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さくらのさくら  作者: YUQARI
第10章 始まりの時。
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4.小百合さん。

 俺は入って来た人物に目を向ける。

 明らかにここの看護師さん。

 淡い水色の涼し気な看護服を着ていた。

 とてもドアを壊した人間には見えない。

 柔和な笑顔をその顔に貼り付けて、看護師さんは

 コツコツとこちらへと近づいて来て、キョータロの

 隠れている掛け布団に手を掛けた。

 ベッドの上で丸まっていたキョータロが、あからさまに

 ビクッと反応する。

 看護師さんは微笑んだ。


「さて恭太郎(きょうたろう)ちゃん。何か御用かしら?」

『恭太郎ちゃん』?

 やけに親しげなその言葉に、俺は更に眉をひそめる。

「お、伯母ちゃん。お、オレは呼んでない呼んでないぃぃ」

 布団の中に丸まって、くぐもった声でキョータロが

 弁解する。

 いや、それよりも伯母ちゃん(・・・・・)って?

「いいから見せなさい」

 言って『伯母ちゃん』は、キョータロの殻を引っ張り

 上げる。

「うわぁ。やめてやめてやめてぇ」

 キョータロの絶叫も虚しく、布団が剥がされる。

 真っ青な顔のキョータロが現れた。

「……ったく。体だけはいっちょ前に大きくなったのに

 中身はあの頃のままなんだから」

 ブツブツ言いながら看護師さんは、キョータロに

 近づくと、何のためらいもなく、そのパジャマを

 ひん剥いた。

 俺の目が丸くなる。

 え。何してくれてんの?

 止める暇もない。

 キョータロが叫ぶ。

「ひーん。楓真、楓真助けて。助けてぇ……」

「何が助けてですか! 大体あそこは近づいちゃだめって

 小さい頃から何回も言ってるでしょうが!」

 ぷりぷりと怒りながら、恵比寿顔から般若の顔に

 なった看護師さんがキョータロの胸に巻いた

 サポーターを整える。

「ほら、これでもう大丈夫でしょ?

 サポーターがズレただけよ。

 ったく。綺麗に折れていたらしいから、多少動いても

 問題ないけれど、体をねじるのはダメ。できるだけ

 真っ直ぐにしてるのよ」

 言って看護師さんは、バシンとキョータロの背中を

 叩いた。

 かなりの勢いだったらしくって、キョータロはむせる。

「うぐっ、ゴホゴホゴホ……」

 えっとこの人、ホントに看護師?

「」

 俺は絶句する。

 基本、水野家は変わり者揃いとは思ったけれど、

 ここまで強烈な人間がいるとは。



「あ。ゴホゴホ……ごめん。楓真、この人はオレの伯母さん。

 母さんのお姉さんにあたる人」

「え。櫻子(さくらこ)さんの?」

 思わず聞き返す。

 まさかの櫻子さん。てっきり父方だと思ってた。

 俺は目を丸くする。


 目の前の看護師さんは、キョータロのお母さん

 沙苗さんはモデル並みのほっそりタイプで、この

 ふくよかな看護師さんとは、似ても似つかない。

 え? マジで?

 でもキョータロは言った。

「見た目、あんま似てないけど、名前と性格はそっくり……。

 名前は小百合(さゆり)って言うの」

「嫌だわ。何言ってんのこの子は。あんな性格ブスと

 一緒にしないで欲しい。名前だって、最初の一文字

 しか一緒じゃないじゃない」

 ごもっとも。

「……あ、はい。ごめんなさい」

 キョータロは素直に頭を下げる。

 見た目はともかくとして、性格は確かに似ている。

 櫻子さんもマイペースを猛進しているような、そんな

 性格をしている。一度決めるとテコでも動かない。


「でも、こんなだけどさ。仲はいいんだよね」

 苦笑いでキョータロは言って、小百合さんを見る。

 けれど小百合さんは──

「まさか。こっちが仕方なしに付き合ってるだけです」

 ぷいっとそっぽを向かれた。

 哀れキョータロ。


「とにかく、こんな事で呼ばないで自分で直しなさい。

 今度くだらない事で呼んだら、ただじゃおかないよ」

 ギリっと睨んで小百合さんは、看護師さんらしからぬ

 言葉を吐いて、出ていってしまった。

 まさに台風。

 口は悪い。けれどあの様子だと、キョータロの事を

 心配してはいるんだと思う。呼んだらすぐに来て

 くれたし。


 キョータロが公園に近づかなくなったのも、案外

 小百合さんの希望も含まれていたかもしれない。

 小百合さん自身もそう言っていたし。

 心が不安定だったキョータロ。小百合さんは

 小百合さんで、防御線をひいていたって事だろう。


 そう思うと気持ちは複雑だ。

 ホントはキョータロのお母さんの櫻子さんだけが

 嫌がっていると思ってた。キョータロが公立の

 小学校に上がることとか、公園で遊ぶこととか。

 確かにキョータロの体調も悪かったこともある。

 だけど異様に徹底されたこの状況に、子ども心にも

 やり過ぎなんじゃないかなって思ってた。

 でもこの様子だと、もしかしたら親戚ぐるみで

 コトは成されたのかもしれない。


「うわぁ。だから嫌だったんだよ。呼ぶなって言ったのに」

「ごめんって。でも分かるわけないだろ? あんな濃い人が

 くるなんて」

「……確かに」

 言ってキョータロは、クスクスと笑う。

「伯母ちゃん、あぁ見えて心配症なんだ。うちの母さんと

 タッグ組むと、ろくな事ない」

 困った顔でキョータロは言った。

 確かにやり過ぎ。

 でも、分からないわけじゃない。

 だって相手はこのキョータロだから。


 

お母さんの名前が違ってた( ˙꒳˙ ٥)

沙苗じゃなくて櫻子じゃん。

さすが私。

書き直しました。

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