3.出会いと言い訳。
──うわぁーん。うわぁーん。お兄ちゃん、どこ?
どこに行ったのぉ……?
どこを見てもお兄ちゃんがいない。
お兄ちゃんとふうちゃん。それから乃維と近くの公園に
遊びに来たら、いつの間にか二人ともいなく
なっちゃった。
慌てて周りを見回したけれど、どこにもいない。
どこどこ? どこに行ったの?
──どうしたの? 迷子になっちゃったの?
優しい声が降ってきて、私は涙をふいて、声の
する方を見上げた。
そこには男の子が一人、立っていた。
サラサラの黒髪をショートカットにした、今まで見た
ことのない男の子。
うちの家族はどちらかと言うと色素が薄い。茶色っぽい
髪に琥珀の目。だから、その男の子の吸い込まれる
ほどのその大きなその黒い目が、私には珍しかった。
思わず見入ってしまう。
──うん。あのね、あのね。お兄ちゃんと来たの。
お兄ちゃんいないの。乃維、たくさん探したの。
──そっか。じゃあ咲も探してあげる。
その子は優しく笑った。
──『咲』?
──『咲良』。咲の名前だよ。
咲良は微笑む。ホッとするような優しい笑顔。
私は嬉しくなる。
──カッコイイ名前だね!
──カッコイイ?
咲良はキョトンとする。
──うん! カッコイイ。
──そう……かな?
──うん。凄く……カッコイイ。
あの時の男の子は私がそう言うと、顔を真っ赤にして
照れてみせた。それが子ども心にも可愛いと思えて
私は咲良が好きになる。
恥ずかしいけれど、それが私の初恋。
結局、恭ちゃんと楓ちゃんは木の影に隠れていて、
泣いてる私を笑って見てただけだった。いつもの
イタズラだった。
だけど咲良は、それのことを知って鬼のように怒って
くれた。
それでも乃維の兄ちゃんなのかって。
兄ちゃんは妹を守るべきなんだぞって。
一緒にいなきゃ、ダメじゃないかって。
カッコイイって思った。
恭ちゃんも楓ちゃんも悪かったって思ってくれて、
すぐに謝ってくれた。
謝ってもらえるなんて思ってもいなかった私は、すごく
驚いた。
自分の気持ちを代弁してくれたその子が、直ぐに私に
とっての特別な存在になった。
だけど──その子は女の子。
男の子だとばかり思っていたその子は女の子。
私が、その事を知ったのはつい最近。
そう、高校入学式のあの日に再び出会った咲良を
見た時に知った。
──女の子……だったんだ。
って。
でも、すぐに分かったんだよ?
あ。咲良だ……って。
あの時の男の子だって。
私、勘違いしてたって。
バカだな、私ってって思いながら、でも……ほんの少し
ショックだった。
その日は席も隣同士だったから話もしたけれど、
でも、それっきり。
ただ単に話題がなかったの。
だって忙しかったから。
高校生活。
新しい環境。
部活だって決めなくちゃいけないし、ちゃらんぽらんな
恭ちゃんのお世話だってあるもの。
だから忙しかった。
だから咲良に話し掛ける暇なんて、なかったし、
咲良は咲良で、休み時間になるとどこかへと
消えていく。どこへ行ってたとかも知らない。
知ろうともしなかった。
で最近になって知った。咲良は図書館に行って
いたんだって。
恭ちゃんにそう、教えてもらった。
私はそんな事も知らなかった。
でも私はそれでも思ってた。言い訳……とかじゃ
なくて本当に、忙しかったからって。




