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さくらのさくら  作者: YUQARI
第5章 咲良
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10.奇妙な依頼。

『咲良は覚えてない? その宝物(・・)

『……』

 頭の中で、警戒音が鳴り響く。

 だけど、話自体には何の問題もない。

 だからわたしは、自分の感じた不審感を押し殺し

 子どもの頃を思い出す。


 ……あったかも、しれない。

 だけどアレは本当に、宝物だったんだろうか?


 事故が起こるその日の朝、わたしは太郎ちゃんの言う

 その缶々を見てる。多分、アレの事だと思う。

 深刻な顔をした太郎ちゃんが抱えていた。小さな

 クッキーの缶々。

 だけど──本当に、そうなのかな?

 だって『宝物』って言う割には、真っ青な顔でその

 缶々を持っていたような気がする。

 じゃあ違うかも? 別の缶々?


 わたしは必死に、小さかった頃の記憶を引っ張り出す。

 それこそ至難の業。

 だって月日が経っている上に、わたし達は小さかった

 から、その時の記憶はひどく曖昧で、本当にそう

 だったのかと言われれば、その自信はない。

 もしかしたら夢だったのかもしれないし、そうあって

 欲しいという願望だったかもしれない。それとも、

 本当にそれは現実で、実際の出来事だったかも

 しれない。

 だけどもう、調べようがない。何が正しかったか……

 そんなの、今更わかるわけがないもの。

 誰かに聞いて答えが分かるものでもないし、映像とか

 紙とかに記録が残ってるわけでもない。

 それに当然、太郎ちゃんじゃないけれど、忘れて

 しまった記憶(ぶぶん)だって確実にある。


 だからお菓子の缶々を持っていた太郎ちゃんを見たのは

 事故の日じゃなくて、別の日だったかもしれないし、

 夢……だったのかもしれない。

 だって事故直後の太郎ちゃんは、確かに何も持って(・・・・・)

 いなかった(・・・・・・・・)もの。

 事故現場には、そんなモノなかった。

 太郎ちゃんは、オモチャひとつ持っていなかった。


『……』

 わたしはしばらく考えて、頭を振る。

『ううん。覚えてない。そんなのなかったと……思う』

 その言葉に太郎ちゃんはわたしをじっと見た。

『本当に?』

『うっ、多分ね。確信は、ない。だってもうずいぶん前の

 話だよ? 太郎ちゃんじゃなくても忘れてるって』

 そこで太郎ちゃんはニヤリと笑う。

『だろ? そうだよな?

 だから昔の事なんて、思い出す必要なんてないだろ?』

 言われてわたしは面食らう。

 何言ってんの? 太郎ちゃん。

『えっと……太郎ちゃんは、思い出したいんだよね?』

『ん? オレ? オレは──』

 言って太郎ちゃんは空中を見た。

 うーんと考えて、フルフルと頭を振る。

『オレは、どうだっていいって思ってる。思い出させたい

 のは多分、楓真(ふうま)と乃維なんだよね。乃維はオレとお前が

 ちゃんと仲良くなって欲しいって。

 子どもの頃みたいに四人でいたいって』

『……なるほど』

 乃維の気持ちも分かる。

 乃維なら、そんな事言いそうだ。けど──

『でもさ、それって無理だよね』

『……』

 わたしの気持ちを太郎ちゃんが代弁する。

『だって、オレたちもう子どもじゃないじゃん』

 そう。子どもじゃない。

 単純だったあの頃とは違う。


 わたしの考えが分かったのか太郎ちゃんは微笑んだ。

 さっきとは違う無邪気な笑顔。

『過去──なんて、どうでもいいんだけど、でもどうしても

 あの時持っていた宝物が気になるんだ』

 だから──

 太郎ちゃんは話を続けた。




 ──その宝物、見つけて持って来て。




『は?』

 思わず唸る。何でそうなる?

『オレ、近づけないんだよね。宝物があると思われる

 その公園に』

 言ってニヤリと笑う。

『楓真が言ってた。オレの記憶がなくなったのって、咲良(さくら)

 せいなんだぞって』

 ……余計なことを。

『どういう意味か分かんないんだけど、咲良もそう

 思ってるんだろ?』

 ひどく嬉しそうな顔でわたしを見る。

 嫌な予感がフツフツと湧き上がる。

 どうしよう。どうやって逃げよう。

 必死に考えても思い浮かばない。唯一思い浮かんだ

 言い訳が『忙しいから』。

 それを口に出そうとして、

『でもわたし、忙──』

『──いつでもいいよ』

『……は?』

『だから、いつでもいい。急がないし。暇な時でいい』

『』

『咲良』

『……何でしょう』

『反省してるんだよね?』

『』

『見つけてくれるよね?』

『』

『今なら乃維をつけてやれるよ?』

『──!』


 ずるいと思った。だけど魅力的なその提案に、

 わたしはあの時、思わず了承してしまった。

 了承してしまったって思う。あれは、ちょっと

 迂闊(うかつ)だった。そもそも乃維に失礼だ。

 乃維の行動を勝手にわたし達で決めちゃうなんて。

 今になってひどく後悔してる。

 でも待ち合わせに来た乃維が、めちゃくちゃ可愛くて

 直ぐにその気持ちは失せて、太郎ちゃんへの賞賛の

 言葉が湧き上がる。



 太郎ちゃん!

 ありがとうございます!!

 

 って。

 ホントわたしって現金なヤツって思う。


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