5.ダンジョンのボスモンスター。
「……ふふっ、てことは、なんですか? キョータロの
感覚的には、教室のモンスター的な? グワーッて牙の
生えた教室みたいな。そのダンジョンのボス的な?」
「なにそれ、ゲームのやりすぎ」
「いやいや、キョータロさまには勝てませんし」
「ちょっと待て。お前、そんな事言うけど、オレは
知ってるんだぞ。お前ってさ、某MMORPGで結構
高ランクにいるんだろ? えっとなんだっけ?
グラディアス ギリア? だっけ? なんなの? 課金でも
してんの?」
「えー、それデマだからね? 誰に聞いたの」
「金田が言ってた」
「なにそれ。あいつ前からお前とゲームの話したがって
たから、俺ダシに使われただけじゃないの?」
「え? そなの?」
「そう。
お前、ちょっとは他のやつとも話してやれよ? 顔
強ばってて怖いぞ?」
「怖く……ないし」
「も少し、笑えば?」
「……可笑しくないのに、笑えないだろ?
てか、笑ってるよな? オレって」
「まあ、ね。仲のいいヤツ限定だけどね」
「仲のいいヤツって。……それ誰だよ」
「……」
楓真は答えない。
意味もなく訪れた沈黙に、オレは少し焦る。
えっと、なんの話しだったっけ? 仲のいい友だちの
話? ゲーム? あれ? ……ちょっと違ったよね?
そんな事を考えてたら、楓真が窓の外を見ながら
ポツリと言った。
「──で、どうなの?」
「ん? どうっ……て何が?」
聞き返しながらオレは楓真を見る。
でも楓真は、こっちを見ない。
楓真のその行動に、オレは少し……不安になる。
楓真は続けた。
「キョータロはさ、咲良の事が好きになったの……?」
──は、何それ?
その言葉に、頭の中が真っ白になる。
え? ちょ、待って待って、なにそれ。何でそうなるの?
思わず聞き返すと楓真は、だって、気になるんだろ?
咲良のこと。だからずっと見てるんだろ? って、
相変わらず外を見ながら楓真はオレに、そう言った。
「……ばっ! ちょっ、何でそうなる? 違うって! そんなこと
一言も言ってないだろ?」
でも頬が熱い。
あぁ、絶対に赤くなっている。顔が。
楓真がこっち見てなくて良かった。
オレは焦って否定したのけれど、それが余計に楓真の
言葉を肯定しているようで、どうしたらいいのか
分からなくなる。
で、だよ。そんな時に限って楓真がこっちを見るわけだ。
「──っ、」
思わず息を呑む。
うわ。なに、このタイミング。
オレは慌てて顔を背け──ようとした。
いや待て待て、ここで顔背けたら、余計肯定したことに
ならないか?
オレはそう考え直して、腕で顔を隠すことにした。
けど……結局、どっちも一緒じゃね?
これってさ。
「……」
楓真が一瞬目を見開いて、そして笑った。
笑ってたけど、でも微かに眉間にシワが寄ってる。
えっと、楓真さん? ホント誤解ですって。
だけどそんな事、楓真は信じない。
「うっふっふっふっふ。分かっているよ、キョータロ。
キョータロの気持ちは、俺が一番分かっている」
そう言って、バンバンとオレの肩を叩く。
楓真、その笑顔、怖いって。
『分かってる』って何が?
いや、分かってない。
絶対に分かってないだろ?
それ絶対、勘違いしてるやつだから!
オレは、軽く頭を抱える。
どうやって信じてもらおう? だいたいオレは、説明
するのが苦手だ。しかも今のオレは、いきなりの事で
動揺してる。今の状態で、言葉を重ねても、逆に墓穴を
掘りかねない。
なに、このめんどくさい状況。
本人気づいてないかもだけど、新しい環境になって、
楓真のテンションだって例外無く、みんなと同じで
上がってたんだなって、そう思った。
今更気づいても、遅いんだけどね……。




