3.兄と妹。
達成感を味わいながら、オレはベンチに寝そべった。
そう。もう何も怖くない。
子どもの頃のバカな意地の張り合いは、もう必要ない。
初めっからそんなのいらなかったんだ。
そう思うと笑いが込み上げてくる。
「ふふ。ホントばかだよな。オレたちって」
くだらない事で必死になって、相手を傷つけて、でも
それが子どもなんだよな。
何も分からなくて幼くて。
「あ。そう言えば」
この公園で、めちゃくちゃ泣いた時があったっけ。
えっとあれは──
そう。オレが乃維に言ったんだ。
『あの栗の実を三つ取ってこい!』
命令ごっこ?
いつもは友だちみたいな関係だったオレと乃維だった
けれど、公園に行った時は特別だった。
オレは兄ちゃんで、乃維は妹。
家にいる時には気づかなかったけれど、世の中には
兄とか姉とか、妹とか弟が存在するって知った。
楓真は一人っ子だったけれど、咲良は違った。
年の離れた兄ちゃんが三人もいて、すごくカッコ
良かった。
いつも偉そうな咲良を意のままに操っていて、咲良は
とても嫌がっていたけれど、でも、咲良が危なく
ないように、じっと見守っているのが分かった。
一番上の圭兄ちゃんが、オレが見てるのに
気づいて、頭を掻いた。
『咲良はお転婆なんだ。だから俺たちが見守って
やんないと、すぐ訳のわかんない事するんだよ』
って。
蛇穴に手を突っ込んだり。ムカデをつついたり。
ハシゴを持ち出して、ツバメの巣を覗いたり。
聞いているとどれもやってみたくなる事ばかりで、
圭兄ちゃんはオレの鼻を弾いた。
絶対、真似するなよって。
ダメなものはダメ。
危ないものは危ないんだぞって。
オレは『うん』って頷いた。
圭兄ちゃんはそれを見て、よしっ! て言う。
だったら恭太郎は、妹を守るんだぞって。
だけど時々、イジメたくなるんだよね。そう言って
笑った。
その時はよく分からなかった。
だけど今は、何となく分かる。
同い年のふたこだけど、妹の乃維は可愛いと思う。
可愛いと思うと、少し弄りたくなる。
きっと咲良の兄ちゃん達も、そうだったんじゃ
ないかなって思う。
「栗の実、かぁ」
ぼんやりと呟いた。
ん?
待てよ。
栗の実。
栗の実!?
オレはガバッと起き上がる。
そうだ。忘れてた。木の実事件!
公園で起こったのは、なにも交通事故だけじゃない。
木の実事件もあった!
オレは慌てて立ち上がる。
アイツらはもう高校生。子どもじゃないって分かってる。
でも、あそこは危険だ。
今はもう、安全柵がついてるだろうか?
公園の手入れは十分できているんだろうか?
──ズキン。
「痛っ、」
頭が痛む。
思い出したくない記憶。
それは、後悔の念──。
オレが心の奥底から反省して、後悔したあの事件の
せいだと気がついた。




