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さくらのさくら  作者: YUQARI
第10章 始まりの時。
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3.恐怖の道田医院。

「あーはいはい。ごめん。ごめん」

 自分の気持ちを悟られまいと、ぞんざいな言葉を返す。

「ちょ。何……その、気のない謝り方」

 キョータロは髪を掻き上げながら、気だるそうに起き

 上がる。


 何気ない仕草なのに、相手がキョータロだと思うと

 ドキッとする。

 俺以外にもキョータロを見て、こんな風にドキッと

 するヤツ、いるんだろうか?

 思って、顔をしかめる。

 ──いない、とは言いきれない。きっとどこかにいる。

 そしてその誰かに、俺は絶対負けたくない。


 俺にとってキョータロが一番なように、キョータロに

 とっても、俺が一番であって欲しいと思う。

 けれどそれは、ワガママだろうか?

 普通じゃないって分かってる。

 身を引いた方がいいとも思う。

 でも、──そんなこと出来ない。

「……」

 結局、そこに行き着くんだよね。

 キョータロの為にはならない。でも、離れられない。

 かと言って、告白できるわけでもない。

 宙ぶらりんの状態のまま、しがみつく。

 迷惑な話、……だよね? 分かってる。でも今は

 どうしようもない。


 

「で、ここって。──どこ?」

 寝ぼけた目を(しばた)かせながら、キョータロは困った

 ように言う。そりゃそうだよ。キョータロんち

 じゃないし。病室だし。てか、自覚できてないとか

 どういう事なの。


 俺は軽く息を吐く。

 多分、キョータロは、自分の身に何が起こったのか

 理解出来ていない。いつもそうだ。後先考えずに

 行動する。

 それで学年首席とか笑わせる。いったいどれだけ

 周りを振り回せばいいの。

 せめて動く前に、俺に相談でもしてくれてたのなら

 こんな事にはなっていなかった。絶対に俺が守り

 抜いたのに。

 そう思うと、苛立ちしかない。


「……どこだと思う?」

 俺は寄せた眉を更に寄せ、キョータロを睨む。

 キョータロは睨まれて、目を瞬かせた。

 ……やっと起きたか。


「じゃあヒント。三択ね。①キョータロの部屋。

 ②俺の部屋。そして③は病室。どれだと思う?」

「……え、っと。…………③?」

 ベッドの上で正座をしながらキョータロは、ぽつんと

 呟く。反省はしているらしい。

「ピンポーン正解デス。てなワケで、殴っていい?」

「え、ちょダメです。やめてください。ホント

 ごめんなさい」

「何に謝ってんの?

 何が悪かったって思ってる?」

「え。だから、心配させちゃったって事、に……?」

「」

 なにその語尾のクエスチョン。

 やっぱり全然理解してないじゃないか。

「殴る」

「わー! 待って待って……って、いっ。

 胸、胸が痛……いぃっっっ!?」

 身を捩った途端、体に痛みが出たのか、体を『く』の

 字に曲げて、キョータロがうずくまる。

 俺は焦る。

 さっき投げ捨てた時は痛がらなかったのに、この

 タイミングで?


「キョ、キョータロ!? 待ってて、今、看護師さん呼ぶから」

「えっ、ちょ待っ、ここって小百合さんとこだよね!?」

「小百合さん? 誰だよそれ、」

「誰って──」




 ビ──ッ




 キョータロの答えなんて、待ってる暇ない。

 俺はすぐさま、ベッド横のナースボタンを押す。




 ──《はい。どうしましたか?》




 すぐに看護師さんらしき人が出る。

「あの、キョータロが胸が痛いって──」

「ち、違う! 大丈夫、大丈夫です!」

 叫ぶようにキョータロが声を張り上げた。




 ──《…………分かりました。すぐ行きます》




 ガチャンと通信が切れる。

 語尾、ちょっと不機嫌そうに聞こえたのは、気のせい

 だろうか?

 俺はキョータロに向き直る。


「キョータロ、なんで止めるの」

「いやだって、ヘーキだから。ほら、もう痛くない」

 言いながらイテテテテと顔をしかめる。

 ──痛いんじゃん。

 でもキョータロは、苦笑いを浮かべながら話を続ける。

「そしてここってさ、道田医院じゃないの?

 この病室、見たことある……」

 青くなってキョータロが聞く。

「え? そーだけど」

 俺は答えた。


 道田医院の病室は、病院らしくない。

 できる限り自宅を再現した──というのを売りにして

 いるから、パッと見、誰かの部屋に見える。だけど

 病院ではあるから、独特のあの消毒液のような匂いが

 充満していた。

 だけどあれだよね。なんで大型病院にしなかったん

 だろう? こんな地元の病院にキョータロ入院させる

 なんて。大丈夫なんだろうか?


 俺が眉をひそめた途端、キョータロは小さく縮こまる。

「だったら来るんだ。アレが。アレが来る──!」

「アレ?」

 俺は聞き返す。

 すると突然、ドタドタと物凄い足音と共に、バーンと

 病室の扉が開いた。

「うわっ! 来たっ!!」

 叫ぶなりキョータロは布団を頭から被る。

 え、何? てかキョータロ? 胸の痛みは?

 (いぶか)しく思ってドアの方を見ると、そこには

 ふくよかな女性の看護師さんが立っていた。


 とても、優しそうな人だ。

 温和な微笑みをその顔にたたえていて、見た目的には

 恵比寿顔?

 でも、荒々しい。今、ドア力いっぱい開けましたよね?

 ドア、歪んでないですかね?

 心配して見てみた途端、ドアはミシッと音を立てる。

 うん。ヤバい。外れないといいけど。



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