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さくらのさくら  作者: YUQARI
第1章 恭太郎
8/96

7.まさかの陰謀。

※R6.7.11書き直し。

 

『ちょっと待て! オレより上のヤツいただろ!?』




 オレは叫んだ。当然叫んだよ?

 嫌だって(あらが)った。

 でも決まってしまった後にギャーギャー叫んでも、

 クソの役にも立たない。

 あぁ……考えるだけで、頭が痛い。


 中学校の頃のオレの成績は、どうにか十番台に入るか

 入らないかの位置付けだったはずなんだ。

 だからどんなに頑張っても、十五番代。

 オレの前には少なくとも、十四人の秀才たちがいるはず

 だった。

 それなのに、それなのに──。




『キョータロ……。真面目にテスト受けちゃったの?』




 毎回五番台につけていたオレの友達、楓真(ふうま)が呆れ顔で

 大きく溜め息をついて、そう言った。


『なに? お前って真面目なの? 普段あんなにテキトー

 なのに、入試、頑張ったんだ。エライエライ。

 でもね、新入生の挨拶がかかってるから、上位者は

 少し手を抜くってのが常識なんだよ?』

 そう言ってニヤリと笑う。


 ……うぐ。そんなの、知らないし。聞いたことも

 ないし。

 少なくともオレは、初耳だった。

 どこ情報? なんて聞いてみても、いやいやみんな

 知ってるし、ウワサの出処(でどころ)なんてあってないような

 ものだから……と、楓真は目を細める。


 いやもう、それってイジメじゃないの!? なんで

 親友のお前が知ってて、オレは知らないの? とか

 言っても、誰かはなるんだし、総代は頭が良くないと

 なれないんだよ? 名誉ある事なんだよ? 県内有数の

 進学校の首席だよ!? なんて、全然嬉しくない励ましを

 受けに受け、今に至る。


 オレは(くちびる)()()めながら頭の中で計算した。

 少なくともオレの前に十四人いるはずの上位者は

 一部は外部へ行く。

 うちの学校は進学校ではあるけれど、日本全国から

 したら中の上程度。まだまだ上がある。当然、それを

 目指すやつらはエスカレーター式なんかに甘んじて

 いるわけがない。受験戦争に()まれながら、強く

 (たくま)しく世の中へと巣立っていく。

 上位者十名は確実に出ていったよーなんて、楓真は

 教えてくれた。

 って事はオレの前は四人ってことになる。


 揃いも揃ってその四人が手を抜いてテストを

 受けたのか? てか、それってどうなの? 内部入学と

 言えども高校入試なんだぞ? 手を抜くなんて

 ありえない!


 オレはぶるぶると震えつつ、楓真を睨む。

 楓真だって、その四人の好成績者の一人だったはずだ。


『あー……と、それね。それはえっと、……あ、そう!

 それはね、別に悪気があったわけじゃなくって、俺は

 純粋にお前の挨拶が聞きたかっただけ。真面目な

 キョータロが見てみたいいなーなんて。

 半分冗談だったんだけど、でもまさか本当に……』

 選ばれるとか。凄いなーキョータロ、偉い偉い。

 まるで教科書を読むみたいな棒読みでそう言って、

 楓真はオレの頭を撫でた。

 いやいやオレ、子どもじゃないし。そんなんじゃオレ

 喜ばないし。

『……』


 ──でも、楓真に褒められると悪い気はしない。

 別にいいよ。挨拶だけだろ? すぐ終わるだろ? うん、

 すぐ終わっちゃうよ、そしたらなにか(おご)るからさ。

 だったら風音亭(かざねてい)のお好み焼き食べたい。分かった!

 ミックスのチーズ入り、ドーンと奢っちゃうよ!! ……

 なんて言われて納得したのが運の尽き。

 ……いや、納得してなくってもしなくちゃいけないん

 だけどね、新入生総代の挨拶。選ばれちゃったから。


 あぁでも、しくった。もうホント死んでしまいたい。

 楓真の勢いに押されて、思わず了承(りょうしょう)しちゃったけれど

 家に帰って正気に戻り、もの凄い脱力感が(おそ)ってくる。

 でももう、どうしようもない。後戻りなんて出来や

 しない。

 ずどーんと落ち込んでいるところに、練習するから

 学校に来いと元担任に電話で呼び出された。

 泣きっ面に蜂。弱り目に祟り目。一難去ってまた一難。

 ホントもう、どうにかして欲しい……!


 何もかもが嫌になって、思わず逃げたのに、結局

 (つか)まってしまった。

 ──捕まった理由なんて簡単だ。逃げきれないって

 思ってるから、簡単に捕まる。

 分かってるよ? そんなの。だけど、(あらが)いたくなる。


 最終手段として、乃維にオレの制服を着せて身代わりを

 してもらおうとも思った。この時も実は思った。

 ついでに言うと、その妙案を楓真には一度話している。

 だけどあの時楓真は、アゴに手を当て、考えながら

 言った。


『てことはだよ、キョータロが乃維ちゃんの制服着る

 ってこと?』

『え"?』

 まさかの展開。何でそうなる?

『だってそうだろ? そうしないと乃維ちゃん

 納得しないよ?』

『……』

 そう言われて考える。

 そもそも変わるなら次席じゃないとみんなが納得しない。

 手っ取り早く、似てる乃維に代役頼むとなるとオレの

 制服を乃維が着て、ガッツリ入れ替わる方式になる。


 ──いや、普通にバレるよね。


 似ているって言っても、それは兄と妹としてであって、

 さすがに瓜二つじゃない。ウケ狙いで当日強行突破

 したとして、怒られるのは目に見えているし、だいいち

 乃維は乗っかってこないだろう。『バカじゃないの!?』

 って(ののし)られるのがオチだ。

 例え『面白そう』って乗っかってきても、オレが乃維の

 制服を着るのは多分、免れない。


『……』

 想像して気持ち悪くなる。

 いやない。それはない。それくらいなら普通に壇上で

 貰った紙を読み上げた方がましだ。

 と、そう思っていたら、楓真は嬉しそうに笑う。

『案外、可愛いかもよ?』

 え? どっちが? と思ったけど聞かなかった。

 聞かなくても分かる。『可愛い』って言うなら乃維だ。

 表立って『好き』とは言わないけれど、多分楓真は

 乃維が好きなんだと思う。


 だけどそれって、兄として親友として、複雑

 なんだよね。実際直球で『お前、乃維好きなの?』

 って聞いたこともあるけれど、楓真は決まって

 嫌な顔をする。そこでオレは少しホッとするんだけど

 でも楓真はハッキリ『違う!』とは言わない。だから

 未だにオレは、もやもやするんだ。

 オレの制服を着た乃維。絶対それはブカブカで

 きっと可愛いかもしれないとは思う。楓真はそれを

 想像して『可愛いかも』とか言ってるんだと思うと

 少しムカついてくる。

 彼氏シャツ的な? ──制服はオレのだけど……。

 絶対嫌だ。そんな乃維を大衆の面前に出すとか。


 だからあの時は一旦断念した。だって癪だろ?

 楓真喜ばせる為に乃維にオレの制服着せるとか。

 いやもしかしたら、他の野郎とかも喜ぶかも。

 そう思ってゾッとする。

 ナシナシナシ。それはダメ。絶対有り得ない。

 

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