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さくらのさくら  作者: YUQARI
第6章 乃維、再び。
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7.苺のロールケーキ。

 制限時間は一時間。

 だけど結局、そんなには食べれない。

 ケーキ二、三切れ食べたらお腹いっぱいになる。戦略

 上手いよねって思う。結局のところ、ケーキの単価って

 それほどでもないし。ほぼほぼ技術料ってとこかな?


 私たちはケーキを選び席につく。

 ひとテーブルごとに花が生けられているのが心憎い。

 さすがテリジア。抜かりない。

 けど、私たちは花なんて見てない。そう。あくまで

 主役はケーキたち。

 さて、どれから頂こう。

 私はキラキラ輝くケーキを見る。


 うん。やはりここは抹茶プリンかしら。

 ほろ苦くも甘い抹茶プリン。

 抹茶のこの甘さと苦さと絶妙なバランスがとっても

 難しいのよね。だけどそれで、抹茶系のお菓子の

 全てが決まるって言っても過言ではないと思うの。


 実は私、こう見えて、抹茶には少々うるさいのです。

 抹茶関係のお菓子はたくさん出ているけれど、本当に

 美味しいのはひと握り。なかなか『コレ!』と言う

 物には出会えない。そんな痒いところに手が届かない

 ムズムズするような抹茶のお菓子。

 さてさてこれは、どんなかな?


 さっそくスプーンで表面をつつく。ぷるんとしたその

 質感は、形を保っているのが不思議なくらい柔らかい。

 どうやって作るんだろ? やっぱり職人技なのかな?

 クリームとゼリーの中間。いや、クリーム寄りでは

 あるのか。プリンだしね。

 そう。抹茶プリンって、ゼリー要素が多くても

 ダメだし、クリーム要素が多過ぎてもダメ。

 舌にのせるとふわりと溶けて、だけどクリームじゃない

 そんな際どさが重要なのだ。

 そして味。


 最近は色々出ている抹茶のお菓子。けれど、その

 どれもが私には甘過ぎる。でもだからと言って

 苦ければいいってものでもない。ちゃんと

 お茶の香りだって堪能したい。


 私は問題の抹茶プリンをスプーンで掬う。

 なるほど。抹茶ソースになってるのか。薄緑色の

 プリンに抹茶ソースを絡め、かぷっ! と口へと運ぶ。


「んんんんん~……!!」

 思わず歓声をあげながら、身震いする。

 美味しい! これは、美味しい!! さすがテリジアホテル!!


 やはり抹茶は、ほろ苦くなくてはいけない。お茶の

 香りとプリンのミルクが溶け合って、ちょうどいい

 味と食感。

 甘いプリンとほろ苦抹茶ソースが、絶妙に絡み合って

 これはいくつでも食べちゃいそうだ!


「……美味しい。美味しいよぅ。やっぱり、来て

 良かった~」

 こくりと紅茶を飲む。

 飲む方の抹茶も頼みはしたけれど、さすがにまだ

 来ていない。

 と言うか、私的に思うのは、抹茶のお菓子に抹茶の

 飲み物を合わせちゃダメな気がする。

 抹茶って、存在感が大きくて、それだけで完成された

 ものだと思うわけです。

 要は、抹茶のお菓子と飲みだとケンカするの。

 どっちも自分を主張するんだけど、結局同じ抹茶。

 相殺しちゃうわけ。だから紅茶。

 抹茶も紅茶も同じ茶葉らしいけど、発酵度合いが

 違う。だからいがみ合わない。

 兄弟姉妹じゃなくって、いとこ同士……くらいが

 ちょうどいいのかもね?


 なんて訳の分からないことを考えながら、私は

 ほぅ。と溜め息をつく。そして咲良の方を見ると

 咲良は苺のクレープに奮闘していた。そう言えば

 あったよね、クレープも。


「はむ……っ」

 クリームがたっぷり入ったクレープの、丸ごと苺を

 一口で頬張る。

 あはは……美味しそうだけど、男に見せたら百年の恋も

 覚めてしまうくらいの食べっぷり。苦笑いしながら

 見ていると、ほっぺに苺クリームがぽてっとついて

 いるのに気がついた。ふふ。子どもみたい。

「あはは。ほら、咲良。

 ほっぺにクリームついてる……」

 言いながら、中指で掬い取ってみる。

「……うん。ありあとぅ(ありがとう)

 苺を頬張りながら、咲良が言う。ホント可愛い。

 食べるのに夢中。……小動物か、おまえは。

 苦笑しながら、掬い取ったクリームをペロリと舐めた。

「うまっ」

 思わず唸る。


「でしょー。これ、クリームが絶品で……!」

 ペロリと口許を舐めつつ咲良が笑った。

「あー私も食べたい! もらって来ようかな? でも

 他のも食べたい。これ食べたら食べれなくなる……」

 これは悩む。

 ケーキなだけに、カロリーが高い。

 たくさんは食べられない。

 けれど、色々試したい。

 うぐぅ……。


「ん? じゃあ、私のを少しあげようか?」

 ことりと首をかしげる。サラサラと髪が揺れた。


 咲良はこぼれた髪の房を、指先で繊細にすくいとり

 耳に掛ける。目の前のケーキの山がなければ完璧

 なんだけどね、惜しいよね、咲良って。

 だけど今は──


「え? いいの?」

 苦笑いしつつ私は尋ねる。

 おこぼれにあずかれると期待に胸を膨らませる。

 これはアレだ。大食らいと一緒に来て、一口ずつ

 貰えれば、全種類のケーキが試せてお得だ。

 私は心の中でニンマリと微笑む。咲良も微笑んだ。


「もちろん。いいに決まってる。ほら、あーんして?」

 咲良は持っていた苺のクレープを、私の目の前に

 差し出した。

 うわーい。

 わたしは喜び勇んで、口を開ける。その口に甘い香りの

 苺クリームが押し付けられた。ふわりとしたその食感に

 思わずかぶりつく。

「あーん。……かぷっ。

 んんんっ、……うまっ」

 クリームに苺が練り込んであって、ほんのりピンク色を

 した苺クレープ。

 香りも甘さも十分で、甘酸っぱい苺の味が口

 いっぱいに広がってくる。

 あぁ、もう。幸せ! ホント幸せ!!


 そのあと何回かおかわりに行き、夕ごはんが入るのか

 心配になるほどのスイーツを堪能した。


 もちろん飲み物も抹茶だけじゃなくって、テリジア

 ホテル名物のアッフォガートも堪能する。

(こちらは有料)

 そんなこんなで、私たちのお昼は、あっという間に

 過ぎてった。お昼ごはんも食べてない。と言うか、

 ケーキがお昼ごはん。

 ……あはは……ごめん。恭ちゃん。

 宝探しに行く時間ないや。


 さすがに悪かったかなー、でもま、恭ちゃんが勧めて

 くれたんだし。いっか。なんて思っていると私の

 スマホのメール着信通知音がピロリロロンと鳴った。


「……ぶっ」

 メールを見て吹き出した。

 そんな私のスマホを、咲良が横から覗き見る。

「なになに? どうしたの?」

「あ、いやね、今、恭ちゃんからメールが来て……」

 言いながら、メールを見せる。

 そこにはこう書いてある。



『お土産は、テリジアホテルの苺のロールケーキで。

 早く買わないと、売り切れるヤツ。頑張って』



「あー、……絶妙なタイミング」

 咲良が苦笑する。

「だよね。うちらの行動パターン、読まれてるしね。

 恐るべし恭ちゃん」

 顔を見合わせて、二人で吹き出した。


 もう、恭ちゃんったら。メールを送るタイミング

 バッチリだよ。どこかで見てんのかな?

 私は苦笑いをしながら、メイド服の店員さんに

 苺のロールケーキの持ち帰りを一つ頼んだ。

 私、知らなかったんだけど、この苺のロール

 ケーキは人気の限定品らしくって、私で最後の

 一個だった。

 危ない危ない。危うく買えなくなるとこだった。

 だから頑張ってとか恭ちゃん書いてたんだ。

 

 てか恭ちゃん?

 何でそんなこと知ってんの?

 私は疑問に思いつつ少し、くずつきだした空を

 見ながら、私たちは帰路に着いた。

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