5.ケチャップみたいな夕焼け。
「うわぁ。見てみて、真っ赤な夕焼け。すっごい綺麗!」
街中を流れる川に架かる橋の上で、乃維が嬉しそうに
手を広げた。
直接見るには少し眩しい太陽は、少しずつその色を
朱に染め、緩やかになっていく。
「ほんと綺麗……」
言いながら咲良は目を細めて乃維を見る。
何に対して綺麗と言ったのか分からない。
乃維は照れくさくなって足を止める。
「ねぇ、咲良。楓ちゃん、告白出来たかな?」
無邪気に聞いてくる乃維が可愛い。
だけど咲良は首を振った。
「それは無理かなー」
「えー、なんで? だってずっと好きだったんでしょ?
恭ちゃんのこと」
「うん。でもね、告白は勇気がいるから」
「それは──そうだけど……」
語尾が小さくなる。
どんな状況でも、告白するのには勇気がいる。同性
だったら尚のこと。それは乃維も咲良も痛いほどに
分かる。
「拗らせ過ぎたから」
ポツリと咲良が言った。
想っていた月日は長い。
その間、何度も諦めようとした。だけど無理。今更
諦めることもできない。
「そんなものかなぁ」
乃維が言う。
「そんなものなのです」
咲良が言う。
二人でフフフと笑う。
「ねぇ」
乃維が言う。
「うん?」
「……恭ちゃんの宝物がなかったら、今の私たちは
なかったの?」
「……」
「咲良も拗らせてた?
私ね、まだ咲良から、好きって言われてない。
手紙──もらったけど。でも、これは九年前の
ものだから」
「……」
暗に答えを聞かせてと催促する。
乃維だって、咲良の気持ちはもう分かってる。
九年前の手紙ではあるけれど、照れる咲良を見ると
改めて聞くのがなんだか可哀想で、ズルズル延ばして
しまったけれど、でもやっぱり答えはきっちり聞いて
みたい。
さっきの楓ちゃんと恭ちゃん、なんだかいい雰囲気
だった。
もしかしたら楓ちゃん、告白するかも。
受け入れるつもりだったら、恭ちゃんはきっと好きって
言う。そしたら二人に追い抜かれる。
「……」
変な競争心が芽生えた。
だって、私の方が先だったから。
だから追い抜かれるのは嫌だった。
「乃維」
咲良が真面目な顔で乃維を見る。
乃維はドキリとする。
夕焼けに染まる咲良は、不安になるほど綺麗だった。
「は、い」
間抜けな返事だ──と、乃維はちょっと後悔する。
咲良の手が伸びてきて、乃維の頬に優しく触れた。
あったかい──
乃維は目をつぶってその手に頬をゆだねる。
「乃維……好き」
「……っ」
言葉と共にそっと触れた唇。
柔らかいその感触を一瞬だけ自分の唇に受けて、乃維は
ほっと息をつく。
「もう一回」
「……ダメ」
「えー……もう一回!」
「もうしません」
「やだ、そんなの──」
その時、乃維のスマホが着信を知らせた。
「もう、こんな時に誰──って、あお母さん? どうしたの?」
うん、うん、と乃維は咲良に背を向けて話をする。
「うん。分かった、大丈夫。今ね、咲良がいるの──うん。
分かってるって、平気だから。はーい。じゃ、」
そこで電話を切る。
「ふふふん」
「……どうしたの?」
「あのね、お母さん達遅くなるから、ごはん適当に作って
食べてなさいって」
「……」
「咲良、ウチ来るよね? お母さん達帰ってきたら送って
くれるって言ってたよ?」
言って咲良の腕に自分の腕を絡めた。
「え、でも──」
「来るよね?」
「──う。うん」
「やったぁ。何作ろっかなー。咲良、オムライス好き?
私ね、ふわふわオムライス作れるんだよ? バター
たっぷりのふわふわオムライス」
「オムライス!?」
「嫌い?」
「すごく好き!」
「じゃあ、たくさん作る!
そあだなぁ。三人前くらい?」
「五人前!」
「あはははは。咲良、それっていくら何でも食べ過ぎだよ。
あ、でもいっか。確かごはんも卵もたくさんある。
作り置きして後でまた食べれるし」
「全部食べれるよ? わたし、こう見えても大食らいだから」
「うふふふ。知ってたー。太っちゃうよ?」
「わたし、何故か太らないんだよね」
「なにそれ、イヤミ?」
そんな事を言い合いながら、二人は夕焼けの中に
溶けて行く。
ケチャップみたいな夕焼けだなぁ……なんて、思いながら。
これでこの物語はおしまいです。
長々とお付き合いして下さり、ありがとうございました。
完結は、見直して若干の書き直しをして、ポチりたいと思います。
次回作は、『シフォン』の書き直しを秋にアップする予定です。(もしくは冬に狐丸)
こちらもどうぞ、よろしくね(*^_^*)




