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さくらのさくら  作者: YUQARI
第1章 恭太郎
6/96

5.ふたごの神秘。

※R6.7.7書き直しました。

「あー……、いたいた。 やっぱりここだった」

 突然、乃維(のい)の声がどこからともなく()ってきて

 オレは思わず身を(こわ)ばらせる。


「全く恭ちゃんったら、またこんなところに(かく)れて……

 よっぽどこの場所が好きだったのね。

 でも今日は、入学式の新入生代表の挨拶の練習が

 あるって言ったでしょ? いきなりいなくなるから

 かなり探したんだからね。

 平野先生、真っ青だったんだよ?

 恭太郎(きょうたろう)に新入生総代なんて、やっぱり荷が勝ち過ぎて

 いたんじゃないのかって言って、泣きそうだったん

 だから……」


 声は穏やかだけど、実際はそうじゃない。底知れぬ

 威圧感(いあつかん)が『私から逃げられるとでも思ったのか!?』と

 言うかのごとく重圧を掛けてくる。


 ……いや、分かってはいたよ?


 オレがいつもここにいるって乃維は知っていたから、

 絶対すぐに見つかるって。

 他の奴らには優しくて、判断力があるから人気のある

 乃維だけど、オレだけには容赦(ようしゃ)しない。

 何故なのかは分からない。──いや、分からなくもない。

 オレがいっつも、バカばっかりやってるからだと思う。

 だから乃維は、確実にオレを仕留(しと)めにやって来る。

 最初は優しいにこやかな顔をしていても、騙されちゃ

 いけない。

 その裏で鬼のような顔して(つめ)()いでいるん

 だから。


 きっと、みんな(だま)されてるんだ。乃維に。

 なんで分からないんだろ? こいつは天使じゃなくて、悪魔

 だってことを。


 オレだってね、ここまで来はしたけれど、逃げ出せない

 ってちゃんと分かってたんだよ。これは、どうしようも

 ないヤツだって。

 分かってはいたけれど、でもどうにかして逃げ出したい。

 ダメだって思ってはいても、でも、どうにかならないかな

 ってあがいてみる。──で結果、こうなっているわけで。


「……乃維」

 溜め息混じりにオレは(つぶや)いてみる。

 見上げると、眉をしかめた乃維の顔が見えた。

 無言のその目が言っている。『なに、まだ言いたい事

 あんの? 』って。


「────あ、うん。

 えっと、その……うん。なんでも、

            ────ありません」

「よろしい」

 オレは乃維の返事を聞く前に、深く溜め息をついた。



 乃維は、オレのふたごの妹だ。

 オレと同様エスカレーター式で城峰学院の高等部に入学

 することが決まっている。

 本当なら、家でゴロゴロしててもいい身分なんだろうけど、

 今日は中等部の頃に所属していた部活──吹奏楽部へと

 顔を出しに行くからと言って、オレの付き添いを買って

 出た。


 付き添い……いらないし。

 頼んでないし。

 子どもじゃないし。

 ひとりで行けるし。


 でもまぁ──。

 まだ、目的地に行き着けては、いないんだけどね。

「……」


 両親も、オレが逃げるって思っていたらしくて、乃維の

 その提案(ていあん)に、手を叩いて喜んだ。

『良かった! 乃維、おりこうさんね』

『やだなぁ。これくらい、大丈夫だって』

『ううん。お母さんもね、心配していたの。

 あの恭太郎が素直に職員室まで辿り着けるかしらって』

『うん。父さんもそう思った』

『でしょ? だから休み取ろうとも思ったのよ? でも

 既に入学式の為に休みもらったから、さすがに

 無理かしらって。

 でもまぁ、素直に学校から呼び出し喰らいましたって

 言えば余裕かもとは思ったけれど……』

『あはは。ある意味呼び出し(・・・・)だよねー』

『ねー』

 って。……ったく、何が『ねー』だよ小学生かよ。


 吹奏楽部は、入学式に演奏するとかで、春休みも部活が

 あるらしい。ホントご苦労なことだ。

 ちなみにオレは、中等部では部活に所属(しょぞく)して

 いなかった。多分、高校に入ってもしないと思う。


 それは何故か──。

 理由は簡単。面倒臭いから。

 スポーツは嫌いじゃない。

 だけど、束縛(そくばく)されるのは嫌い。

 自由気ままに、自分のペースで進められるものなら

 いいけれど、団体戦やら部活の結束力とか、そういった

 ものは苦手。だから入らない。多分これからもずっと。


 でも乃維は違う。

 みんなで何かをするとか、協力するっていう状況が

 めちゃくちゃ好きならしい。

 面倒事も進んで引き受けるし、それを全く苦にして

 いない。何が楽しんだろっていつも思う。


 ふたごなのに好みや性格が全く違う。何でこうも違うの

 かな? 今日だってそうだ。家にいれば楽だったろうに

 オレの付き()いなんて買って出るから。

「……」


 見上げる乃維の顔は、オレと瓜二つ……らしい。けれど

 オレは、そうは思わない。だってそもそも性別

 違うしね?

 性別が違うと、骨格自体が違う。筋肉の付き方だって

 違う。だから、いくらふたごだからって、瓜二つとは

 いかないはずだ。

 それなのに幼なじみの楓真(ふうま)が言ってた。

『キョータロ? お前、女装したら乃維ちゃんみたいに

 可愛くなるかもな』

 って。

『え? なになに? それって、乃維が可愛いってこと?

 それってなに? お前、乃維のこと好きだったの?』

 って聞いたら、あからさまに嫌そうな顔をされた。

 だって普通言うか? 『可愛い』って。可愛いって思って

 るんだったら、それは好きだって事なんじゃないだろうか?


 ……でもそうだよね。楓真は子どもの頃からずっと一緒に

 いる幼なじみ。

 パッと見たところ仏に見える乃維は、実は魔王だった

 って言う事実を、楓真はちゃんと知っている。

 顔がいいから可愛いからって、恋愛対象にはなりはしない。

 むしろ顔より中身。一生一緒にいなくちゃいけなくなるかも

 知れない存在は、慎重(しんちょう)に探すべきだ。見た目で

 決めてしまったら、あとあと絶対後悔する羽目になる。


 だけど待て待て……でもこれはこれでラッキーな事なのでは

 ないだろうかとオレは思う。確かにオレは、乃維とは

 似てないとは思ってる。でもそれは、家族間の意見であって

 世間は違う。

 世間一般は楓真と同じで、オレと乃維は瓜二(うりふた)つだと

 (さわ)いでるんだから。


「……ふふ。ふふふふふ」

 オレは小さく笑いながら、乃維に背中を向けて寝返りを

 打つ。ふふ。いい事考えついた。

 だって、顔が似てるんだよ? ここは一つ乃維にひと肌

 脱いでもらって……。


「──ちょ、恭ちゃん?

 まさかとは思うけれど、また変なこと考えていないよね?」

 背中を向けて隠れてヒヒヒと笑っていたら、乃維が呻いた。

 オレは慌てて口を手で塞ぐ。

 危ない危ない。乃維にバレたらこの計画は使えない。

 ここは慎重に進めなければ。ま、最終的にはバレるけど。

 そう思って、オレはそっと乃維を覗き見る。


 乃維は相変わらず微妙(びみょう)な顔つきでこっちを見てた。

 そう言えば、楓真が言ってたっけ。

『キョータロ?

 キョータロは単純だから、オレでもキョータロが

 何を考えているか分かるよ。だから、少しは自重

 しないとね』

 って。


 オレは、乃維の気持ちはさっぱり分からないけれど、

 何故だか乃維には、オレの気持ちや考えてる事が

 分かってしまう事があって、楓真に

『これって、ふたごの神秘かも。

 相手の気持ちが分かるってヤツ!』

 って騒いでたら、そう冷たくあしらわれた。

 失礼な話だろ?


 楓真の言葉が、正しいのかどうかは分からないけれど、

 オレは考えていることが筒抜(つつぬ)けらしい。

 だから『自重しろ』だって。

 自重? したよ? 出来るだけバレないように、ちゃんと

 背中を向けたのにこの有り様。

 なんでバレちゃったんだろう? 考えても分からない。

 オレはやっぱり、ふたごの神秘だって思う。

 乃維限定で、兄のオレにはないってのが、ちょっと

 意味分かんないんだけど。

 でもこれはきっと、『ふたごの神秘』!

 

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