2.報われない愛情。
俺はそっとキョータロに頬を寄せる。
「キョータロ。なんの夢、見てるの?
乃維ちゃんの夢? ねぇ、俺の夢は見てくれないの?」
出来るだけ起こさないように、そっと囁く。
好き。本当に好き。どうしたらいいか分からないけれど
ずっと傍にいたい。
だけど嫌がるんだろな、こいつは。気持ち悪いって
言ってさ。
抱き寄せるとキョータロは、うーんと唸って嫌々する
みたいに体を捻じった。俺はハッとする。
えっと、起きちゃった?
けれどキョータロは少し唸って、再び大人しくなった。
起きる──わけ、ないか。
キョータロ、寝坊助だから。
俺は少しホッとして、そのままキョータロを抱き直す。
も少しくっついていられる。キョータロが目覚めたら
さすがにこんな事出来やしないしね。今のうちに堪能
しておくのが得策だよね。
そう思って俺は、腕に力を込めた。
キョータロは軽い。引き寄せれば簡単に抱き上げられ
るんじゃないかって、思うほどに軽い。
このまま抱き上げて、ウチにでも持って帰えれるんじゃ
ないだろうか?
そう思うと、愛しさが込み上げてくる。
うん。分かってる。俺って、そーとーだよねって。
だけどさ、自分の力が及ぶ範囲で大人しくされると
勘違いしてしまう。キョータロを守れるのは俺だけ
だって。
だからキョータロの傍には、俺がいなくちゃいけない
んだって。
まぁ、ホントそれって、俺の激しい勘違いなんだけど。
キョータロはそんなに弱くない。俺が憧れた人でも
あるから、どんな事になっても俺より上手く乗り越え
られるって分かってる。でも守りたい。キョータロの
傍にいて、キョータロの一挙一動を見て笑ったり
悲しんだり怒ったり、一緒に色んなことをしたいって
思うんだ。
キョータロにとっての一番になりたい。
他のヤツじゃなくて、俺を選んで欲しい。
でもそれには、俺っていう人間を認識してもらわ
ないといけない。──恋愛対象として。
「……」
だけど、──と俺は思う。
自分の想いだけでそんな事をして、万が一
キョータロに引かれでもしたら、きっと俺は生きて
いけない。嫌われたらどうしよう。同じ学校の同じ
クラス。
こっちに来るなと拒絶され、近づけないのに見る
ことだけ出来るなんて、生殺しもいいところだ。
「はぁ。報われない」
思わず呟く。
キョータロが女の子だったらなぁ。なんて思う事も
あった。あるけれど、見た目そっくりの乃維ちゃんを
見ても、ときめく事なんてない。
多分、キョータロはキョータロだから、俺は好きに
なったんだと思う。
ホント、救われない。
それでも好きで、ずっと傍にいたいと思う。そらなら
それなりの覚悟は必要だ。
付かず離れず。
この気持ちを悟られないように。友だち以上恋人未満?
その均衡を保つのは、簡単なようでいて難しい。
抱き寄せたキョータロはいい匂いがした。
ラベンダー? でも少し甘めの香り。バニラかな?
咲良たちとアイスでも食べたのかな?
なんて思いながら嫉妬する。
俺も行きたかったな。キョータロと公園。
そもそもキョータロは、例のあの事件からずっと
家に引きこもっていて、運動なんてほとんどしてない。
小さい頃、俺よりも背が高くてなんでも出来て、
憧れの的だったキョータロだったのに、今は俺よりも
背が低い。小さくて可愛い。抱きしめるのには丁度いい
大きさ……とか表現すると、ちょっとやらしいけど。でも
事実だ。
小さい頃、咲良がキョータロの事をチビチビ
言っていたのは、もしかしたら呪いの言葉だったんじゃ
ないだろうか。
だったら、咲良? グッジョブだよ。
いざとなったら、無理矢理にでも抱えて拐えばいい。
──なんて物騒なことも考える。
まぁ小学校あたりの頃なんて、女の子の方が背が
高かったりするから、咲良のその言葉は気にする
必要なんてなかったんだろうけど、あの頃はホント
俺たちはチビで、言い返せなかった。だから他の
ことでバカにされないように必死にいきがってたっけ。
でも、俺がキョータロに憧れていたのは本当だ。
すばしっこくて頭の回転が早くって、頼りになって。
ずっとキョータロみたいになりたいって思ってた。
それがこんなに可愛くなるんだから、ズルいと思う。
ツンツンとキョータロの頬をつつくと、キョータロは
『ううん』と唸って目を開けた。
あ。ヤバい。起きた。今度は確実に。
「……」
その場が凍りつく。
この状況、どう言い訳しよう?
俺に抱き止められたゆっくり目を開けたキョータロは、
驚いたように目を見開く。
俺は動揺する。
嫌がられるか?
──でも、離したくない。
うん。ここは一つ、冗談ぽくスルーしちゃえ。
顔では平静を装って微笑んでみる。でも、心の中で
必死に対策を考えてる。おかしな話だよね。
そう。例えば、お前から抱きついたんだぞ。とか
うなされてたから心配になったとか。言い訳は色々
ある。焦ることなんてない。
だいいち、キョータロは頭良いけど、そっち方面は
バカがつくほど疎いから。だから、守って
やらなくっちゃって思うんだ。
俺は改めてキョータロを見た。
キョータロは、驚いたように目を見開いている。
見開いてはいるけれど、……でもこれってまだ、
きちんと覚醒できていないやつだ。これは言い訳なし
でもいけるかな?
そう思って胸をなでおろし、今度はキョータロ観察に
移行する。寝起きのせいか、キョータロの鳶色の瞳は少し
潤んでいて、俺の保護本能を掻き立てられる。
どうしよう。ホント可愛いんですけど。
そして、その戸惑ったように薄く開けた唇。
「──っ、」
思わず唾を飲み込んだ。
ちょっとキョータロ? 俺相手だからかもだけど、
なんでそんなに無防備なの?
思わず奪ってしまいたくなる唇。
でも、そんな事できない。出来るわけない。
動揺を悟られまいと、俺はキョータロをベッドに
軽く投げ捨てた。
投げ捨てて焦る。そういやキョータロ、骨折れてる
じゃん?
「ぶわっ、ちょ……何、すんの。
楓真、ひどい……」
投げ捨てられたらキョータロがぐすんぐすんと鼻を
鳴らす。
胸は大丈夫そうだ。
でもキョータロ? ホントどんだけ可愛いの。
胸の中の心臓が、嫌というほど暴れ回った。
ここまで書いて、ハッと気づく。
終わる時のこと考えてなかった(ㅇ_ㅇ)
……まぁ、どうにかなるか。なるのか?
もうすぐ終わらせます。




