2.世間知らず。
※R6.7.5書き直し。
あ、と。話が逸れた。で、そう、学校の話だった。
そんなわけで城峰附属は、歴史がある県内有数の
進学校なのです。
となると、たいていは厳しい校則に縛られている
ような感じがするんだけど、けれどここはそんな事は
全くなくって、他に類を見ないほど自由な校風を
売りにしている。
そのせいなのかはよく分からないけれど、中学生からは
絶大な人気を誇っていて、県内だけじゃなくって
県外からの入学希望者も後を絶たない。
内部受験はあれだけど、外部からの受験者はきっと
ものすごい倍率を勝ち取って入学してくるんだろう
なーなんて入学の時期になるたびに、オレは思う。
あ、ちなみにオレは内部受験。
ちっちゃい時からここにいるの。だから、高等部での
授業はまだ受けていないけれど、内部情報はあらかた
知っているわけで、特段緊張しているとか、新生活が
不安だとか、そんな事はないわけなのです。はい。
あぁ……でも、入学受験かぁ。なんだかんだ言いつつ
オレも遂に高校生。──正直に言って、あまり
実感は湧いてこないんだけど、感慨深いものはある。
だって、オレがこの学校に入ったのは、もう随分と前の
話。それも、右も左も何にも分からないくらい
ちっちゃい頃。年齢にして三歳くらい?
いわゆる『お受験』ってやつを乗り越えて、この
学院に入ったんだろうけど、残念な事にオレには
その時の記憶が全くない。
気づいたら、この学校の附属の幼稚園に通っていて
わけも分からずそのまま小学校へ入学。そして中学。
ずるずるずるずると過ごして、今に至る。
ほかの学校? そんなの知るわけない。
興味もないし、知ろうとも思わない。
今置かれている自分の場所だけ把握してればいいって
思っていたから、勉強が大変だとか、進学できない
プレッシャーなんてのは、ほとんど感じたことが
なかった。
……『世間知らず』と言えば、そうなのかも知れない。
ここの学校がいいとか、あっちの学校がいいとか
選んだことなんてなかったし、考えた事もなかった。
この学校に入った時だって、物心つくかついて
いないか時だったから、当然ここがいいとか
あそこがいいとか、そんな希望を言える年齢に達して
いた訳じゃない。言うなれば両親の期待を一身に
背負って、オレは今ここにいるって事になる。
──だけど、不思議なんだよね? 親の期待?
そんなのあの人たち、持ち合わせていたんかな?
だってあれだよ? かなり自由奔放な人たちだよ?
何でここを選んだのかな?
確かにこの学校は、一貫して自由さを売りには
している。
遊ぶ事だって本気でやるから、学園祭にいたっては
その名の通り、まさに『祭り』。関係者だけでなくて
地域の人たちも巻き込んでの、大きなイベントになる。
それに惹かれた……と言うのなら分からない
訳でもない。でも『お受験』だよ? 面倒臭い雰囲気が
プンプンしているお受験。あの人たちが進んで
選ぶような事じゃないと思うんだけどね?
水野家七不思議? 『そんなのテキトーでいいよ』とか
『好きにやってみなさい』とかって言うのが十八番の
うちの家族。それなのに、まさかのお受験。
どう考えてみてもおかしい。
どうして、こうなった?
うちの親はどちらかと言うと、適当と自由奔放……
それから、放任に野放しって言葉がしっくりくる。
──って、あえて言葉にするとかなり毒親っぽいけれど
実際はそうじゃない。
好きにしなさいとは言うけれど、でも子どもの事を
全く見てないわけじゃない。道に外れようとした時には
コラコラそっちじゃないって言って、首根っこ引っ張り
ながら、元に戻してくれるような、そんな両親だ。
いつも子どもの自由を尊重してくれているし、オレたちの
失敗も笑って許してくれる。
そんなだから、お受験にハマる……なんて状況はちょっと
考えられない。どっちかと言うと公立学校をそつなく
歩んで行く……そんな子育てが似合ってる。それなのに
何故かオレはここにいる。
なんで、この学校にいるんだろう? ……それが未だに
謎。
どう考えたっておかしい。
──でも、そんなぬるま湯的なこの学院生活が
意外にもオレには合っていて、あえて抜け出そうなんて
思わない。
親の謎行動はともかくとして、少なくともオレは
この学校に在籍する事が出来て、本当に良かったと
思っている。
そんなオレだから、高校入学と言われても正直ピンと
来ない。
受験勉強らしい受験勉強も、そんなにはしなかった。
それでも、いつもと変わらない日常が待っている。
淡々と、同じ事の繰り返し。ただそれだけ。
それだけなんだと、思っていた。
──思って、いたんだけど……ね。




