3.秘密の気持ち。
いつも怖くて仕方なかった。今だって怖い。
キョータロが本気を出したら、いったいどうなるん
だろう? って。
そしてこの気持ち。
この気持ちだって、知られてしまったらどうなるか
分からない。キョータロが本気で俺から離れようと
したら、もうどうしようもない。
先生だって言ってたじゃないか。もっと上を目指せる
のに、なぜ本気を出さないのだろうって。
だけど今ですら、ギリギリ追いついている状況なのに
キョータロに本気を出されたら、もうホントに追い
つけない。手が届かなくなってしまう。
自由奔放で、少し天然が入っているキョータロ。
だからオレはまだ、かろうじて追いつける。
このままでいて欲しいって思う。
このまま一緒にいたいって。
でも──キョータロは、……キョータロはどう思っ──
「──楓真?」
呼ばれてハッと気づいて見てみると、物憂げな
キョータロの双眸とバッチリ目が合って俺は
息を呑む。
「う……わぁっ!」
思わず仰け反った。
近い! 近い近い近い……っ!! なんなの? さっきは
自分の席に座ってただろ? なんで目の前にいんの!?
そして運の悪いことに、俺は仰け反った瞬間
バランスを崩す。
「ひっ──」
イスごと後ろにひっくり返りそうになって、変な声が
出る。
「うわっ! 楓真──」
何やってんの! と叫びながら、キョータロは慌てて
立ち上がって、俺の袖を掴んで助けてくれた。
バクバクと心臓が音を立てる。
うわ……どうしよう。
掴まれた袖が、なんだか嬉しい。すごい。心配してくれ
てるとか。親友冥利に尽きる。
あぁ、好きだ。やっぱり好き。これはもう、どう
しようもない。
なんで……何で、よりにも寄って相手がキョータロなん
だろ? だって同性なんだよ?
最初はもちろん、気のせいだって、必死に思おうとも
した。思春期にありがちな勘違いだって。
だけど、多分違う。
見た目がキョータロにそっくりな乃維ちゃんを見ても
ときめく事なんかなかった。純粋にキョータロが
好き──。
いったいキョータロのどこが好きなんだろう?
いや、そもそもこの感情って、恋愛感情なの?
自分で自分が分からない。だから、それなりに分析も
してみた。
分析はやりやすい。だって、キョータロと瓜二つの
乃維ちゃんの存在があったから。彼女は女の子だ。
本当ならキョータロじゃなくって、乃維ちゃんを
選ぶべきだと思う。
だけど俺が選んだのはキョータロ。
なんでキョータロ? どうして彼を選んだの?
でも、乃維ちゃんとキョータロの違いを分析すれば、
この気持ちの本当の正体が、分かるかもしれない。
例えば見た目。
さすがはふたご……二人はとても良く似ている。
二人を見ていると、男女差って意外とないんだなって
思い知らされる。
あ、そりゃ筋力の差とか体の線は当然ちがうよ? でも
二人はどちらかと言うと中性的で、どの性別でも
違和感ない。
ボーイッシュな乃維ちゃんに、柔らかなイメージの
キョータロ。
キョータロだって、もっと愛想良くしていてたら
女の子にもモテたかも……なんて思うけど、これは絶対
本人には教えちゃいけないやつ。
ま、教えたところで、キョータロには興味ないかも
しれないけれど。
とにかく俺は、見た目でキョータロの事が好きになった
わけじゃないとは思う。それだったら乃維ちゃんでも
良かったはずだ。でも俺は、乃維ちゃんにはときめか
ない。
例えば同じ笑顔でも、キョータロのそれは独り占めに
したくなる程、好き。




