやりと冷たくなる。


「見つけちゃったかも」


 僕は一言そう告げた。


「見つけたって、その妄想の女の子?」


 珍しく即レスを返す優希に小さく頷き返すと、狭い部室がざわついた。僕たち四人しかいないはずのその空間は、やけに騒がしく感じる。


「まっじかよ。ほんとにいたんだな。俺はもう絶対鏡夜の妄想だとおもってたぞ」

「し、失礼な奴だな。僕はいつだって真面目だよ。リアリストだ」

「オカルトマニアがよく言うぜ」

「い、いやそんなマニアなんて言えるほどじゃないよ⁉︎ ただちょっと変わったことに興味があるだけだ。マニアは和人だけだって。間違いない」


 次第にヒートアップしていく僕と和人の会話を遥が止めに入った。


「二人とも落ち着きなよー! ハイハイストップストーップ!」


 いつも通りのケタケタ楽しそうな声をうけ、僕たちは言葉を噤んだ。一度拗らせると遥は面倒だ。機嫌を直すまでに数日かかることもある。両サイドで結んだ髪が逆立っているようにさえ見える時があるほどだ。笑っているうちに引こう。

 僕のアイコンタクトに和人も頷いた。

 僕らが黙ると、すかさず遥が僕から名簿を奪取して開いていたページを見回した


「で、どの子なの?」

「え」

「だから、キョーヤの記憶にある女の子はどのこなのーって」

「あ、あぁそうか。そうだった」


 和人とのやりとりに熱くなりすぎて一瞬頭から抜け落ちていた。

 僕の内情を察したのか、優希が小さく溜息をつき、鼻で笑った気がした。


「えーっと、そう。この子だ」


 写真を見つけ、その下に書いてある名前へと視線を落とす。


「あれ、ん? この名前って確か……」


 僕はそこに書かれていた名前に見覚えがあった。というか、つい最近の出来事だ。どこで見たんだったかな。僕の交友関係は広くないから掘れば出てくるはずなんだ。

 腕を組んで唸ってみる。もちろん特に意味はない。なんとなく考えている形を取ってみただけだ。それで思い出せるならいくらでも腕を組んで唸るのに。

 一人で記憶を手繰っていると、和人と優希も名簿を覗き込んできた。


「漢字でも読めなかったん?  どれどれ――」


 優希が僕の代わりにその名前を読み上げた。


「中野初衣……さん?」

「は、はい!――――……え? あっ」

「は?」


 名前を読み上げた直後、部室のドアの外から返事が帰ってきた。これには流石の優希もとっさに聞き返す。驚いた表情のまま固まってしまっていた。


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