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Paranormal World-パラノーマルワールド-  作者: mirror
一章 そして、霧が彼らの日常を侵し始める。
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第十二話

 脳がバグるというのを身をもって体感した気がする。

 建物は崩れ廃墟となり、コンクリートにはびっしりと苔が生えている。ひび割れた地面には所々水が流れており、僕の靴を冷たく濡らした。


「え、何々何が起こったの⁉︎」


 突然のことに動揺したが、この世界が仮想空間だということは証明されたことになる。

 その直後、どこからか視線を感じた。

 とても強く感じるが、近くに視線の主は見当たらない。


「気のせいか?」


 そうは言ってみたものの、未だにねっとりとした視線は僕を見ている。見続けているのが伝わってくる。

 何かのイベントだろうか。そんな情報はネットにも上がってなかったし、事前の説明もなかったはず。そもそも『G.A.T.E』には謎が多すぎる。


「他の参加者はみんな消えてたから、いるとしたらNPCだと思うんだけど」


 それともみんな違う場所からのスタートなだけて他の参加者もこの秋葉原にいたりするのだろうか? 流石に僕のスタート地点が会場だったことを考えると他のプレイヤーが別の場所スタートとは考えにくい。

 何より付き添いとして参加しているはずの優希ですら姿を見せないのだから、きっと個別のワールドなのだろう。同時接続は処理が追いつかないのかもしれない。

 足場の悪い中を進むのはこんなにも疲れるものなんだと実感した。舗装された道しか通った事のない人間に長時間このエリアはきつい。

 瓦礫が積まれて通れなくなっている場所もあり、一度はよじ登ってみたが、遠回りしたほうが楽だと感じた。

 一度立ち止まって目を凝らして見渡すと、遠くでぼんやり青い光がゆらめいているのが見えた。どれだけ目を凝らしてもそれ以上にはっきりと光の正体が見える気はしない。


「視力落ちたのかな――」


 口に出してから、ここが仮想世界なことを思い出す。


「視力なんて概念ないか。だとすると設定で決められた半径より外のオブジェクトはぼやけて見えるようにしてあるのかな。酔い防止とかで」


 そうしているうちに、パッと青い光は廃ビルの陰に姿を消した。


「あ、ちょっと」


 僕は光を追うようにして慌ててその場から動く。

 思ったより体の自由は効かない。仮想世界なんだからビルぐらい飛び越えるレベルの跳躍力とかあってもいいんじゃないかとも思ったが、あくまでその辺りは現実遵守という形らしい。

 光を見失ったビルを曲がってみても、そこにはただ荒廃した街並みがあるだけだった。

 ちょうど秋葉原駅の反対側まできたらしい。景色が荒れているせいで場所がイマイチ把握できない。


「はあ、はあ……ちょっと休憩……インドア派にはきついって」


 膝に手をついて呼吸を整える。

 普段から運動をしている人間じゃないから、ちょっとの運動でも息が上がってしまう。


「仮想空間で息切れって、はあ……どういうこと……」


 いわゆるスタミナというステータスなのだろうか。ステータスを見られる端末やUIは存在してないから確認しようもない。

 ただ、もう少しデメリットは軽くてもいいと思う。こんなに心臓が痛いほどにバクバクと速いスピードで動いていることなんてリアルでもめったに無い。

 あまりの辛さに地べたに寝そべりたくなる気持ちを必死に抑える。

 ゆっくりと深呼吸をして周辺を見渡してみるが、青く光っている物体の存在は確認できない。


「完全に見失ったか……ショックだなぁ」


 なにかのクエストだったりしたのだろうか。

 青い光を捕まえられたら賞金! みたいなのがあったら反応に遅れた自分を恨むぞ。

 文句を言いながらその場から離れようと踵を返す。

 足元に水が流れてきて、靴が濡れた。その水はラジオ会館だったと思われる建物の中から流れてきているようだ。

 そろそろ疲れて休憩したい気分だったのでどうしようか迷ったが、もしかしたら建物の中に青い光の正体がいるかもしれないという淡い期待が湧く。

 もしなにもなくてもそんな長距離移動でもなし、失うものもないだろう。


「行ってみるか」


 僕は水が流れてくる先へと進路を切り替える。


「ちょうど喉乾いてたんだよね。飲んで大丈夫な水かな」


 仮想空間で喉が乾くのもなんか不思議な気分だ。そういえば数年前に流行ったアニメでも、仮想空間で飲食してたっけ。

 ラジオ会館だった建物に入ると、元々はエスカレーターのあった場所が崩れて池になっていた。泳げるんじゃないかって位広い池。そこから溢れるようにして僕がきた方向へと流れていく。


「この感じだと上には上がれそうにないな」


 エレベーターも確認してみたが、当然機能しているはずもなく、ボタンを押しても音はならず、明かりすらつかない。なす術がなくなり肩を落とす。


「ほんとどんな世界設定になってるんだろ。興味あるな」


 荒廃した世界に興奮しながら池へと近づく。


「あれ……」


 池に僕の姿がうつしだされた。

 その姿、確かに僕なのだが、どこか違和感があった。

 そもそも気にしてこなかったけど、僕の肉体のモデルデータはどうなってるんだろうか。顔はドーム上の機械がリアルタイムにスキャンしているとしても、体は……? 服だってリアルで着ていたままだ。

 疑問に腕を組み首を傾げていると、地面が激しく揺れ始めた。


「ちょ、まさかゲーム内でも地震⁉︎ それともリアルで地震が起こってるとか?」


 どう動けば良いかわからないままその場で立ち止まっていると、唐突に世界が暗転する。

 そして。




「「「あああぁああぁああぁあああああああああああ‼︎」」」




 そんな悲鳴とともに強く頭を打たれる感覚が走り、僕の意識は現実へと引き戻された。


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