表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくらのさくら  作者: YUQARI
第5章 咲良
53/96

8.降ってわいた幸運。と、不幸。

「ごめん……待った……?」

 息を切らしながら、乃維(のい)が駆けてくる。

 うわ、なんだろ。このラッキーな展開は。

 思わず口を手で隠してしまう。

 乃維が可愛い。めちゃくちゃ可愛い。


 淡いフワフワのワンピースに、少し肌寒いからか

 ニットのボレロをその上からそっと(まと)っている。

 緩やかなデザインのそのボレロは、乃維の手のひらを

 半分隠せるくらい(そで)は長くて、そこから見える

 桜貝色の細い指先が、ひどく繊細に見えた。


 これは、ずるい。


 学校ではむしろ、しっかり者の乃維なのに、私服に

 なると途端(おもむ)きが変わる。

 少し癖のある髪は絹糸みたいに細く艶やかで、毛先が

 ふわりと舞っていて、思わず触りたくなってしまう。

「ごめん。ごめんね、待ったよね?」

 声まで可愛い。

 どうしよう。好き。好きすぎてどうにかなってしまい

 そう。

 わたしは跳ね上がる心臓を押さえながら、慌てて

 乃維を見た。

「う。ううん。わたしも今来たとこだから」

「良かった。──あ、あっちの方にね、可愛いお店が

 出来たんだって! 行ってみてもいいかな?」

 言って有無を言わさずわたしの手を握る。

 わたしは慌てる。

 乃維は何でこんなにも無防備なんだろ? わたしが

 どんな想いを抱いているかなんて、ちっとも

 知らない。もし、バレたらどうなるんだろう?

 それを思うとひどく怖かった。


 フワッと笑って、軽く首を傾げるその仕草が、

 泣きたくなるほど可愛い。

 わたしはメロメロになる。

 可愛いホントに可愛い。

 好き。

 好きで好きでどうしようもない。

 どうして、こんなにも好きになってしまったんだろう?

 どう足掻いても、不幸になるって分かってるのに。

「──っ」

 わたしの心がズキリと痛んだ。


 乃維は女の子。わたしと同じ女の子。だからきっと

 どこかで別れが来る。

 それは分かってる。それなりに覚悟はしている。

 だけど最悪なのは、乃維と友だちだって事。

 わたしの恋が敗れても、友だちとしての絆はきっと

 切れない。

 そしてその事実が、わたしを更なる地獄へと突き

 落とす。


 いっそ異性同士の失恋の方がまだよかった。すっぱり

 縁を切ればいいもの。

 でも同性同士で、親友だったらそうはいかない。

 好きだと告白すら出来ずに失恋して、そしてずっと

 傍に居続けるのかな?

 大好きな人が、別の誰かといるところを、ずっとみ続け

 なくちゃいけないの? わたしは耐えられるのかな?

 耐えられなくなったら縁を切る? わたしから?

 それは──有り得ない。


 好きになったその瞬間から、失恋を覚悟して、別れを

 自分から言い出す──なんて、不毛なんだろ。

 バカなわたし。

 乃維なんて好きにならなければ良かった。

 乃維じゃなくて、太郎ちゃん好きになれば

 良かったのに。

 離れ離れになったあの時に、キッパリ諦めちゃえば

 良かったのに。

 そしたら楽だった。

 傷つかずにすんだのに。


 でも、無理だった。

 だって好きだもの。

 本当に、好き……だから。

 諦めきれなかった。


 わたしは必死に笑みを浮かべ、言葉を絞り出す。

「うん。もちろんいいよ!」

 どんなに悩んだとしても、今がラッキーな展開なのは

 間違いない。でも、──悲しい気持ちになっているのも

 本当。いっそ泣いてしまえたら、どんなに楽だろう?

 だって目の前の大好きな人は、どんなに想っていたと

 しても、きっといつか男の人に、取られてしまうん

 だから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ