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さくらのさくら  作者: YUQARI
第1章 恭太郎
9/96

8.兄としての威厳。

※R6.7.11書き直しによる追加。

 あの時のニコニコ笑顔の楓真の顔が脳裏(のうり)(よみがえ)る。

 妙に嬉しそうな顔をして、乃維(のい)の姿でも想像していたに

 違いない。けれど楓真(ふうま)は急にハッと我に返ると

 とても真面目な顔をして、ブンブンと頭を振る。

『ダメダメ! そんなの他の奴らに見せ──いや、

 そんな事したら、逆にキョータロ、目立っちゃうよ?

 それでもいいの!?』と前のめりになって否定した。

 ……いや、だからオレ、着ないしねスカート。

 オレのスカート姿想像したらしくって、楓真は秒で

 却下しにかかってきた。オレだって嫌だし。

 いやでも、それもちょっと、どうかあるよね。乃維は

 OKで、オレはNGって事?


 だけど後で思ったんだ。乃維の場合は女子用の

 スラックスを買ってあるから、それを着れば全く

 違和感ない。上着のデザインに男女差はないから。

 制服のラインはさすがに違うけれど、デザインは

 一応一緒。

 で、そこで問題になるのはオレ。さすがに

 スカートはキツイ。だからオレは、乃維の制服は

 着ずに普通に自分のを着ればいいと思うわけで──。

 そう言ったら、楓真は顔を(しか)めた。


『あのねぇ、そもそもそんなの論外なの。現実的に

 有り得ないよね? いくらうちのクラスのメンバーが

 ほぼ変わらないって言っても、外部からも入学者は

 いるんだよ? そんな中、乃維ちゃんにお前の影武者

 させる気なの? 務まると思ってんの?

 乃維ちゃん、恭太郎の名前で呼ばれるんだよ? 髪の

 長さだって違うだろ? その為に切らせるの? 自分が

 嫌だからって乃維ちゃんそんな目に合わせて、お前は

 普通に座って見てるだけ?

 いやいや、さすがにそれはないよね? そんなんで

 キョータロの良心は傷つかないの? だいたい

 バレないって思ってるところがそもそもの間違え

 なんだよね。バレないわけないでしょ。なに

 考えてんの?』

 ──なんて、矢継(やつぎ)(ばや)に言われて、オレは怯む。


 確かにそうなんだよね。自分だけ余裕かまして座って

 見てるなんて、オレには出来ないし、みんなを騙し

 切れるとも思ってない。しかも乃維は次席じゃない。

 次席のヤツからしたら、とんでもない身びいきに

 見えるかもしんない。

 うーん。どうしたものか……。





「ちょっと、恭ちゃん! 恭ちゃんの頭の中は

 お花畑なの!?」


 悩んでいたら乃維に一喝(いっかつ)され、途端現実に

 引き戻される。

 あ。現実逃避してた。これはもう重症だな。


 そして乃維は、そんなオレに向かって、例え炎で

 あっても簡単に凍ってしまうんじゃないだろうかと

 思うほどの冷たい目をオレに向ける。

 やめて。オレ、凍っちゃうよ?

「……なに馬鹿なこと言ってんの? そんなこと出来る

 わけないじゃない。そもそも私は受け入れないからね、

 身代わりなんて。そんなの怒られるに決まってる

 じゃない。

 いい加減、腹を(くく)りなさいよっ! お母さんだって

 楽しみにしてるんだからね!」

 うわぁーん。そうですよね。そう来ますよね?

 間近でギロリ……と(にら)まれ、オレは息をするのすら

 ままならない。

「──はひ」

 変な声が出る。

「ほら、行くよ……っ! ちゃっちゃと立って! ったく

 図体ばかり大っきくなって。重いったらないっ!」


 言って乃維は、オレをズルズルと引き()った。

 ホント馬鹿力。そうやって引き摺られると、

 立てないんだけども。

 いやいやでも、ここで負けたら男がすたる。オレも

 負けちゃいられないと、ぐぐぐっと踏ん張って、

 どうにか連れていかれるのを阻止(そし)してみた。

 ふふん。オレだってやる時にはやるんだかんね。


「乃維! お前なら絶対出来る。それにお前、一応

 十番内には入ってたんだろ? 資格は十分にある!

 見た目はオレとそう変わらないらしいし。

 なんなら先生に言って、総代を乃維に代わって貰う

 ように言えば……」


「変わるわっ! 美しい乙女を捕まえて、ガサツな男と

 一緒にしないで欲しい」

 再びギロッと睨まれる。

 ……あー……まず、そこに引っかかりましたか。代役の

 方じゃないんですね。でもあれですよ? ホント

 似てるってよく言われるもん。オレ、悪くないし。

 ──っと、目力凄いんですけど。

 オレは思わず目を逸らす。


「それに初制服が自分のじゃないとか有り得ないし。

 代役なんて更に有り得ない! 次席でもない私が出来る

 わけないじゃん!

 ほらっ! 大人しく立つの。……ったく、いい加減

 諦めなさいよね! 」


 どこが『美しい乙女』だよ。ガサツは、お前だろうが。

 下手をしたら持ち上げられそうになるのを必死に堪え

 オレはどうにか乃維の動きを止める。

 いやだ、行きたくない! 絶対、いーやーだぁーーー

 とゴネていたら、背後から可愛らしい声が降ってきた。




「あのー……もしかして、乃維先輩ですか……?」




「「!?」」

 やった! これはもしかしなくても天の助け!?

 これはアレだよアレ! 乃維のファンクラブ。

 イヒヒヒ。なんていいタイミング。ここは一つ、その

 (すき)(ねら)って──。


「……」


 隙を狙って逃げようと思っていたけれど、無理

 だった。どう考えても逃げられない。

 しまった。ここって袋小路じゃね?

 植木が邪魔で逃げられないってやつ──。


 オレはげんなりと力をなくす。

 これはもう、捕獲決定なのかもしれない。

 オレはガックリと、頭を垂れた。

 

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