4.何事もなかったかのような、青い空。
※R6.7.7書き直ししています。
高校……には入れる。
問題なく入れる。
だって内部試験だから。それなりの恩恵は受けている。
だけど、一応、入試……は受けたよ? オレたちの中では
卒業試験って言う形式的な入試テスト。
それをちゃんと受けて、オレは合格した。
けど、四月の入学式を目前に控えた今日この日、
来るはずのないここ中等部に、オレは何故だかここに
いる。
本当だったら今頃、春休みで家にいるはずだった。
普通は学校なんかには来ないんだよ? 家でゴロゴロ
するのが春休みの掟だ。
読みかけの本もあったし、この前ダウンロードした
ゲームも、まだほとんど手をつけていない。
高校に入る前のちょっとした課題は出たけれど、
量的にも少なかったから、余裕で終わらせた。だから
幼なじみの楓真と映画を見に行こうぜって約束も
してた。
だけど……だけど何故か、何故なのかオレはここに
いる──。
「……………………」
………………い、いやいや、何でだよ?
思わず自分に突っ込んでしまう。
確かにね、ずっとここにいたいって思ったよ? 居心地
いいし? だけど今、春休みだぜ?
世間はみんな家でくつろいでいるとか、買い物に
行ったり遊んだりしているわけだよ。それなのに
何が悲しくてオレだけ学校に来なくちゃいけないの?
しかもオレ、もう高等部に籍が入ってるわけで
中学生じゃないんだよね。それなのに、何が悲しくて
中等部の制服を再び着て、そこの職員室に行かなくちゃ
いけないわけ?
「はぁ……」
大きな溜め息が出る。溜め息しか出ない。
ホント、なんでこんなところに来たの。
やる気が出ない。
全く出ない。
いっそ消えてしまいたい。
「はぁ、オレってやっぱりバカだったのかなぁ……」
思わず呻いてしまう。
どんなに勉強出来たって、それがそのまま生活に適応
できるかと言うと、そうでもない。
勉強が出来なくっても、要領がいいというか、世渡り
上手というか……とにかく、周りの空気やら状況やら
なんやらを瞬時に取り込んで、何をすべきか分かる
人間が世の中楽に生きていっているような気がする。
要はだよ。オレはそーゆー奴らじゃなかったって事。
『頭いい!』なんて、チヤホヤされた事もあるけれど
所詮それだけ。オレは特別でもなんでもない、ただの
凡人。学校の勉強はそこそこ出来ても、ただそれだけ
の人間だったって事。
いるよね、そーゆー奴。仕事し始めて、なんか
違うって、こんなんじゃないって、そう思うんだろーな。
あぁ……いっそ、違う学校に飛び出せば良かった。
そしたらこんな悩み、なかったかも知れない。
「……はぁ。今日は晴れたなぁ」
なんて意味のない言葉を吐いて、ぼんやりと空を見る。
もうあれだよね、現実逃避ってやつ?
ほんっと、今日って天気がいいなぁ。
洗濯日和だよね。
洗濯なんてした事ないけど。
真っ青な空。
雲ひとつない空。
悩みなんて何ひとつなさそうで、晴れ晴れとした空。
まるでオレの事なんか知らんぷり。
悩んでるオレは、全てから置いてけぼり。
みんなオレの事なんか、何も考えてなんかいないんだ。
きっとオレなんて、どうでもいいって思ってるんだ
くすんくすん。
──なんて感慨にふけってみる。
「………………まぁ、実際知らないんだろうけどね、今の
オレの悩みなんてさ」
ボソリと呟く。
いつもと変わらないその景色が、こんなにも重く
のしかかって来るなんて思わなかった。
いや、確かに楽だったよ? すんなり高校の合格は
貰えたし?
そこに居続けるのが楽だと思った。けど違う。同時に
何も状況が変わらないっていう退屈さもあるんだ。
いつもと変わらない日常。
ここが中等部? だからもう来れないって?
そんなの関係ない。多分またここにオレは来る。
相も変わらずゴロゴロしに来るに決まってる。
だってオレだもん。
そしてここも、相変わらずオレしか来ないような
寂しい場所で居続けるのに違いない。
四月になって生活が変わるヤツも大勢いるけれど
ここは変わらない。今日も明日も明後日も。五年後も
十年後も……例えこの学校がなくなっても、ずっとずっと
このままじゃないかなって、そう思う。
それくらい静かで、不動の場所。
そんな風に考えると、一気に気持ちが萎えてくる。
不変って言うのは頼もしくもあるけれど、つまらなくも
ある。
始まる前から、日常が決まってるとか、そんなんで
いいの? 良かったの? だって自立しなくちゃ
いけないんだよ? どの道、大人になって知らない
場所に行ってやった事もない仕事をするんだよ?
新しい環境に知らない人たち。今ののんびりゆったり
いつもの環境とか、もしかしたらないかもしれない
そんな世界。
そこへ飛び立つ練習とかしなくて良かったの?
「………………」
まぁでも、今更そんなこと悩んでも、しょうが
ないんだけどね。
はぁ。
それにさ、余計なのがついてきたよね。
これはさすがに予想外だったよ?
「……はぁ」
思い出してまた、溜め息が漏れる。
とどのつまりオレってさ、深く考えてなかったんだよ
受験について、さ。
「はあぁぁぁあぁ……」
オレは倒れ込むようにして寝転がる。
もう溜め息しか出ない。
溜め息だけが、オレの救い。