2.戻りつつある記憶。
「いやそれよりもさ、それって何? 砂場で遊ぶの?」
風呂敷からチラリと見えているスコップを指指す。
わたしは慌てて砂場セットを体の後ろに隠しながら
答える。
「そんなわけない。
だって太郎ちゃんが言ったんだよ? 宝探ししてって」
「確かに言ったけど、それでどうしようと思ったの」
プククククと太郎ちゃんの笑いは止まらない。
笑い上戸か? と思ったけれど、わたしはあえて
スルーする。
ここは無視するのが一番だ。
相手するだけ疲れる。前から知ってるじゃない。
太郎ちゃんって、こーゆー時は何故かしつこいの。
わたしは自分の心を出来るだけ落ち着かせ、息を吐き
ながら口を開く。
「確かにそうだよ。でもね──」
宝物があるのは曲がりなりにも『公園』。
となると、勝手に穴を掘るとか、許されるのかな?
わたしはまずそこを指摘する。
子どもならいいよ? 知らなかったって言えばいいし。
でも高校生は?
そう言うと太郎ちゃんは真面目な顔をする。
「ふむ。なるほど。一理ある」
意外にも素直に納得してくれた。
あれ? ちょっとビックリ。
「で、掘る能力の低いそのスコップの出番と言うわけか」
言いながら、でも肩が笑ってる。
やっぱり素直じゃない。
ふんっ!
お前になんか、わたしの気持ちは絶対に分からない。
「役には立たないかもだけど、昨日の雨で地面は
ビショビショだし、使えば手が汚れにくいって
思ったの!
悪かったわね。子どもっぽくて」
わたしはぷいっと、そっぽを向く。
乃維は慌てて、そんな事ないよーとわたしの袖を
引いた。
ケンカになるって思ったのかもしれない。
だけどケンカになんてならない。もうならない。
太郎ちゃんには関わらないから。
だけど太郎ちゃんは、そっか。と言って笑う。
ホント嫌なヤツ。いつまで笑ってんの?
「だから持ってきたの? 乃維と遊んだ砂場のおもちゃ」
──!
思わず息が止まる。
ビックリした。
まさか、太郎ちゃんがそれを言う?
言われて乃維がハッとする。
「え? そうなの?
あ。……よく見たらそうだ、だからどっかで見た事
あるって思ったんだ!
うわ、型抜きまである。
私ね、このカップの型抜きが好きだったの。丸く
なってて、型抜きするとまるでアイスみたいだから。
ふふ、よく持ってたよね? 咲良、物持ちがいい」
乃維が可愛らしく笑う。
そりゃそうだよ。唯一の思い出の品物だったから。
だけど、気楽に思い出話に花を咲かせてはいられない。
太郎ちゃん。思い出してる。
乃維すら忘れてるような事柄すら、覚えてる。
わたしはギュッと拳を握った。
きゃあきゃあと、はしゃぐ乃維を無視して、
太郎ちゃんに向き直る。
「思い……出したの?」
その言葉に乃維の動きが止まった。
「あ、ホントだ。
恭ちゃん、思い出してる?
私が忘れてる事すら思い出せてるなんて、すごい!」
乃維は純粋に喜んだ。
その影で、太郎ちゃんは嬉しそうに目を細めた。
「いや。一部だけ、ね」
言ってわざとらしく頭に手をやった。
「はぁ。でもやっぱり、無茶したかなぁ。頭がガンガン
する。公園まで行くのはやっぱり無理かな?」
なんて言ってる。
今更、なに言ってんのコイツ。
「……」
わたしは無言で太郎ちゃんを睨む。
もしかしたら、全部何もかも思い出しているのかも
しれない。
公園についてこようと思ったのも、何もかも全部
克服しているから出来たことなのかも。
そう思うとゾッとした。
なにか企んでる?
わたしに復讐しようとか、あの時の事を乃維に
暴露しようとか、そう思っているのかもしれない。
だけどそれも仕方ない。
そう思ってわたしは俯いた。
だってそれくらいわたしは、太郎ちゃんに
嫌なことをしてしまったんだから。




