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さくらのさくら  作者: YUQARI
第6章 乃維、再び。
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2.お砂場セット。

 さらに、問題はそれだけじゃない。目的の公園は

 霧山中央公園と言って、市内の中でも一番大きな公園。

 とにかく広い!


 自然の山を利用したこの公園には、子どもたちの遊ぶ

 アスレチックエリアの他、運動する人たちのエリア

 景観を楽しむエリアに分かれていて、『公園』と

 呼ぶにはもったいないほど、広大な敷地を有している。

 そして私たちがよく遊んでいたのはもちろんアスレ

 チックエリア。だけどそこは今、確か木は植えていない

 はずなんだよね? と、私は首を(ひね)る。


 数年前だったか、毛虫がたくさん遊具に落ちていて

 これじゃ安全に遊べないって、子どもの保護者から

 苦情があがったらしい。しかも大きな木は倒木の

 危険性も出てきたとのことで、アスレチックエリアの

 結構な数の木が伐採された。


 まさか、その中のひとつの木に、恭ちゃんの宝物が

 あったとか?

 そうなると、もう絶望的だ。

 きっともう捨てられてる。見つけ出すのは不可能に

 近い。

 そもそも一言で『公園の木』なんて言うけれど

 それこそあの公園は、元が山。簡単に目的の木が

 見つかるとも思えない。


 しかも恭ちゃんは公園には行けない。何故かって言うと

 行こうとすれば、途中で気分が悪くなるから。

 そーとー精神病んでるよね?

 事故があったのは随分前の話なのに、未だにそれは

 克服出来ていない。だから恭ちゃんに気の場所を案内

 してもらうのは不可能だ。

『……』

 残念だけど……と私は話を切り出した。だけど

 恭ちゃんは頭を振った。

『大量に木が切られたのはアスレチックエリアの方。

 オレが言ってるのは遊歩道の方』

 遊歩道?


 私は公園内部を思い浮かべる。

 遊歩道は運動する人たちの為のエリアになる。緩やかな

 公園の傾斜を利用してあり、頂上が景観エリア。市内を

 見渡すことが出来る。──って、そっちの方が木は

 多いじゃないか!

 私がふんすふんすと怒り出すと、恭ちゃんは笑った。

『大丈夫。大体の目星はついてるから』

 言って恭ちゃんは説明をする。

 目的の木は、その景観エリアに近い場所。要は公園の

 頂上辺りらしい。


 頂上とは言っても狭いわけじゃなくて、広めの原っぱに

 自然の川を利用した人工池なんかもある、ちょっとした

 憩いの場で、私たちも何度か行ったことがある。

『あー、確かにあったね、おおきな木』

 確かみんなで遊んだ。秘密基地だぞ! なんて言ってて

 お父さんやお母さんに教えて笑われた。

 秘密基地は秘密にするもんだぞって。

 あの時は言っている意味がよく分からなかった。

 だけど今なら分かる。

 秘密の基地なのに、私たちは自慢したくって

 色んな人に話してた。ホント可笑しいよね。

 だからこそ、恭ちゃんの宝物がまだそこにあるのかは

 疑わしい。


 けれど、場所が限定された事で、見つけ出す木も

 少なくなったのも確か。

 けれど確かあそこの木は、めちゃくちゃデカ

 かったんじゃないかな?

 どうすんの? 木が成長してて、ウロも上の方になって

 いたら。いやその前に、数は少なくなりはしたけれど

 それでもまだ多い。子どもの記憶だって当てにならない。

 何か別の目星はないの?──



 

『うーん。その中のどれか一本?』



『……』

 恭ちゃんは非情にも、そう言ってのけた。

 こら。どんだけあると思ってんのよ。

 私は恭ちゃんを睨む。

 睨まれて恭ちゃんは目をそらす。


『だから、さ。ハマって行かなくていい。

 何回か行って見つけてくれればいいから、

 気長にやって?

 あ、ほら、あそこの公園近くに色々お店、出来ただろ?

 そういやそのひとつに例のケーキ屋さんもあっただろ?

 ほら、ホテルの中に増設された。あそこ、土日は

 ケーキバイキングもやってんの知ってた?』

 ──知らなかった。

 てかなんで恭ちゃんが知ってんのさ。

 もしかしたら恭ちゃん、既に公園克服してるんじゃ

 ないの?


 なんて思いもしたけれど、でもそれはそれで有難い。

 正直なところ、咲良を遊びに誘う口実を探していたから。

 だって、久しぶりに逢えた咲良。

 だけど離れていた時間が長すぎた。

 咲良には咲良の事情があるだろうし、簡単に遊びに

 誘っていいのかも分からない。

 そうこうするうちに咲良は体調崩すし、私は私で

 高校入学で生活が変わってそれどころじゃなかった。

 気づけば何となく疎遠になってしまっていて、話す

 機会を失っていた。そんな時にまず動いたのが

 楓ちゃん。


 キョータロの記憶を戻す会……なんて訳の分からない

 会議を開き、その後恭ちゃんが宝箱を思い出したって

 咲良に話し掛けて、で、今に至る。

 咲良は申し訳なさそうに私に誘いを掛けてきたけれど、

 望むところだ。渡りに船とばかりにその誘いに飛び

 乗った。


 だからちょっと気合い入れてしまった。

 咲良が私とまた仲良くなってくれるようにって、

 着る服とかアクセサリーとかメイクとか。

 ──で、遅刻。

 恭ちゃんの説明聞いたり服選んだりしてたから思ってた

 以上に時間を食ってしまったってわけ。

 何やってんだか……。

 こんなんじゃ、逆に嫌われちゃうじゃない。


「ご、ごめん! ホントごめん。これには訳が……!」

 慌てて私は言い訳をする。

 でもなんて言う? オシャレしてたって言うの?

 デートでもなんでもないのに?

 困り果てながら私は咲良を見る。

 咲良は──意外にも微笑んでいた。


「ううん大丈夫。わたしも今来たところ。

 そもそも巻き込んじゃったのはわたしの方だし。

 逆にごめんね? せっかくの休みなのに」

 あ、可愛い──。


 思わずそう思う。軽く頭を傾げるとサラサラの髪が

 こぼれ落ちる。

 髪を伸ばすって、意外に難しい。伸ばすに従って毛先は

 細くなるし、枝毛や切れ毛がどうしても出来てしまう。

 そうなったら髪は絡まるし、まとまらないわで結局

 ボサボサになってしまうのよね。それを咲良は

 見事に腰の長さまで伸ばしている。

 今日は宝探しって事だから結んでいるけれど、その

 艶やかさは失われていない。


 黒のカーゴパンツに肩出しのブラウスがかなり

 色っぽい。いや待て。これって今朝の私と似たような

 スタイルじゃないの?

 恭ちゃんは今日の私を見て『色気ない』って言ったけど

 目の前の咲良は、申し分なく色っぽい。これだから

 美人は……と、思わずムッとなる。


 ──なんでこうも違うかな?


 はにかみながら『わたしも今来たとこ』なんて、

 ありきたりなセリフを吐いても様になる。

 こぼれ落ちたサイドの髪を耳に掛ける仕草は、私が男

 だったら一発で落ちたところ。

 ……てか、手に持ってるお砂場セットですら、

 アクセサリーに見える。


 ──って、そんなわけないじゃん!?

「え? ちょ、なんでお砂場セット!?」

「え、だって……宝探しって──」

 言われてハッとする。

 そうだった。私も今日、初めて恭ちゃんに指摘されたん

 だった。咲良には説明してない。

 ガーンとなる。


「だ、だよね、そう思うよね普通。恭ちゃん、恭ちゃんの

 説明がそもそも間違ってるの。ごめん。伝えれば

 良かった」

「あ……。だったらどうしよ、お砂場セット(これ)

 困ったように咲良は手の物を持ち上げる。


 ──うーん。だけど許す。

 お砂場セットを手に悩んでて、こうも絵になる人なんて

 そうそういないから許す。てか、悔しいからソレ持って

 なさい。

 持ってるくらいで丁度いい。

「──うん。それでバランス取れるから、大丈夫」

「バランス?」

「……いい。咲良は、何にも考えなくていいから。

 ひとまず買い物行こう! 買い物」

「え? これで!?」

「だから、大丈夫だって! ほらすぐ近くだから」

 言って私は咲良の手を引いた。






 

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