8.楓ちゃんの妙な提案。
昼休み。
恭ちゃんの『記憶を戻す会』が開かれた。
あ、でもあれだよ? 楓ちゃんにはちゃんと釘をさして
おいた。無理をさせると恭ちゃん、倒れちゃうかも
しれないよって。実際、倒れたし。
そしたら楓ちゃん、そこのところは分かってるって
頷いた。
『別に無理をさせたいんじゃなくて、キョータロと
咲良の関係をどうにかしたいって思っただけだから。
だから実際は、記憶を取り戻させようなんて、そんな
大それたこと思ってない。どちらかと言うと、
みんなで仲良く過ごす中で、その妨げになりそうな
ものを排除するって言った方が、しっくりくるかも
しんない。
ほら俺もだけど、咲良ってさ、ずっとキョータロの事
心配してたんだよね。だから誤解は解いておきたい
かなって』
楓ちゃんは、困ったように笑いながら先を続ける。
『ウチはさ、キョータロんちの家族と知り合いだから
事故後のことだって知ることが出来たけど、咲良は
違うだろ?
キョータロはともかくとして、あんなに仲良かった
乃維ちゃんとも、あの日を境に連絡が取れなく
なって、咲良、かなり動揺してたんだよ?
でも、あの時の俺ってさ、事故のショックで
キョータロの記憶がなくなったから、今はそっと
しておいてやってって、そんな簡単な説明しか
しなかったんだよね。
あの時は気づかなかったけど、今思うと咲良、異様な
程に神経質になっててさ、それは絶対自分のせい
だからって、そう言ってきかないんだ。
交通事故のせいだから、お前のせいじゃないって
言っても全然納得してくれなくって、最初の方はホント
手がつけられなくてさ。
……で結局、うるさいからって放っておいたんだよね。
結果あぁなった。
どっちかって言うとガサツだった咲良があの通り──
って、あ……うん、ごめん。言い過ぎた。ガサツって
ほどじゃないけど、咲良ってさ、ちょっと自己中的な
とこあったじゃん? 仲良かった乃維ちゃんはそう
思ってなかったかもだけど、結構自分の意見を譲らない
みたいなとこあったんだよね。友だちだって多い
わけじゃない。だから不思議だったんだ。乃維ちゃん
とは仲良かったから』
楓ちゃん、それフォローになってない。
私がムッとして楓ちゃんを見ると、楓ちゃんは困った
ように頭を掻いた。
確かに咲良は、多少のワガママはあったかもしれない。
でもそれは、年齢相応だと思う。恭ちゃんだって
あの頃は、そーとーなもんだったし、私だって好き勝手
言ってた。咲良はそこのところちょっと強引なとこも
あったかもしれない。でも嫌な感じじゃなかった。
口調は強かったけどでも、こっちも自分の想いを
話したら、ちゃんと分かってくれたもの。
それよりもあれだよ? 放っておいたって、それ
自覚してやっちゃってたとか、ちょっとひどいんじゃ
ない?
「……」
でもそうは思ったけれど、あの時なんの連絡もせずに
音信不通になったのは私たちの方だし、楓ちゃんも
そのことに関しては被害者なんだっけ。
久しぶりに逢った楓ちゃん、泣きながら恭ちゃんに
抱きついていて、みんな驚いたもん。
それほど私たちは、周りに心配掛けていた。
あの時私たちは、まだ小学校の低学年で、どうこう
できる年齢でもなかった。だからしょうがなかった。
いい加減な言い方かもしれないけれど、所詮やれる
事は限られてたから。
『でもまぁとにかく、あの時の咲良は異常なほど加害者
意識が強くって、キョータロとケンカでもしたの?
って感じだったんだよね。実際聞いたんだけど、咲良
なにも話してくれなくて、相談に乗ることすら
できなかったってのが現状。
咲良自身ひどく反省したのか、ゴロッと性格変わるし、
なんか申し訳なくって。あの時ちゃんと説明出来てたら
良かったなって』
──そう。
私もそんな風に思った。もっといいやり方あった
かもって。
でもね、たとえ恭ちゃんと咲良がケンカしていたのが
事実だとしても、それはもう九年も前の話なんだよ?
もういい加減、吹っ切れてもいいんじゃないの? って
言う思いはある。
だからいいよって言った。恭ちゃんの『記憶を戻す
会』を開くことを。




