11.わたしも好きだよ。
なんのご褒美なんだろ?
思わずそんな事を思ってしまう。
嫉妬? 乃維が?
あの誰にでも優しい乃維が、嫉妬してる?
そんな事、あるのかな?
目の前の状況が計り知れなくて、わたしは答えに困る。
どうしたら、こんな思考になるんだろ? だって
わたしと太郎ちゃんは犬猿の仲で、二人っきりに
なりたいなんて思考、これっぽっちもなかったし、
そんな素振りは見せるはずもない。
それなのに、なんでこんな勘違い──。
「ねぇ、咲良? 聞いてるの?」
「え。あ、うん。聞いてる。聞いては、いるけど……」
見ると乃維は、今度は真っ青になってわたしの胸に顔を
埋めた。
微かに、──震えてる?
「えっと、乃維?」
顔を覗こうと体を捩る。
けれど乃維がそれを許さない。
ぎゅっと腕に力を入れて、わたしを抱きしめた。
「イヤ」
「……え?」
「嫌。嫌だから。
咲良が恭ちゃん好きになるのはイヤ。
私、私ね──」
──咲良が好きなの。
何を言われたのか、理解するのに時間が掛かった。
え?
今、なんて言った?
恭ちゃんが好きって言った?
文字通り、頭が真っ白になる。
兄妹で? ふたごで?
違う。
恭ちゃんじゃなくて、私?
私を好きって言った?
あ……そっか、友だちとして? 友だちとしてか。
わたしは納得する。
そ、だよね。
こんな変な想い抱えるのなんて、わたしくらい。
乃維はただ、友だちとして、わたしが好きって言った
だけ。
だけど心が傷ついた。
わたしの気持ちは、そんなんじゃない。
そんなの求めてなんかいない。
いずれ消えてしまう関係なんていらない。
でも──わたしは思う。
そんな消えてしまいそうな関係でも、傍にいたいって
思う。
その自分の汚い心が浮き彫りになって、わたしは
乃維を引き剥がしに掛かる。
あぁ、嫌なヤツ。わたしって、ホント嫌なヤツ。
口に笑みを浮かべて、わたしはセリフのような
言葉を吐く。
「ん、知ってる。わたしも乃維、好きだよ──」
軽い言葉。
そんなのが言いたいわけじゃない。
でも、これは自分を守るための言葉。
自分の想いを知られないためと、乃維を繋ぎ止める
ためのズルい言葉。
「がう──」
乃維は唸った。
『ガウ』? えっとそれは、犬の真似?
そう思っていたら乃維が急にこっちを見た。
すがるような、苦しそうな顔。
こっちが泣きたくなるような、そんな顔。
「違う。
違うよ、咲良。
ねぇ、咲良。私、どうしたらいいの?
私は咲良が好きで好きでたまらない。
私はおかしいの? これって思春期にありがちな
思い込み? いつかちゃんと忘れてしまえるものなの?」
「──」
悲痛に訴えるその言葉が、わたしの想いと重なって
言葉に詰まった。
答え?
答えなんてあるわけない。
だって好きなんだもん。諦めようと思っているのに
諦められない。
離れれば忘れられる?
ううん。そんなのウソだ。
友だち同士でいるから、近くにいるから諦めきれない
訳じゃない。
だってわたしは、乃維と九年間も会えなかったんだよ?
だけどやっぱり好き。忘れる事なんて出来なかったし
諦めきれなかった。だからこうして傍にいる。
だったらこの想いは、『本物』なんじゃ
ないのかなぁ……。




