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さくらのさくら  作者: YUQARI
第7章 咲良再び。
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1.お砂場セット、再び。

「で、なんなの……それ?」

 笑いを堪えながら、太郎ちゃんはわたしの持っている

 物を指差した。

 何を持ってるか──なんて、分かりきってるじゃない。

 昨日乃維(のい)が買ってくれた風呂敷に、そのまま

 例の『お砂場セット』を入れて昨日は持って帰った。

 風呂敷いらないのって聞いたら。どうせ明日持って

 来るでしょって、冗談めかして笑ってた。

 だから今日もまた、持ってきたんだけど、まさか

 今日は太郎ちゃん参加とか、聞いてない。

 ……


 いや、問題はそこじゃないよね?

 そもそも公園に近づくと体調不良になるんじゃ

 なかったの? それなのにいきなり参加とか、有り得

 ないんですけど。

 わたしは目の前の太郎ちゃんを睨む。

 ホント、なんでいるのよ。呼んでない。

「…………」


 昨日の夜から降り続いた雨は、雷を伴って夜中ずっと

 大荒れだったんだけれど、朝になって嘘のように

 晴れた。

 それでも宝探しはさすがに無理かなって、わたしは

 思ってたんだけど、晴れてるなら出来ない事もない。

 わたし達は相談の末、宝探しを再開することにした。

 それはいいんだけどね、何故か、太郎ちゃん(おまけ)付き。


 なんで?

 なんでいるの?

 解せない。

 解せるわけがない。

 思わずそれが顔に出る。


 そもそもわたしはあの事故の後、乃維たちと

 離れ離れになって、自分の感情を表に出すことを

 やめた。だって、この感情の赴くままに行動した

 からこその、あの失敗。もう二度とそんな過ちは

 犯したくない。でも、完全にそれが出来てるとも

 思っていない。

 そもそもわたしは、感情が爆発しやすい性格

 なんだと思う。

 それを隠そうとするんだから、かなり苦労した。


 あの時わたしが、太郎ちゃんに対して、あからさまな

 嫌悪感を表に出さなかったのなら、あの事故は

 起こらなかったかもしれない。

 そしたら二人は、相変わらず公園に来てたと、

 わたしは思っている。

 自分の考えを推し殺そうとか、そんな事は思ってない。

 ただ、言い方はあったと思う。

 もっと別の、優しい伝え方。


 それが出来ていたのなら、離れ離れになる事なんて

 なかった。小学校だって、本当は公立小学校を

 予定してたって楓ちゃんから聞いた。関係が険悪に

 なっていなかったのなら、もしかしたら小学校で

 乃維と一緒に登校出来ていたかもしれない。

 中学校だって、同じ学校だったかもしれない。

 あの事故がなかったなら……ううん。わたしがあの時

 癇癪さえ起こさなかったのなら、離れ離れになる

 必要もなかった。あの乃維のいなかった空白の九年間を

 悲しさで満たすことなんてなかった。四人笑い合い

 ながら、一緒に過ごせていたのかもしれない。

 そう思うと、悔やんでも悔やみきれない。


 けれど、事故は起こった。

 全て、わたしの癇癪のせいで。

 全部全部、わたしのせい。

 わたしのこの感情のせい。


 もう二度と、あんな思いはしたくない。

 もう二度と、離れ離れになりたくない。


 わたしはわたしなりに反省して、感情を押し殺す

 努力をした。

 確かにそれは、上手く出来てるとは思ってない。

 だって今まさに、嫌悪感丸出しだから。


「……」

 多分アレだ。

 わたしと太郎ちゃんは水と油なのだろう。

 相容れない関係。

 だから太郎ちゃん見ると、無性に腹が立つ。

 そして太郎ちゃんは太郎ちゃんで、わたしの感情を

 逆撫でするのが異様に上手い。

 なに。わざとなの?

 わざと怒らせようと思って、この状況を作ったの?

 そんなにわたしが嫌いなの?

 乃維をわたしから遠ざけたい?

 考えすぎ、なのかな?

 ううん。違う。

 絶対、考えすぎとかじゃない。


 だってそうでしょ?

 絶対、有り得ないもの。

 今日もまた、乃維と二人っきりで過ごせると思ってた。

 だからすっごく張り切ってた。

 だから昨日より、オシャレにも気を使ったし

 何もかも準備万端でやって来た。

 それなのに、まさかのコブ付きとか。

 ……



 わたしは人知れず歯ぎしりする。

「……っ、太郎ちゃん。なんでここに──」

 いるのよって言おうと思ったのに、すぐさま言葉を

 奪われる。

「え? いちゃ悪いの?

 だって、オレの宝箱を探すんだろ? だったら、本人

 いないってのは、さすがにおかしいかなって

 オレなりに反省したんだけど? お前もそう言って

 いただろ?」

 ニヤリと笑って、太郎ちゃんはドヤ顔を決め込む。


 言ったけど──でも、そんな反省、要らないから。

 いやいや、だって気持ち悪くなるからとか言って、

 わたし達に押し付けたんだよね? 過去の事を(おとり)にして。


 わたしはギリっと太郎ちゃんを睨みつける。

 睨まれて太郎ちゃんは嬉しそうに笑う。

 それが癪で目をそらす。


 そもそも何で、乃維は承諾しちゃったの!?

 乃維は太郎ちゃんのこと心配する割には、こーゆー時に

 限って気が利かない。体調悪くするから家にいなさい

 って言えば、それで終わったのに!


 そう思いながら、近くにいた乃維に視線を移した。

 瞬間、乃維がビクッと肩を揺する。

 あ、ヤバい。思わず乃維も睨んでしまった。

 違う。

 こんな風に、睨もうと思ったわけじゃない。

 感情的にならない──

 そう決心してたのに。


 それでわたしは焦って、慌てて微笑みを

 浮かべてみたけれど──。

 あぁ、でもきっと、それでもわたし、ものすごい顔

 だったに違いない。感情を消すとか、最もらしいこと

 言っておきながら、結局何も出来てない。

 何のための九年間だったんだろう?

 何も成長していないじゃない。


「ぶっ。……ぶふふふふふふ……」

 何とかフォローしようと必死のわたしを押しのけて、

 太郎ちゃんの変な含み笑いが響いてくる。

 ……ちょ。

 邪魔しないでよ。いったい誰のせいで、乃維が

 怖がってると思ってるの!(全部わたしのせいだけど)


 ムッとして太郎ちゃんを見ると、太郎ちゃんは

 わたしと目が合って、相変わらずとても嬉しそうな

 顔をした。

 くそっ。本当ムカつく!

 

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