第十六話
兎月鏡夜と、一緒にいた少女がこの場から消え、白衣の少年は一人きりになる。
もう少し穏便なやり方があったなと思いながらも、後悔はない。他人に優しくしている余裕もなければ、時間的猶予もない。
きっとなにを言っても混乱を招くだけだろう。そうこうしているうちにも世界は進む。手遅れになってしまうのだ。
霧はいっそう深くなり、そのことに深くため息を漏らす。
霧の奥には、薄っすらと無数の線が見えている。
「ここ最近多いんだよな。この霧」
主に地震が起きた後なんかに起こることが多い。
「副産物って言えば聞こえはいいが、コイツがこのまま常駐、拡大すればそれこそ」
そこから先は考えたくもない。
そもそも本来自然現象であるこの現象だが、今回は少し違っている。
「そろそろ僕もここから出ないと、ドロドロになっちまう」
ここはそういう場所。人が生存してはいけない場所。
現実と現実との、ハザマ。本来観測し得ないエラーの世界。
ケタケタと笑いながら少年は足を進める。
目から血が流れ出してきているが、気にしない。
もうそんなことは慣れきっている。
「行きはよいよい帰りはこわい。こわいながらも通りゃんせ、通りゃんせ」
そう口ずさんでその場から姿を消す。
「待っていてくれよ、優希」
その言葉は、酷く重く、空気に溶けた。
この話にて一章が完結となります。
二章以降は不定期更新になっていくと思いますので、引き続きよろしくお願いします。




