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さくらのさくら  作者: YUQARI
第5章 咲良
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3.わたしの罪。

「楓……ちゃん。楓ちゃん。楓ちゃん。楓ちゃん……っ」

 涙が出て止まらない。

 不安だった。

 本当は、ずっと不安だった。


 絶対受からないって思ってたその子は、意外にも受験

 前の判定がよくて、もしかしたらって思った。一緒に

 行けるのなら、それでもかまわないって。

 でも開けてみたら、結果はダメだった。

 万全の状態で受験できてたのなら、話は違ったかも

 しれない。でも運が悪いことに、その子は試験当日の

 数日前に、熱を出してしまった。


 病院を受診した結果分かったのは、インフルエンザに

 罹っているっていう事実。

 ここ最近、なりを潜めていた病気だっただけに、彼女の

 落胆は大きい。

 しかもそのインフルエンザは、今年に限って猛威を

 奮い、予防接種を受けた他の友だちも、かなり罹患

 してしまった。


 当然、軽くかかる子もいれば、高熱にうなされる子も

 いるわけなんだけど、彼女の場合は後者だった。

 熱が下がって二日。罹患してから五日。完治している

 はずなのに、フラフラ感が抜けない。

 彼女は少なくとも混乱していた。

咲良(さくら)、どうしよ。受験、受けられるかな』

『何言ってるの? ここまで頑張ったんだよ? 熱だって

 下がったんだよ?』

『うん。だけど……』

『もう! 弱気になって。わたしよりも判定良かった

 んだから、大丈夫だって!』

『……そう、かな?』

『そうだよ』

『うん。……じゃ、頑張る。ありがとね』

『ふふ、──ソンナコトナイヨ』

 だって一緒に受けないと、言い訳の理由にならない

 もの。

 自分の中の嫌な部分が、そう呟いた。


 体調不良で気弱になっていたその子を励まし、

 わたし達は試験当日、どうにかテストを受けることが

 出来た。


 でも、もちろん万全じゃない。

 そりゃそうだよね? 熱は下がっていても、ダルさが

 あったから、十分な勉強が出来なかったと思う。

 久しぶりに逢った彼女は、思いの他やつれていた。

 そんなんでいい結果なんて望める訳もなく、結果は

 惨敗。

 試験を受けられはしたけれど、今まで頑張り過ぎる

 ほど頑張ってた彼女の体力は、限界に近かくて、

 試験が終わったその帰り道、彼女は泣いていた。

 しっかり考えることが出来なかったって。


 本当はね、発表の日わたしはその子のことを気に

 掛けるべきだったの。だってもう、仕方なかった。

 あんなに頑張ったのに、きっと病気のせいだったんだ

 よって。

 だけどわたしは、自分の合格で頭がいっぱいだった。

 素直に自分の合格が嬉しかった。

 また逢える。乃維(のい)に逢える!

 わたしの事、覚えてるかな? だってもう九年も前の

 話だよ? 忘れてて当然。でもそうだったら、また

 友だちになればいい。嫌な自分全部捨てて、大好きな

 自分を見てもらおう。

 あの頃と同じみたいに……ううん、あの頃よりももっと

 いい関係を築いてみせる──!


 だから普通に喜んでしまった。やったあった!

 わたしの受験番号あったよって。その子の隣で。

 喜んで叫んで飛び跳ねて、でハッと気づいた時には

 もう遅い。恨みがましく、わたしを睨むその子が

 目の前にいた。

 その子は言った。

 私は落ちちゃったのに、なんであんただけ受かったの?

 って。判定、私よりも悪かったくせにって。

 ただ私に引っ付いて来ただけでしょ? 受かりたいって

 思ってなかったんでしょ? だってそう言ってたじゃ

 ない。自分には城峰無理だって。だったらさ、合格

 辞退してよ。そしたら私、追加合格するかもだし……!


 わたしは、言葉をなくした。

 前のわたしだったら、


『そんなの分からないじゃない。わたしの代わりに

 追加合格できる保証がどこにあるの?

 どう考えたって、あなたの高望みだったのよ』

 って、そう言ってたかもしれない。

 でも、言えなかった。

 その子の姿と、三年前楓真(ふうま)に裏切られたわたしの

 姿が被った。

 あぁそうか。同じなんだ。あの時の楓真とわたし。

 自分の欲だけで、平気で人を蹴落とした。

 ──ううん、違う。楓真は違う。

 そんな、人を蹴落とすようなわたしだから、警戒した。

 恭太郎(きょうたろう)と乃維に近づけさせない為に。


 気づいたら、わたしは泣いてた。ごめん。ごめんね

 って泣きながら謝った。でも許してくれない。許して

 くれるわけなんてない。だって、結局譲ることなんて

 出来ない。

 だってわたしだって、城峰に行きたかったから……!


 もう顔も見たくない! そう言われてその子とは

 それっきり。自分が悪いのに、その一言にわたしの

 心は傷ついた。

 利用したのは自分(わたし)なのに、いい気なもんねって、心の

 中のわたしが言う。本当にそう思う。

 わたしはなんて嫌な奴なんだろう? しかも今になって

 そんな事に気づくなんて。


 もし最初から嫌な奴じゃなかったら、楓ちゃんはあの

 三年前に、わたしを城峰に誘ったはずだもの。一緒に

 行かないかって。城峰、受験しようって。

 でも、それはなかった。

 それどころか、来るなって牽制された。


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