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さくらのさくら  作者: YUQARI
第2章 楓真
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4.スマホ老眼の君。

 あ、あれかも? レア度が違うのかも?

 乃維ちゃんの笑顔はよく見るけれど、キョータロは

 あまり笑わない。笑わないわけじゃない。それなりに

 よく笑う。でも何か違う。──少し影のある笑い?

 一緒にいる俺たち以外には、笑い掛けることもしない。

 だから近寄り難くなる。


 前はよく笑ってたんだけどね、心の底から、本当に楽し

 そうに。でも最近はそんな顔、ほとんど見なくなった。

 でもレア度って……。どうせならニコニコ笑顔の

 穏やかな人を日々見たいって思うはずで、本気で

 笑うことが出来なくなったキョーは、明らかに

 マイナス面だと思う。だから、そこに惹かれたわけじゃ

 ないはず。

  あー……、それとも色が、白いからかな?

 キョータロは乃維ちゃんと違って、部活をしていない。

 面倒臭いって言っていつもすぐに帰ってしまう。

 外にもあまり出ない。

 出ているのはお昼休みくらい? お気に入りの場所が

 校庭にあって、いつもそこでゴロゴロしている。まるで

 どっかの猫みたい。


 夏場だってそこにいるから、日焼けしそうなもの

 なんだけど、あそこは朝から晩までガッツリ日陰で

 夏場でも涼しい。まぁ、本格的な暑さになる頃には

 夏休みに入るから、その期間も涼しいのかは謎だけど

 過ごしやすい場所って言えば、そうなのかもしれない。


 休みの日だって、出掛けることはあまりない。

 人見知りがひどいのもあるけれど、基本スマホゲームに

 ハマってる。

 だから行動的な乃維ちゃんと違って色が白い。

 透き通るような白さって言うのかな? 肌のキメだって

 驚くほど細かい。下手すると妹の乃維ちゃんですら

 キョータロの肌には遠く及ばない。……というか、

 乃維ちゃんはどちらかと言うと小麦色だ。部活は

 吹奏楽。

 室内での活動みたいに思われがちだけど、夏場は

 マーチングがあるから基本日に焼けている。うちの

 学校の吹奏楽部では、毎日筋トレを課しているから

 必然的に、年中健康的な肌色をしている。


 ──いやでも、色の白さが『好き』なわけじゃない。

 むしろ俺的にはキョータロは、もう少し外で活動した

 方がいいんじゃないかって思ってる。少しくらい日に

 焼けた方が健康的で、もっと好感が持てるはずだ。

 じゃあ、これだと好きになった理由にならない。

 だったら性格かな?


 キョータロの性格は、掴みどころがない。

 首席の話もそうだけど、『頑固』と思っていたら

 そうでもなかったり、興味を持ったか? と思ったら

 そっぽ向かれたりとか。基本、何を考えているのか

 分からない。

 自由奔放で捕まえようとしても、捕まらない。

 それがもどかしくて、躍起(やっき)になって捕まえ

 ようとして、ウザがられる。

 自分を見て欲しい。

 自分だけ(・・)を見て欲しい。

 でもそれは、土台無理な話しで、それがとても

 もどかしい。


 ………………。

 となると、それでもない?

 じゃあ能力?

 キョータロの能力は計り知れない。

 そう、性格が自由奔放だからか、まず本気を出して

 いない。それは勉強以外のスポーツや生活態度を

 見てても変わらない。


 余力で動いている感じ?

 それなのに勝てない。

 いや、学力の順位は勝ってるよ? 数字もそう出て

 いるし、キョータロ本人も負けを認めている。

 でも、本気じゃない(・・・・・・)

 ここは重要。

 そう。キョータロは本気じゃないんだ(・・・・・・・・)

 本気じゃないキョータロに勝って、嬉しいわけがない。

 しかも当の本人も、その事に気づいてない。

 何もかもが自由で、何もかもがもどかしい。




 ──もどかしい……?




 もどかしいから、気になるんだろうか?

 でも、それとも違う気がする。

 でも、本当に好きなんだ。




「……っ、」

 そんなキョータロが今まさに目の前。


 ドキドキしないわけがない。

 見つめられると、どうしたらいいのか分からなくなる。

 なんなの? このご褒美は……っ。

 恐らくは真っ赤になってしまった自分の顔を、必死に

 腕で隠してそっぽを向く。

 そしたら哀れな声を、キョータロがあげた。


「……いやいや、その驚き方って、軽く傷つくんです

 けど」

「いや、違っ……これはっ!」

 自分でも分かる。これは耳まで真っ赤になってる

 ヤツだ。

 慌てて腕で自分の顔を隠す。


「おいおい。そこまでして避けなくったっていいだろ?」

 違う。そうじゃなくて!

 でも言葉にできない。出来るわけない。

 必死になって、冷静さを取り戻す努力をする。

 バクバクと破裂しそうな程に暴れ回る心臓が憎い。

 あぁ、でもなんて役得なんだろう。良かった。勉強

 頑張ってて。キョータロと親友でいられて。同じ学校の

 しかも同じクラスになれて。


 でも、そんな気持ちを俺が持ってるなんてキョータロは

 知らない。知らないから困った顔で軽く舌打ちする。

「分かったって、今度から窓側を取るから。

 ごめんな? お前のことも考えなくって。

 でも最近目がボヤけるんだ。少し近眼になってるの

 かも。だってねこの前、ハマるスマホゲーム

 見つけたの。

 パズルなんだけどね、広告ムカつくんだけど、無課金で

 今レベル百七十なんだぜ? 凄いだろ?」

 無邪気に顔を近づけてくる。

 おかげでこっちは、心が休まらない。けど、必死に

 言葉を返す。

「ほどほどにしろよ、今に目が見えなくなっても

 知らないからな」

「ふふ、ほんっとお前って過保護。

 そんなに言われなくったって、分かってるって。

 でもやめられないんだよなー。

 だから、用心のために前の席。今度は窓側には移動

 するけれど、前列は覚悟しろよ?」

「……うん。分かった。

 でも眼科にも行けよ」

「あー……病院。病院はね、嫌いだか──」

「──行けよ?」

「……あ──、そうだねー」

「行けって」

「……えっと、その。

 行かなきゃダメ?」

 懇願(こんがん)するように首を傾げて見あげられると、正直

 弱い。でも放置して良いやつじゃない。

 キョータロの目の酷使(こくし)は、多分スマホが原因。

 だとすると可能性的にはスマホ老眼。下手をしたら

 網膜剥離(もうまくはくり)を起こしてしまう可能性だって

 無きにしも非ず。そうなれば失明することだって

 ありえるかもしれない。


 俺は眉を寄せた。

 そんなの、絶対に嫌だ。


「行かなきゃ、約束してたお好み焼きは、なかったって

 ことで──」

「えー!! ダメダメそれだけは絶対ダメっ! せっかく

 楽しみにしてたのに。

 ………………ったく、分かったよ。今度行く」

「分かればいいの」

 

 こうして、オレたちの高校生活は始まった。

 

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