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さくらのさくら  作者: YUQARI
第1章 恭太郎
3/96

2.世間知らず。

※R6.7.5書き直し。

 あ、と。話が()れた。で、そう、学校の話だった。

 そんなわけで城峰附属は、歴史がある県内有数の

 進学校なのです。

 となると、たいていは厳しい校則に(しば)られている

 ような感じがするんだけど、けれどここはそんな事は

 全くなくって、他に(るい)を見ないほど自由な校風を

 売りにしている。

 そのせいなのかはよく分からないけれど、中学生からは

 絶大(ぜつだい)な人気を(ほこ)っていて、県内だけじゃなくって

 県外からの入学希望者も後を()たない。


 内部受験はあれだけど、外部からの受験者はきっと

 ものすごい倍率を勝ち取って入学してくるんだろう

 なーなんて入学の時期になるたびに、オレは思う。

 あ、ちなみにオレは内部受験。

 ちっちゃい時からここにいるの。だから、高等部での

 授業はまだ受けていないけれど、内部情報はあらかた

 知っているわけで、特段緊張しているとか、新生活が

 不安だとか、そんな事はないわけなのです。はい。



 あぁ……でも、入学受験かぁ。なんだかんだ言いつつ

 オレも(つい)に高校生。──正直に言って、あまり

 実感は()いてこないんだけど、感慨深(かんがいぶか)いものはある。

 だって、オレがこの学校に入ったのは、もう随分と前の

 話。それも、右も左も何にも分からないくらい

 ちっちゃい頃。年齢にして三歳くらい?


 いわゆる『お受験』ってやつを乗り()えて、この

 学院に入ったんだろうけど、残念な事にオレには

 その時の記憶が全くない。

 気づいたら、この学校の附属の幼稚園に通っていて

 わけも分からずそのまま小学校へ入学。そして中学。

 ずるずるずるずると()ごして、今に(いた)る。


 ほかの学校? そんなの知るわけない。

 興味もないし、知ろうとも思わない。

 今置かれている自分の場所だけ把握(はあく)してればいいって

 思っていたから、勉強が大変だとか、進学できない

 プレッシャーなんてのは、ほとんど感じたことが

 なかった。


 ……『世間知らず』と言えば、そうなのかも知れない。

 ここの学校がいいとか、あっちの学校がいいとか

 選んだことなんてなかったし、考えた事もなかった。

 この学校に入った時だって、物心(ものごころ)つくかついて

 いないか時だったから、当然ここがいいとか

 あそこがいいとか、そんな希望を言える年齢に達して

 いた訳じゃない。言うなれば両親の期待を一身に

 背負って、オレは今ここにいるって事になる。


 ──だけど、不思議なんだよね? 親の期待?

 そんなのあの人たち、持ち合わせていたんかな?

 だってあれだよ? かなり自由奔放(ほんぽう)な人たちだよ?

 何でここを選んだのかな?


 確かにこの学校は、一貫(いっかん)して自由さを売りには

 している。

 遊ぶ事だって本気でやるから、学園祭にいたっては

 その名の通り、まさに『祭り』。関係者だけでなくて

 地域の人たちも巻き込んでの、大きなイベントになる。

 それに()かれた……と言うのなら分からない

 訳でもない。でも『お受験』だよ? 面倒臭(めんどうくさ)い雰囲気が

 プンプンしているお受験。あの人たち(・・・・・)が進んで

 選ぶような事じゃないと思うんだけどね?

 水野家七不思議? 『そんなのテキトーでいいよ』とか

『好きにやってみなさい』とかって言うのが十八番(おはこ)

 うちの家族。それなのに、まさかのお受験。

 どう考えてみてもおかしい。

 どうして、こうなった?


 うちの親はどちらかと言うと、適当と自由奔放……

 それから、放任(ほうにん)に野放しって言葉がしっくりくる。

 ──って、あえて言葉にするとかなり毒親っぽいけれど

 実際はそうじゃない。

 好きにしなさいとは言うけれど、でも子どもの事を

 全く見てないわけじゃない。道に外れようとした時には

 コラコラそっちじゃないって言って、首根っこ引っ張り

 ながら、元に戻してくれるような、そんな両親だ。

 いつも子どもの自由を尊重してくれているし、オレたちの

 失敗も笑って許してくれる。


 そんなだから、お受験にハマる……なんて状況はちょっと

 考えられない。どっちかと言うと公立学校をそつなく

 歩んで行く……そんな子育てが似合ってる。それなのに

 何故かオレはここにいる。

 なんで、この学校にいるんだろう? ……それが未だに

 (なぞ)

 どう考えたっておかしい。


 ──でも、そんなぬるま湯的なこの学院生活が

 意外にもオレには合っていて、あえて抜け出そうなんて

 思わない。

 親の謎行動はともかくとして、少なくともオレは

 この学校に在籍する事が出来て、本当に良かったと

 思っている。


 そんなオレだから、高校入学と言われても正直ピンと

 来ない。

 受験勉強らしい受験勉強も、そんなにはしなかった。

 それでも、いつもと変わらない日常が待っている。

 淡々と、同じ事の繰り返し。ただそれだけ。

 それだけなんだと、思っていた。


 ──思って、いたんだけど……ね。

 

 

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