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さくらのさくら  作者: YUQARI
第7章 咲良再び。
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4.小さい頃の軽はずみな言葉。

「……」

 うん。分かってた。当然分かってた。

 これは確かに想定内ではあったんだけど。

 だけどだけど……。

 わたしは思わず唸る。


乃維(のい)……公園って、こんなに木があったっけ?」


 実のところわたしは、乃維たちに会えなくなった

 頃から、公園には近づかないようになった。だって

 行ったって、虚しくなるだけ。乃維は来ない。もう

 会うことはないんだってそう確信したから。


 希望を持ってなかったわけじゃない。

 ホントはずっと会いたかった。

 でも、楓ちゃんに怒られた。それがわたしの大きな

 傷になった。




 ──お前があんな事言うからだぞ。




 って、たった一言。


 子どもの一言って結構キツイ。

 楓ちゃんもだけど、わたしが太郎ちゃんに言った

 あの一言も。




 ──恭太郎(きょうたろう)は、乃維のお兄ちゃんには相応しくない!




 だからわたしが乃維のお兄ちゃんになるんだって。

 高校生になった乃維と太郎ちゃんは笑った。咲良(さくら)

 可愛いって。

 でも、わたし達がまだ子どもだったあの頃、

 太郎ちゃんは確実にその言葉で傷ついた。可愛い

 どころか、きっと太郎ちゃんにとってわたしは鬼に

 見えたかもしれない。

 そんな言葉。

 楓ちゃんに怒られた、あの時のわたしみたいに。


 子どもって、何も考えていないようで考えてる。

 純粋なようで辛辣(しんらつ)

 その言葉が真実だって、ホントは分かってる。

 自分でもずっと気にしていた事だから、だからあえて

 自分じゃない『誰か』が口にする事で、それが

 現実になってしまう。


 太郎ちゃんはあの頃、乃維のお兄ちゃんであろうと

 ずっと頑張ってた。

 ふたごで同い年なのに、何を頑張ってるのって今なら

 思う。だけど、だからこそ太郎ちゃんは余計に

 気負ってたんじゃないかなって思う。

 ふたごでも同い年でも、自分はお兄ちゃんなんだって。


 太郎ちゃんは必死だった。

 乃維のお兄ちゃんでいることに。

 そんな時にわたしは言ったんだ。

『恭太郎はお兄ちゃんらしくない』

『太郎ちゃんじゃなくて、わたしが乃維のお兄ちゃんに

 なる!』

 って。

 太郎ちゃんは、ずっと怖かったんだって思う。

 自分じゃなくて、男みたいな格好のわたしと好んで

 遊んでいた乃維。取られるって思ったのかもしれない。

 わたしだって、乃維を太郎ちゃんから取ろうって

 思ってた。

 言動や行動。全て太郎ちゃんに挑発的だった。

 だから太郎ちゃんは傷ついた。


 今思えば、些細なことだったかもしれない。

 だけど自分が気にしてること指摘されたら、誰だって

 辛い。

 そもそも同い年でお兄ちゃんとか、無理がありすぎる。

 持ちつ持たれつの関係でいるべきだったのに、

 自分が守る存在なんだって気負ってたんだから。



 太郎ちゃんは頑張り過ぎたんだ。

 少し考えれば分かるはずだったのに。わたしが乃維の

 お兄ちゃんにはなれないんだって。

 だけどあの時の太郎ちゃんには、そんな心の余裕なんて

 なかった。闇雲に走って帰った太郎ちゃんは、その直後

 事故に遭った。


 だから、わたしのせい。

 太郎ちゃんが傷ついたのも、事故にあったのも、全部

 わたしのせいなの。


 楓ちゃんだって言った。

 キョータロ、もう公園には来られない。

 乃維だってもう二度とあの公園には行かない。

 それはみんな、あの時お前がキョータロ傷つけた

 からだぞって。


 楓ちゃん怒ってた。

 そりゃそうだよね? 楓ちゃんにとって太郎ちゃんは

 大切な人なんだもん。わたしが乃維を大切に想う

 くらい、大切な人。

 だから太郎ちゃん守りに入るのは、当たり前で……。


 でも楓ちゃんのその一言が、わたしにとっては

 死刑宣告みたいな重さを持っていて、軽くわたしを

 突き刺した。


 だから来られなかった。

 乃維と一緒に遊んだ公園。

 それを見たら、わたしはきっともっと傷つく。

 これ以上傷ついたら、わたしだってどうなるか

 分からない。

 だから来なかった。

 来られなかった。



 それがまさかのこの状況。

 この公園にまた再び来るなんて、思ってもみなかった。

 しかもこの二人とだよ?

 なんの奇跡かって言うほどの事態発生。

 世の中分からない。

 ホント分からない。

 人生、捨てたもんじゃないんだなって、変なところで

 実感する。

 太郎ちゃんは未だもって苦手だけど、でも前よりかは

 仲良くなりたいって思ってる。

 勝手かな?

 勝手だよね?

 でも二度と同じヘマはしたくない。


 わたしは緩やかな丘……と言うより山? みたいに

 なっている公園を見た。


 ……うん。

 時の流れって恐ろしい。

 なんなのコレ?


 わたしは思わず立ちすくむ。

 



 ──木が、異様に多い。




 えっと、公園の木って、かなりたくさん切られたんじゃ

 なかったっけ? それなのにこの森のような公園は

 いったい何?


 実際、公園の木の伐採計画では、本当にたくさんの

 木が切られた。だってその木で県内の小中学校と

 保育園幼稚園、それからこども園なんかに、木の

 おもちゃが無料配布されたから。かなりの大盤振る

 舞いで話題になってた。


 ただ切って捨てたり売ったりするだけなら誰でも

 できる。

 けれどそれを有効活用し無料で配布するなんて、

 ウチの市も捨てたもんじゃないなって、お父さんが

 感心してた。

 伐採された木が有り余っていたから、出来たことだって

 思う。だから公園の木はすごく切られて、減ったん

 だって勝手にそう思ってた。

 そう……思ったのに、この鬱蒼(うっそう)と茂ってるコレ(・・)

 いったい何なんだろう?

 これってやっぱり『木』だよね?


 いやいやそれよりも、これは公園って言うより『森』。

 これじゃ、目指す木がどれなのか分かるわけない

 じゃない。


 これはアレだ。

 切ったには切ったけど、気が多すぎてそう見えなかった

 から、木のおもちゃの無料配布でアピールしたって

 ヤツに違いない。


 木の伐採は市民の要望だったらしいから、それなりの

 ポーズを取って、切った事をアピールする必要が

 あったのかも。

 もしくは、きちんと木を管理してますよアピール?

 ……うん。

 ホント抜かりない。

 行政って恐ろしい。


 

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