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さくらのさくら  作者: YUQARI
第5章 咲良
47/96

2.言い訳の材料。

R6.5.12書き直ししてます。

前回書いてたのを半分にしました。


 ──『俺さ、城峰受かったんだ』




 三年前、楓真が急にそんな事を言ってきた。

 小学校の卒業式の数日前。

 わたしはハンマーで頭を殴られたような、そんな衝撃を

 受けた。

 え? なに? 受かった? 受かったって、いったい

 どこに?


 疑問がムクムクと膨れ上がる。

 楓真は笑って言った。

『だから、来月から俺、城峰に行くの。

 キョータロに逢いに』

 満面の笑顔で言う楓真が、悪魔に見えた。


 なに、その裏切り──。

『そんなの……聞いてない』


 絞り出すようにわたしは言った。

 きっとあの時のわたしは、ものすごい顔だったんじゃ

 ないかなって思う。だけど、なりふり構ってられな

 かった。

 とにかく、ズルいって思った。

 抜け駆けだって。

 言ってくれれば、わたしだって頑張ったのに。


 楓真とわたしとの学力差は、そんなにない。体力だって

 楓真には負けない。

 楓真にできる事なら、わたしだって出来る。

 ──ずっと、そう思ってた。それなのに、これは

 ズルい。

 抜け駆けされたら、出来ることも出来ないじゃない!


『うん。だって言ってないし。言ってたら、咲良もついて

 くるだろ?』

『……』

 当然だ。

 当然だよ? そんなの分かりきってるじゃない!

 楓真なに言ってるの。

 わたしは、楓真が言ってることの意味がわからず、

 目を見開いて楓真を見た。

 楓真は笑った。

『咲良。俺、知ってるんだよ?

 お前がキョータロにした事』


 息を呑んだ。

 まさか知られてたとか。

 楓真の目が細くなる。

 顔から笑みが消えた。

『だから言わなかった。知られたくなかった。

 だからギリギリまで、黙ってた。

 誰にも言わないでって、親や先生に口止めもしたんだ。

 咲良、分かるよね? この意味』


 楓真が笑う。

 無言の圧力。

 まるで城峰には、絶対来るなと言わんばかりの圧。

 だけど、そんな訳にはいかない。

 わたしだって追い掛けたかった。城峰──ううん。

 城峰にいる、わたしの大切な──




「咲良」


 さっきとは全然違う、強い口調で楓真がわたしの名を

 呼んだ。そうだよそれだよ。それこそ楓真だよ。

 だけど心が縮む。

 楓真は続けた。

「あの時俺さ『城峰には来るな』って、牽制したつもりで

 言ったんだけど、分かんなかった?」

 お前、バカなの? と言わんばかりの口調。


「──っ、」

 楓真の目が冷たい。

 悔しい。

 言い返したい。

 でも──

 言葉が、出ない。

「………………」

 下を向くと、涙がポタポタと落ちてきた。

 自分の手なのにぼやけて全然見えない。

 あぁ、泣くって、こーゆー事なんだって、妙に納得

 する。


 黙り込んだわたしを見て、楓真は『はぁ』と息を吐く。

「咲良ってさ、なんか変わったよね」

 吐き出すように言ったその言葉に、わたしは頭の中が

 真っ白になる。

 変わった? なにが?

 ……あぁ、わたしの見た目──?

 そりゃ頑張ったもの。


「──見た目じゃなくて、中身が」

「……」

 なんなの楓真。エスパーなの。

 頭の中を読まれたみたいになって、わたしは眉を

 寄せる。

「中身?」

「そう。中身」

 楓真は言った。

「正直、咲良とはもうあわない(・・・・)って思ったんだよね。

 卒業したあの日から」




 ──あわない(・・・・)




 あわないってなんだろ?

『会わない』なのかな?

『合わない』なのかな。

 きっと、後者だなって、訳の分からないことをわたしは

 思う。

 だけどショックじゃない。わたしも思った。

 楓真とわたしは水と油。

 だけど同じ液体。

 絶対に混じり合わないのに、同じ仲間。

 それがひどく

 キモチワルイ──。


 多分それは楓真だって、同じように思ってるのに

 違いない。

 だからこそ城峰受けるって教えてくれなかったし、

 だからこそ水野家のその後を教えてくれた。


 ポロポロと涙が零れる。

 ひどく遠回りをした。

 そう。あれは言い訳だった。

 ちょうどいいタイミングで、城峰受けたいって子が

 いた。

 だからそれに乗っかった。

 わたしも受けてみようかなって。

 一緒に頑張ろうよって。


 わたし、知ってた。

 あの子には無理だって。

 だって実力が、全然伴っていなかったから。

 でも、黙ってた。


 楓真は来るなって言った。

 でもしょうがないでしょ? 友だちの付き合いだったん

 だよ。

 そう、言い訳にする為に。

 

 

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