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さくらのさくら  作者: YUQARI
第2章 楓真
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2.バカと天才は紙一重。

 そんなこんなで学校としては、いくら普段が

 ちゃらんぽらんでも、真の首席であるキョータロを

 総代に()えるより、他なかった。

 これってまさに快挙。

 でもその事に、当の本人がまず気づいていない。

 キョータロ?

 お前って本当は、とっても凄いやつなんだよ?


 キョータロはあぁ見えて、自分のことを信じていない。

 誰よりも自由奔放でいるのは、みんなと一緒にいる

 自信がないからだ。だからあえて、みんなから一線

 置いて距離を取っている。

 虚勢(きょせい)──なんかじゃない。だって本人は、その事に

 気づいていないから。無意識に逃げてるんだ。

 人と関わろうとするのさえ、傍目から見たら

 面倒臭くてやっていないように見えるけど、でも違う。

 俺には何となく分かる。

 キョータロは、きっと怖いんだ。


 裏切られるのが──。



「……」

 そして多分俺は、それを利用してる。

 本当は、そんな事は無いって伝えたい。お前は凄い

 やつなんだよって。(おび)える必要なんてないんだって。

 ──でも、今のままでいて欲しいって、そう思っている。

 そしたらキョータロは、俺の傍から離れられないから。

 そんなズルい自分がいる。

 今のままで居続けられれば、キョータロは俺の傍にいて

 くれる。そんな気がする。


 いやいやそれ、ズルいから。本人気づいていないけど

 キョータロ、自分で自分追い込んでんだよ? そうも

 思った。──だから、一応は説明した。本当のこと。


 だけどいくら事実を説明しても、本人が……キョータロ

 自身が信じてくれない。

 初めは俺だって、恐る恐る説明した。キョータロを失う

 かもしれないって、それが恐ろしかったから、様子

 見ながら言葉を選んだ。

 でも杞憂(きゆう)だった。

 キョータロは、本当に全く何も理解してなかった。

 それが分かって心の底からホッとして、そしてそこから

 初めて本気で全てを説明して、でも結果は同じで、

 最後には他のみんなと結託して、『上位者はみんな、

 手を抜いた』って事になった。

 単純なキョータロは、なんの疑いもなくそれを信じて

 くれた。


 で、そのおかげで、みんな密かにキョータロのことを

『バカと天才は紙一重』って呼んだ。

 これは多分……絶対、()め言葉なんかじゃない。

 だいたいキョータロは頑固なんだ。変なところで。

 でも俺は、内心良かったって思ってる。

 何か言われたら『あの時ちゃんと言っただろ?』って

 言って逃げることだって出来る。


 ホント、ズルいよね?

 でも安心したことには変わりない。


 キョータロは、ホントはバカなの? それとも

 頭いいの?どっちなの?

 謎は深まるばかり。

 だけど少なくとも学校側は、キョータロに一目置いた

 事には変わりはない。

 これもまた、俺にとって好都合。そのおかげで俺が

 学校に『親友として、恭太郎(きょうたろう)君の勇姿を収めて

 目標にしたいです!』って言って、式場にカメラの

 持ち込みを申請した時も、快く承諾(しょうだく)してもらえた

 から。


 ──彼の不真面目さは見習わなくていいが、学力は

   確かに申し分ない。

   しっかり見習いなさい。


  おかしな話、先生ですらもキョータロの行動は、理解

 不能らしくって、真面目な顔で頭を捻っていた。本気を

 出せば、もっと上に行けるはずなんだけどな……なんて

 言いながら。


 普通だったらカメラの持ち込みなんて、絶対

 有り得ない。

 保護者が持ち込むのなら分かるけど、生徒が……しかも

 入学する主役の生徒が、撮影のためにカメラを持ち込む

 とか、きっと未だかつて、なかったと思う。

 最前列の、しかも一眼レフ。

 でもだからこそ、かなりいいショットが何枚も撮れた。


 特にあれは良かったよね。

 壇上から降りる時、みんなを見てフワって笑ったあの

 一枚──。

「……ふふ」

 思い出すだけで、顔がにやけてくる。

 隣でキョータロが俺を見て、嫌そうに顔をしかめている。

 何笑ってんの? こいつみたいな?

 でも何も突っ込んでこなかったから、俺は更に笑って

 しまう。

 あれ(・・)は、本当に大切な一枚。


 キョータロの後ろには、優しく微笑みながら見守る

 校長先生。大役を終えてホッとするキョータロの笑顔。

 きっと、あれほどの写真は、今後二度と撮れないのに

 違いない。

 だからあれは、俺だけの宝物。誰にも渡さない。

 そうそう。キョータロにだって、見つからないように

 しないと。下手すると破られる危険性だってあるし

 大元を消される心配だってある。気をつけなくっちゃ。


 キョータロは知らないんだ。俺がどんなにキョータロを

 尊敬していて、追いつこうと努力しているかだなんて。

 それだけじゃない。もっと──もっと、別の感情

 だって。

「──」


 

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