表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくらのさくら  作者: YUQARI
第3章 恭太郎
26/96

1.わけの分からないイライラ。

 しつこく聞くオレの言葉に、楓真(ふうま)は困った顔をする。



 ──えっと、咲良(さくら)の事?




 楓真(ふうま)が渋々そう返してきた瞬間、胸の中に

 意味不明のモヤモヤが広がった。

 思わず顔をしかめたくなる。

 その事に気づかれたくなくて、オレは顔を伏せた。


 咲良?

 楓真は、あの子と知り合い?


 そう思うと胸の中の不愉快さは、更に大きくなる。

「……っ、」

 別に楓真とその子が知り合いだったからって、モヤモヤ

 してるわけじゃない。そんな事だってあるとは思う。

 だけど『咲良』?

 乃維(のい)ですら『ちゃん』付けで呼ぶ楓真なのに、あの子に

 対しては呼び捨てで呼んでるの?

 なに? それってどーゆー関係?

「……」

 何をどう返していいのか分からなくなって、沈黙(ちんもく)

 広がった。多分、楓真にだって、オレのこのモヤモヤが

 伝わっているんだと思う。妙に口数が少ない。


 教室には他のヤツらもいて、当然なにかを喋っている

 はずなのに、その声ですら今のオレの耳には届かない。

 沈黙の時間が長いほど、不愉快さが大きくなる。

 不快? いや不安──?


 なん、だろ? この気持ち。

 何に対してモヤモヤしてるのか分からない。楓真に

 対して? それとも、あの子に対して?

 わけが分からなくなって、自分自身にムッとしながら

 顔を上げると、そこに楓真の困った顔が見えた。

 見えた途端、モヤモヤが消える。まるで霧が晴れる

 みたいに。

 あ。楓真も困って、る……?


「えっと、……違った、かな? 橘咲良(さくら)だよ。ほら、

 今朝泣いてたヤツだろ? 廊下で……」

『泣いてた』の言葉に、オレは反応する。


 そう。確かに泣いてた。

 新学期が始まって、数日は経ったんだけど、限界

 だったんだと思う。今までずっとニコニコして

 いたのに、違うクラスに友だちがいるのを見つけて

 遂に泣き出してしまった。


咲良(さくら)って──いうの?」

 オレは必死にその言葉を絞り出す。

 イライラ? そんなの感じたとして、どう処理するって

 言うんだ。原因が分からないんだから、悩むだけムダ。

「え? 何言って、キョータロだって知って──あ、いや

 知らなかった?

 ……そう、だよね?キョータロは小学校、違ったから。

 あいつ、俺と同じ小学校。よく遊んでたから結構

 仲いいんだ」

 そう言って、少し困ったように笑う。

 その態度が、なんだかわざとらしく思えて、今度は

 楓真に対してムッとする。


 なに? その取ってつけたような笑いは。

 仲がいい?

 オレだって楓真とは幼なじみだ。幼稚園も小学校も

 違ったけど、公園で初めて出会った時からいつも

 一緒につるんでいるじゃないか。でも、咲良なんて子は

 知らない。会ったこともないし、話したこともない。

 それなのに楓真とは『仲がいい』なんて、なんだか

 釈然(しゃくぜん)としない。

 オレの知らない楓真がいるのを感じて、推し殺そう

 とした胸のモヤモヤが、どんどんどんどん大きくなる。

 でも、そのモヤモヤの本当の原因は掴めなくって

 誰に対しての気持ちなのか、未だよく分からない。

 分からないから気持ち悪い。

 イライラなのか、不安なのか。

 楓真に対してなのか、橘に対してなのか。

 いや。もしかして、自分に対して──?

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ