6.真実。
キョータロは口を開く。
「約束してたのに、ちゃんとした説明出来なくてごめん。
正直今の今まで、その事すら忘れてた。
でも、思い出した。
全部、全部オレのせいだった」
キョータロの言葉に耳を疑った。
キョータロのせい? なんで?
「それって、あの事故が原因ってこと?
何言ってんの? あの時の事故は、お前のせいなんか
じゃないだろ?
そりゃ、もしかしたら道に飛び出したのはお前かも
しれないけれど、でもそれとコレとは──」
だけどキョータロは首を振る。
違う、そーじゃないって言って。
そうじゃない? いやでも、そうだろ?
何があったとしても、キョータロは道に飛び出すような
不注意なヤツじゃなかった。子どもだったけど、妙に
大人びた感じのする子どもだったから。
あの時は状況が状況だった。咲良に責められて、
キョータロは明らかに傷ついていて、だから──
キョータロは困ったように息を吐く。いや、オレの
せいだよって言って。
「それがさ、その事故じゃないんだよね。記憶なくした
原因も、小学校が城峰になったのも」
「それじゃない?」
「うん。可笑しいよね。直接関係してた事故ってさ、
漠然と覚えてるの。
心のどこかでひどく後悔してるから、どんな事故が
起こったよく覚えてなくっても、体で覚えてる。
オレね、とても後悔してた。
ほら、事故があったろ? 乃維がケガする事故。あの時
乃維は足をケガして、今は治ってるけど、でも時々
動かなくなる。
事故自体は覚えてないのに、漠然と知ってる。
あぁ、これはオレのせいって。オレが悪かったん
だって。守らなくちゃいけなかった妹を、オレが傷つけ
たんだって」
言われて俺は頭を捻った。
事故?
交通事故じゃなくって、乃維ちゃんがケガ?
そんなの……あったっけ?
考える俺を見て、キョータロが笑う。
「やっぱり、覚えてないよね?
オレの事故の方が強烈だったから。入院までしたし。
あ、その時の入院先もここなんだ。
ここはね、あ、知ってるよね個人病院。
伯母ちゃんが看護師してるけど、医院長が伯父さん。
本当なら入院なんてしなくて良かったかもだけど、記憶
途切れ途切れだったし、外傷なかったけど、頭をどれだけ
打ってるかも分かんなかったから、一応ここに来たんだ。
あぁ見えて、みんな心配症なんだよ。可笑しいよな、
自己中って思ってたのに、こんな事になると凄い連携
発揮するんだ」
そう言ってキョータロは困った顔をする。
「乃維の時のケガはね、入院する程じゃなかったし、
見た目もそんなにひどくなかった。でもあの時も
今のオレの状況と一緒で、本当はこうやって寝てなきゃ
ダメだったんだ。
要はさ、市のね、管理が行き届いていなかったの」
し? 『し』ってあの市町村とかの『市』?
キョータロが何を言い始めたのか正直わからなくて、
俺は目を見開く。それが滑稽だったのか、キョータロは
クスクスと笑った。
「公園、知ってる? 展望エリアのプラタナス。あの
近くには小さいけれど崖があるんだ。誰も行かない
ような場所にあるから、時期によっては草刈りも
十分じゃない。
足元がよく見えなかった乃維が、木の実を取ろうとして
崖下に落ちた。
オレが取って来いって言った。それが原因」
言って頭を押さえる。
そこで初めて気づく。
あぁ、そうだったんだって。
キョータロはそれをずっと気にしていたんだ。そんな事
すら俺は気づけなかった。
交通事故じゃなくって、自分のせいで乃維ちゃんが
ケガした出来事。それが大きな傷になって残ってた。
だけど気づけなかった。
キョータロの言葉は続く。
「それだけじゃない。連れて行った市立病院じゃ、よく
調べもせずに大丈夫だって言われて、湿布を貼って
もらっただけ。母さんもそれ信じて良かったねって
言ってたのに、あとで分かったのは靭帯損傷。変な風に
治したせいで、時々走れなくなるって言うおまけ付き。
そしてそれに気づいたのが、ここの医院長。だから
オレは、大きな病院……市立病院には行かず、ここに
いるってわけ。
結局さ、母さん、市のやり方に納得いかなかったんだ。
納得いくわけないよね? だって乃維が傷つけられたん
だから。
ホントはあの時、市を相手に、文句のひとつも言えた
かもしれない。でも言わなかった。
何故かって言うと、一番ショックを受けてたのがオレ
だから」
言ってキョータロは泣きそうな顔をする。
「乃維は、笑って平気だって言った。今でも覚えてる。
足、痛いくせに真っ青な顔して必死に堪えて平気
だよって。お医者さん、湿布貼ってれば良くなるって
言ったよって。
でも──違った 。結局、動かない足にしてしまった。
生活には困らないよ? でも納得いかないだろ?
だから市立の小学校には行けなくなったんだ。
市、そのものに嫌悪感持ってたから 」
あぁ、そういう事だったのかと納得した。




