表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくらのさくら  作者: YUQARI
終章
96/96

5.ケチャップみたいな夕焼け。

「うわぁ。見てみて、真っ赤な夕焼け。すっごい綺麗!」

 街中を流れる川に架かる橋の上で、乃維(のい)が嬉しそうに

 手を広げた。

 直接見るには少し眩しい太陽は、少しずつその色を

 朱に染め、緩やかになっていく。

「ほんと綺麗……」

 言いながら咲良(さくら)は目を細めて乃維を見る。

 何に対して綺麗と言ったのか分からない。

 乃維は照れくさくなって足を止める。

「ねぇ、咲良。楓ちゃん、告白出来たかな?」

 無邪気に聞いてくる乃維が可愛い。

 だけど咲良は首を振った。

「それは無理かなー」

「えー、なんで? だってずっと好きだったんでしょ?

 恭ちゃんのこと」

「うん。でもね、告白は勇気がいるから」

「それは──そうだけど……」

 語尾が小さくなる。

 どんな状況でも、告白するのには勇気がいる。同性

 だったら尚のこと。それは乃維も咲良も痛いほどに

 分かる。

(こじ)らせ過ぎたから」

 ポツリと咲良が言った。

 想っていた月日は長い。

 その間、何度も諦めようとした。だけど無理。今更

 諦めることもできない。

「そんなものかなぁ」

 乃維が言う。

「そんなものなのです」

 咲良が言う。

 二人でフフフと笑う。

 

「ねぇ」

 乃維が言う。

「うん?」

「……恭ちゃんの宝物がなかったら、今の私たちは

 なかったの?」

「……」

「咲良も拗らせてた?

 私ね、まだ咲良から、好きって言われてない。

 手紙──もらったけど。でも、これは九年前の

 ものだから」

「……」

 暗に答えを聞かせてと催促する。

 乃維だって、咲良の気持ちはもう分かってる。

 九年前の手紙ではあるけれど、照れる咲良を見ると

 改めて聞くのがなんだか可哀想で、ズルズル延ばして

 しまったけれど、でもやっぱり答えはきっちり聞いて

 みたい。


 さっきの楓ちゃんと恭ちゃん、なんだかいい雰囲気

 だった。

 もしかしたら楓ちゃん、告白するかも。

 受け入れるつもりだったら、恭ちゃんはきっと好きって

 言う。そしたら二人に追い抜かれる。

「……」

 変な競争心が芽生えた。

 だって、私の方が先だったから。

 だから追い抜かれるのは嫌だった。


「乃維」


 咲良が真面目な顔で乃維を見る。

 乃維はドキリとする。

 夕焼けに染まる咲良は、不安になるほど綺麗だった。

「は、い」

 間抜けな返事だ──と、乃維はちょっと後悔する。

 咲良の手が伸びてきて、乃維の頬に優しく触れた。

 あったかい──

 乃維は目をつぶってその手に頬をゆだねる。

「乃維……好き」

「……っ」

 言葉と共にそっと触れた唇。

 柔らかいその感触を一瞬だけ自分の唇に受けて、乃維は

 ほっと息をつく。

「もう一回」

「……ダメ」

「えー……もう一回!」

「もうしません」

「やだ、そんなの──」

 その時、乃維のスマホが着信を知らせた。

「もう、こんな時に誰──って、あお母さん? どうしたの?」

 うん、うん、と乃維は咲良に背を向けて話をする。

「うん。分かった、大丈夫。今ね、咲良がいるの──うん。

 分かってるって、平気だから。はーい。じゃ、」

 そこで電話を切る。

「ふふふん」

「……どうしたの?」

「あのね、お母さん達遅くなるから、ごはん適当に作って

 食べてなさいって」

「……」

「咲良、ウチ来るよね? お母さん達帰ってきたら送って

 くれるって言ってたよ?」

 言って咲良の腕に自分の腕を絡めた。

「え、でも──」

「来るよね?」

「──う。うん」

「やったぁ。何作ろっかなー。咲良、オムライス好き?

 私ね、ふわふわオムライス作れるんだよ? バター

 たっぷりのふわふわオムライス」

「オムライス!?」

「嫌い?」

「すごく好き!」

「じゃあ、たくさん作る!

 そあだなぁ。三人前くらい?」

「五人前!」

「あはははは。咲良、それっていくら何でも食べ過ぎだよ。

 あ、でもいっか。確かごはんも卵もたくさんある。

 作り置きして後でまた食べれるし」

「全部食べれるよ? わたし、こう見えても大食らいだから」

「うふふふ。知ってたー。太っちゃうよ?」

「わたし、何故か太らないんだよね」

「なにそれ、イヤミ?」


 そんな事を言い合いながら、二人は夕焼けの中に

 溶けて行く。

 ケチャップみたいな夕焼けだなぁ……なんて、思いながら。


 

これでこの物語はおしまいです。

長々とお付き合いして下さり、ありがとうございました。

完結は、見直して若干の書き直しをして、ポチりたいと思います。


次回作は、『シフォン』の書き直しを秋にアップする予定です。(もしくは冬に狐丸)

こちらもどうぞ、よろしくね(*^_^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ