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さくらのさくら  作者: YUQARI
第6章 乃維、再び。
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3.出会いと言い訳。

 ──うわぁーん。うわぁーん。お兄ちゃん、どこ?

   どこに行ったのぉ……?

 

 どこを見てもお兄ちゃんがいない。

 お兄ちゃんとふうちゃん。それから乃維と近くの公園に

 遊びに来たら、いつの間にか二人ともいなく

 なっちゃった。

 慌てて周りを見回したけれど、どこにもいない。

 どこどこ? どこに行ったの?

 

 ──どうしたの? 迷子になっちゃったの?

 

 優しい声が降ってきて、私は涙をふいて、声の

 する方を見上げた。

 そこには男の子が一人、立っていた。

 サラサラの黒髪をショートカットにした、今まで見た

 ことのない男の子。

 うちの家族はどちらかと言うと色素が薄い。茶色っぽい

 髪に琥珀の目。だから、その男の子の吸い込まれる

 ほどのその大きなその黒い目が、私には珍しかった。

 思わず見入ってしまう。



 

 ──うん。あのね、あのね。お兄ちゃんと来たの。

   お兄ちゃんいないの。乃維、たくさん探したの。

 

 ──そっか。じゃあ(さく)も探してあげる。


 その子は優しく笑った。

 

 ──『咲』?

 

 ──『咲良(さくら)』。咲の名前だよ。

 

 咲良は微笑む。ホッとするような優しい笑顔。

 私は嬉しくなる。

 

 ──カッコイイ名前だね!

 

 ──カッコイイ?


 咲良はキョトンとする。

 

 ──うん! カッコイイ。

 

 ──そう……かな?


 ──うん。凄く……カッコイイ。

 



 あの時の男の子は私がそう言うと、顔を真っ赤にして

 照れてみせた。それが子ども心にも可愛いと思えて

 私は咲良が好きになる。

 恥ずかしいけれど、それが私の初恋。


 結局、恭ちゃんと楓ちゃんは木の影に隠れていて、

 泣いてる私を笑って見てただけだった。いつもの

 イタズラだった。

 だけど咲良は、それのことを知って鬼のように怒って

 くれた。

 それでも乃維の兄ちゃんなのかって。

 兄ちゃんは妹を守るべきなんだぞって。

 一緒にいなきゃ、ダメじゃないかって。


 カッコイイって思った。

 恭ちゃんも楓ちゃんも悪かったって思ってくれて、

 すぐに謝ってくれた。

 謝ってもらえるなんて思ってもいなかった私は、すごく

 驚いた。

 自分の気持ちを代弁してくれたその子が、直ぐに私に

 とっての特別な存在になった。


 だけど──その子は女の子。

 男の子だとばかり思っていたその子は女の子。

 私が、その事を知ったのはつい最近。

 そう、高校入学式のあの日に再び出会った咲良を

 見た時に知った。




 ──女の子……だったんだ。




 って。


 でも、すぐに分かったんだよ?

 あ。咲良だ……って。

 あの時の男の子だって。

 私、勘違いしてたって。

 バカだな、私ってって思いながら、でも……ほんの少し

 ショックだった。


 その日は席も隣同士だったから話もしたけれど、

 でも、それっきり。

 ただ単に話題がなかったの。

 だって忙しかったから。

 高校生活。

 新しい環境。

 部活だって決めなくちゃいけないし、ちゃらんぽらんな

 恭ちゃんのお世話だってあるもの。

 だから忙しかった。

 だから咲良に話し掛ける暇なんて、なかったし、

 咲良は咲良で、休み時間になるとどこかへと

 消えていく。どこへ行ってたとかも知らない。

 知ろうともしなかった。

 で最近になって知った。咲良は図書館に行って

 いたんだって。

 恭ちゃんにそう、教えてもらった。

 私はそんな事も知らなかった。


 でも私はそれでも思ってた。言い訳……とかじゃ

 なくて本当に、忙しかったからって。





 

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