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さくらのさくら  作者: YUQARI
第3章 恭太郎
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6.好奇心。

「ねぇ。なーに話してるの?」

 不意に、後ろから声がかかった。

 乃維(のい)だ。


「何でもない。お前には関係なーい」

 オレはヒラヒラと手を振る。コイツに今の話が()れると

 更にめんどくさい事になる。オレは人知れず焦る。

 ただの世間話だったら問題なかったけれど、不覚にも

 これ、恋愛話だと思うし。恋愛話だと乃維の好物だし。

 そんなのがコイツの耳に入ったら、あっという間に

 クラス中に……いや学校中に広がりそうだ。オレは

 青くなる。そうなったら、絶対、橘の耳にだって入る。

 そんな事になったら、目も当てられない。ここは

 慎重に行動しないと今後の高校生活が、最悪な自体に

 なりかねない。

「なによぅ。ケチ」

 言いながら、乃維はべーっと舌を出した。

 ただそれが、純粋に可愛いと思う。

 オレも女装したら、乃維みたいに見えるのかな?

 ふとそんな事を考えた事がある。


 ホント、馬鹿だったと今なら思う。

 だけど、みんながそう言うんだ。

 女装したら、乃維ちゃんみたいになるよ絶対! とか。

 あの一番冷静な楓真だって言ってた。だから少し前に

 乃維の服を勝手に拝借(はいしゃく)して着てみたことがある。


 …………。

 あ、言っとくけど、オレにそんな趣味はない。断じて

 ない。あの時は魔が差したと言うか、単なる好奇心って

 言うか、とにかく、みんなが似てるって言うなら、

 オレが女装しても、それなりに可愛くなるのかな? とか

 乃維より身長あるから、もしかしたら美人系になるかも?

 とか、そんな素朴な(?)好奇心から、ちょっと試しに

 着てみよう……的な思いに駆られただけ。


 で、だよ。結論から言うと、やっぱり可愛くない。

 そもそも服がちっさくて、入らなかった。ついでに

 言うと、女の子って言うにはやっぱりごっつい気がして

 オレ的には頂けない。

 ふぅ〜ダメだこれ。全然可愛くない。ザンネーンと思い

 ながら脱ぎに掛かったその時、運が悪い事にその時

 乃維に見つかって大目玉を食らった。


『ちょ、恭ちゃん!! 何してくれてんの!?

 これ、私のお気に入りのワンピース!

 伸びちゃう伸びちゃう! 早く脱いでっ!!』

『うわっ、待て待て脱ぐから、そんなに引っ張ったら

 ダメだって……っ!』


 脱ごうとする傍から服を剥ぎ取ろうとする乃維。

 結果──




 ──びりっ。




『いやあぁぁ……っ!

 もう、もうもうお兄ちゃんなんて大っっっ嫌いっ!!』




「……」

 あの時はさすがに応えたよね。

 オレだって見られたくなかったし。

 服、破るつもりもなかった。

 乃維があんなに引っ張るから……。


 でも、何が悪いって、やっぱりオレが悪い。

 単なる好奇心で乃維を傷つけた。

 乃維はそれから三ヶ月くらい、口聞いてくれなかった。

 それだけじゃない。親からも、お前そんな趣味あった

 の? 知らなかった。言ってくれれば買ってやった

 のに。とかなんとか、わけの分からない同情された

 挙句、乃維とお揃いのワンピース買ってもらった。

 いやいやいらないし。こんなの乃維が見たら絶対

 怒るヤツだよ? 早く返品してきて下さい。


 こっそり戻してもらおうと思ってたのに、なぜだか

 母さんの方がノリノリで、着てみて着てみて! 絶対

 可愛いから! って、はしゃいでくれて、それがまた

 乃維の目にとまってしまった。

 フルフルと震える乃維。

 ……ん、だよね。そうだよね。有り得ないよね。

 分かる。分かるぞ乃維。その気持ち。

 同情の目を向けたつもりだったけど、怒りMAXの

 乃維に、オレの気持ちが通じるわけもなくて、




『お兄ちゃんとお揃いとかイヤっ!

 もうこんなのとふたごとか、有り得ないっ!!』




 ……いやこんなの(・・・・)って。それって酷くないですか?

 でも、やらかしたのはオレなので、何も言えない。

 ったく、誰だよそっくりだって言ったの。


 乃維は女の子にしてはボーイッシュな方なんだけど

 別にごっついわけじゃない。

 そうだな……ふんわり柔らかな雰囲気の中に、キリッと

 した芯が一本通っているって感じかな?


 肩までのボブヘアは、毛先を随分と()いていて

 ふわりとカーブを描いているのが可愛らしい。少し

 クセがあるから、そうやって毛先を遊ばせると

 いいですよってイケメン美容師に勧められたと言って

 かなりご機嫌だった。

 ちなみにオレは、普通のショートカット。

 何なんだろね、この差は。


 乃維とオレは全然違う。顔かたちだけじゃなくて、

 性格だって似ても似つかない。どちらかというと

 活発な性格の乃維は、オレより友だちが多い。

 さっぱりとした性格だから、男女問わず乃維には一目

 置いている感じがする。

 もちろん、教師陣からも好感触だ。

 オレの方が勉強の順位は上なのに、妹を見習えって

 何故だかよく言われる。何とも解せない。


 くっきりとした二重瞼の目は、にっこりと笑うと

 その下に少し涙袋が現れる。多分これは母さん似。

 父さんにはできないから。──でもこれって、オレにも

 できるんだろうか? 今度鏡の前で試してみよ、とか

 思うあたり、オレも結構、重症かもしれない。

 結局のところオレは、人付き合いを嫌ってはいても

 人の目は気になってる。

 お前はこうだ! って言われるとそうかなって思って

 しまう。

 乃維みたいになれって言われると、そうなろうと

 思うし、乃維に似てると言われると嬉しくなる。

 かなり依存してるってそう思う。だけど気にせずに

 生きていくには、乃維の存在は近すぎた。

 

 

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