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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
一章 そして、霧が彼らの日常を侵し始める。
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第十五話

 僕の歩みが進めば進むほど、霧の濃度が高くなって行く気がする。

 それ以前に僕は一体どれぐらい歩いているのだろうか。ネットに繋がっていないと時間すら把握できない。

 いつもならとっくに家についているほどは歩いた気がする。

 そもそもさっきから一向に景色が変わらない。似たような街並み、似たような景色が続いている。新宿なんてそんなもんだといえなくもないが、流石に家周辺の景色ぐらいは覚えている。

 ひどく不安が込み上げる。

 気づけば十一月だというのに酷く汗ばんでいる。

 額から垂れた汗を拭き取り、改めてあたりを見渡す。

 人一人みあたらない。音もしない。

 この世界には僕だけが存在している。


 ――孤独感。


 ――――――――――虚無感



 ――――――――――――――――――――既視感?




 なぜだかわからないが、胸が痛んだ。

 まるで前にも同じような体験をしたことがあるような、古傷を抉られるような痛みを感じて思わずその場に踞る。


「なんなんだよ……」


 強く閉じた瞼の隙間から涙が滲み出るのを感じた。


「兎月先輩⁉︎」


 蹲っている僕の後ろから、女の子の声が聞こえた。だけど、僕には全く聞き覚えがない。

 反射的に誰だよと言いそうになるのを抑え顔を上げて振り向いてみると、やはり知らない女の子が僕の元へと駆け寄ってくる。今日はやけに女の人に助けてもらう気がする。


「だ、だれ……」


 結局言ってしまった。

 だが、それ以上は口が開かず、胸をきつく抑えて女の子を凝視する。

 先ほどまで誰もいなかったはずなのに、一体この子はどこから来たんだろうか。

 もしかして視線の正体はこの子だったのかな。もしかしてストーカーとかだろうか。自惚れるなって和人に言われそうだな。


「あ、あえっと。大丈夫ですか」


 焦ってつっかえながら話しかけてくる。


「えっと、うん。じゃなくて、君、だれ」


 瞳が痛い。視界が赤みがかって目を開けていられない。


「あ、えっとあたし、というか先輩目から血が!」

「え……」


 言われて目の周りを手で拭うと、涙だと思っていたそれは、とても赤黒い血だった。昼間の傷が開いたのだろうか。だが、その場で簡単に確認してもらったときには特に異常はなかったはずだ。

 パニックになりそうなのを必死に抑える。

 吐き気がこみ上げてきて喉が熱い。

 こういうとき、どうしたらいいのかわからない。眼ってどうやって止血したらいいんだろうか。

 僕以上にあたふたしている目の前の女の子のお陰で、なんとか冷静を保てているが、全身の震えは治る気配がない。


「あ、あの、とりあえずハンカチ使ってください」


 そう言って渡された純白のハンカチは、僕の顔を一拭きすると一瞬で真っ赤に染まった。それを見てまたあたふたし始める。

 この出血は昼間の比ではなさそうだ。昼間は涙に少し混じっていたようなイメージだったが、今は血そのものが流れている気がする。


「そうだ、ちょっと聞きたいんだけど、ここって新宿のどこらへんかわかったりします?」

「え、えっと……あれ? ここどこでしょうかそういえば」


 Mirageをタップするも勿論反応があるわけもなく、状況がつかめず呆然としていた。


「あれ? あれ? バッテリー落ちちゃったのかな……まだ余裕あったと思ったんだけどな……」


 やはりわからないか。

 僕も駅を出て家に向かって歩いていたところまでは覚えているのだが、どういうルートを通ってきたのかあやふやだ。正確にはどういうルートを通ってきたのかはわかる。が、結果としてここがどこかがわからない。という不思議な現象が起きている。

 必死に思い出そうと首を傾げている彼女を横目に、僕はあるネットのコメントを思い出す。


――通りゃんせ 通りゃんせ



「おまえら、ここにいると危ないぞ。というかここにどうやって……」



 突然声をかけられた。

 僕は座ったまま二人目の生存者の方へと視線を向けると、そこには小さな男の子がいた。

 見た目的には中学生ぐらいだろうか。だが、学生には見えない。

 ダボダボの白衣に身を包んだ少年は、僕たちの方へとゆっくり歩いてくる。

 僕たちを心配しているかと言われれば、そうは思えないヘラヘラとした顔つき、足取りに思わず身構える。


「そう身構えんなよ。僕別に怪しいもんじゃないからさ。それよりも自分の心配した方がいいと思うけどさ」

「心配って一体なんのこと。ちょっと道に迷っただけでしょ」


 不気味さに声が震えてしまっているかもしれない。

 気がつくと見ず知らずの女の子は僕の服の裾を掴んで縮こまっていた。指先からは若干の震えが伝わってくる。

 それでも何か返答をしないとと思い口を開く。これ以上女の子に助けられる側じゃいられない。


「まぁ、道に迷ったって表現も間違ってはいないんだけどさ、お前――」


 ゆっくりとこちらに歩いてきていた少年の姿が消えた。唐突に。

 はじめからそこにいなかったかのように。ほんの少しの痕跡もなく、消えた。

 思わず立ち上がって周囲を見渡す。

 急に立ち上がったからか頭にひどい痛みを覚えた。

 後ろで気配を感じて振り返ると――――


「このままだと死んじまうぞ」


 ゼロ距離。目と鼻の先に少年はいた。

 よく見ると少女のようにも見える中性的な顔立ちの少年。ほんの一瞬見惚れてしまった。

 その直後。


「今回は特別に僕が助けてやる」

「え」


 強い風が頭上を走る。髪がなびき、世界が回る。

 回る?

 一体なにが回っている?


「せ、先輩‼︎」


 遠くで声が響いている。

 回ってるのは世界じゃない。

 じゃあなんだ。

 何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ――


 あぁ……――――僕の頭だ。


 疑問だらけだった。

 僕はさっきの少年の頭上にいる。いや、下?

 僕は一体どうなっているんだ。

 僕はその事象をどこで考え把握しているんだろうか。

 僕は、僕は。僕は――。


「あ、ああ、ああ、あぁぁぁあああああぁがああぁあ」


 気づいた時には叫んでいた。

 わけもわからないまま、怒鳴るように叫んでいる。

 どうして叫べるのかわからない。もしかしたら叫べてなどいないのかもしれない。

 だが、それでも叫ぶ。

 やっと理解したから。理解したと言えるのかはわからない。どこで思考しているのかはわからないが。

 そう。僕は確かに、何かに首を刎ねられて、死んだんだ。

 助けてくれるなんて嘘だったわけだ。初めから殺人が目的だったのかもしれない。

 もう声にすらならない。

 死後今まではっきりしていた意識が、徐々に薄れていき、世界は暗転した。

 


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