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さくらのさくら  作者: YUQARI
第7章 咲良再び。
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7.言えない気持ち。

「多分さ、オレとお前っていわゆるライバル同士で

 楓真(ふうま)と違ってあんまり仲良くなかったイメージ

 があるんだよね」

「……」

咲良(さくら)はどうなのか知らないけれど、オレは

 お前のこと男だって思ってて、オレたちとじゃなくて

 乃維にベッタリだったのが気に食わなかった。

 乃維は乃維で『(さく)くんカッコイイ』とか言って

 懐いてただろ? あ、それが変に嫌な気分で、何かと

 突っかかってた。

 でも楓真は知ってたんだよな? 咲良は女の子って事。

 あいつも妙なところで秘密主義だから」

 太郎ちゃんは苦笑いする。

「そう言えば咲良って、楓真の家の近くに住んでるの?」

 太郎ちゃんの質問にわたしは静かに頷く。

 それを見て太郎ちゃんは更に困った顔をした。

「知ってるって思うけど、楓真んちの母ちゃんとウチの

 母さんが友だち同士で、行き来はしてたんだ。

 事故後にも行ってるんだけど、会わなかったのが不思議

 だよね」

 そう言って笑う。


 わたしは……わたしは笑えなかった。

 覚えていない? 絶対嘘だ。妙に細かいところまで

 覚えてるじゃない。

 こんなだったら、乃維(のい)に子どもの頃のわたしが

 ホントはどんなかだってバレてしまう。

 わたしは目をそらす。なのに太郎ちゃんの話は止まらない。

「でもね、オレだって咲、カッコイイって思ってた」

 ポツリと言ったその言葉に、思わず太郎ちゃんを見た。

 目が合った太郎ちゃんがニヤリと笑う。

 しまった。やられた。

 だけどもう遅い。

 グッと覗かれて、わたしは太郎ちゃんから目が離せ

 なくなる。

「だってそうだろ?

 木登りは出来るし身軽だったし、口喧嘩じゃ絶対に

 勝てなかった」

 そっか、女の子だったんだー。乃維と一緒だよね、

 オレね乃維にも勝てないの。口喧嘩。

 なんて言って、太郎ちゃんはヘラヘラ笑う。

 自分から目線をそらしてくれて、わたしは少し

 ホッとする。頷きながらわたしは口を開いた。

「そ。うちは男ばっかり三人の後にわたしが生まれたの」

「──え? 四人兄妹なの?」

 太郎ちゃんが目を見開く。

 目が飛びださんばかりの勢いに、わたしは思わず

 笑ってしまう。


「うん。だからお母さん達は、わたしにスカートとか

 ワンピースとか着せたがってたみたいだけど、わたしは

 お兄ちゃん達の影響受けて……って言うかお下がりも

 たくさんあって、それであんな格好してた。別に

 男の子になりたいとか憧れてた訳じゃない。環境が

 そうだったの。『わたし』って言う一人称より、

 オレとかボクとかそっちの方が聞き慣れてた。

 さすがにそれはお母さんが許してくれなくって、結局

 自分の名前の『(さく)』って言ってた」

「あ、なるほどね……」

 太郎ちゃんは納得したように頷いた。

「隠れんぼでよくここに隠れてたのも、見つかりそうに

 なったら木に登ればいいと思ってただけ。

 木登りはね、好きだったの。お兄ちゃん達から教えて

 もらったの。登り方」

 言って木を見上げる。


 わたしの隠れた木はウロがいっぱいあって、登り

 やすそうな木。子どもの目線から外れた上の方に

 行けば大抵は見つからない。

 なんだかんだ言ったって、子どもが探す範囲は

 決まってる。

 目立つ遊具や自分の背丈以下の場所。


 どこにでも生えている木のところに探しに来ても、

 見るのはその後ろをくらいですぐに違うところに

 移動する。まさかその木の上に友だちが隠れている

 なんて、思ってもみない。だから見つからない。

 見つかったとしても、その時にはもう、別の誰かが

 捕まってる。鬼にならない二番手なら問題ない。

 それをお兄ちゃん達が教えてくれた。

 一番見つからないのは木の上だって。

「なるほどね、兄ちゃんたちの知恵があったってわけか」

「ケンカも教えてくれた。

 背中を取る事が出来たら即、肘鉄入れろって教わった」

「いやそれ、ダメだからね。背骨とか脊椎とか、大切な

 器官があるんだぞ」

 太郎ちゃんは真っ青になって言う。

「え……そう、なの?

 あと鼻を狙えとか、男なら金的とか」

「──良かったよ。咲良と殴り合いのケンカしなくって」

 太郎ちゃんが後ずさりしながら言う。

 お兄ちゃん達との反応とは全く違う反応に、わたしは

 逆に疑問に思った。


「楓ちゃんとは……? 楓ちゃんとはケンカした事ないの?」

「楓真?

 えーっと、楓真とは……ない、かなぁ。あんま、覚えて

 ないけど。

 どちらかと言うと楓真は、オレが『こうして欲しい』

 って言う気持ち汲んでくれて、すぐに動いてくれる

 から、そもそもケンカにならないし」

「へー、……仲良いんだ」

 知ってたけど。

 わたしは言って、地面に落ちた枝をつついた。

 太郎ちゃんは知らないのか。楓ちゃんの気持ち。

 そっか、そうだよね、楓ちゃんだって言えないよね。

 だってきっと、この関係が壊れてしまうのが怖いもの。

 じん……と鼻頭が熱くなる。

 目の前が少し歪んでわたしは慌てた。

 やだ。こんなとこで泣いちゃダメだ。


 わたしは必死に涙を堪えた。

 

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