表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくらのさくら  作者: YUQARI
第1章 恭太郎
15/96

14.乃維と、知らない友人。

 乃維はオレほどではないけれど、学力はそこそこあって

 今回もどうにか同じ特進クラスに入ることが出来た。

 実はこの特進クラス、小等部の高学年からあって、

 学力を伸ばしたいと思うヤツらで構成されている。

 本当は、より上の学校を目指すように作られたクラス

 なんだろうけれど、外部受験をするのは三分の一程度。

 メンバーはあまり変わらない。


 他のクラスでは当然クラス替えもあるけれど、ここの

 クラスの場合は、学力が伴わないと入れない。当然

 学力が下がれば他のクラスに回される事になるんだけど

 そうならない限り、基本は一緒。ずっと一緒。

 だから、このクラスに飽きた! って言うやつも中には

 いるけれどオレには、これくらいがちょうどいい。

 知らないヤツと過ごすのは苦手だから──だから

 オレは、必死になってこのクラスにしがみついている。


「……ん?」

 不意に、乃維の傍にいる女の子に目がいった。


 ──あれ? あの女の子。


 確か、今朝がた学校の門のところで見かけた子だ。

 え? 同級生……?

 オレはてっきり、上級生だと思ってた。

 だって、朝早く登校していたから。


 オレは、挨拶の打ち合わせがあったからあの時間だった

 けれど、ふつう他の新入生は親と一緒に登校する。だから

 あの時間帯に校門にいるってことは、新入生では

 ないってことで、絶対、上級生だと思ってた。

 でも今、乃維の傍にいる。

 だったら同級生で間違いない。

 しかも同じクラス?

 え、いたっけ? ホームルームに。


 その子は、長い黒髪を右耳に掛けながら、楽しそうに

 乃維と話をしている。すごく小さな声で話している

 みたいで、囁き声すら分からない。でも、乃維には

 分かるみたいで、手を口にあてて笑いを堪えている。


 オレは記憶をまさぐった。

 全く覚えていない。

 うん。あれだ。総代の挨拶のおかげで、緊張して全く

 周りが見えてなかったってヤツだろう。

「………………」

 えー……どんだけ緊張してたんだよ? いつもなら余裕

 ぶっこいて、人間観察していたとこだったのに。そんな

 余裕すらなかったなんて。

 ガーンとなりながら、改めてその子を見る。

 多分あの子は、外部からの受験生だ。それは間違いない。

 今まで見たことなかったから。


 だけど、今見た限りだと、乃維の知り合いみたいにも

 見える。

 二人とも妙に親しげで、クスクスと笑いあっているから。

 何を話しているのか分からないのが悔しい。けれど

 とても楽しそうに見えた。さっき知り合った……ようには

 見えない。前から知っていた友だちみたいに

 見えた。でも、オレは……オレは──知らない。

 少し、モヤッとした。


「……」

 乃維とオレは、ふたごということもあって、たいてい

 いつも一緒にいる。

 別に、好き好んでそうなってるわけじゃなくて

 学校も一緒、クラスも一緒。当然家族だから住んでる

 家も一緒ってなると、行動範囲はほぼほぼ同じ。だから

 基本、友人知人だって同じになる。

 違うのは部活関係者くらいのものだけど、でもあの子は

 それとは違う。そもそも外部入学だろうから、それは

 ありえない。しかも同級生なら、オレが知らない

 はずがない。

 他クラスの奴とは話す機会もないけれど、誰がいるとか

 顔くらいは知っている。

 だけどあの子は見たことがない。




 だったら誰だ──?




 会場は少し薄暗くてよくは見えないけれど、

 にこやかな彼女の表情は印象的だった。知り合って

 いたのなら、忘れるはずがない。でも覚えていない。

 少しタレ目のつぶらな瞳が、人の良さを全面に押し出して

 いる。──いや、でも。

「──っ」

 一瞬、ゾワッと寒気がした。嫌な記憶が蘇るような

 そんな変な感じ。

 いやいやそんなわけない。そんな事、あるわけ

 ないじゃないか。だってオレは、あの子を知らないから。

 オレは軽く頭を振る。

 早く席に戻らないと。しなれない事をして、きっと

 記憶までもが混乱しているのかもしれない。

 オレは軽く息を吐いて、自分の席へと戻った。

 けれど戻りながら、彼女のことが頭を離れなかった。


 席に戻ると、楓真(ふうま)がにこやかに迎えてくれた。

 その笑顔に癒される。

「ふふ。なかなかカッコ良かったよ。キョータロ」

 楓真はきししと笑いながら、(ひじ)でオレの脇腹を

 つついてくる。

 てか、やめろって。まだ式の最中だって。


 ふと見るとその手には、立派なカメラがある。

「え。ちょっ、おま……っ」

 まさか、さっきのフラッシュってお前なの? って

 言おうと思ったのに、言葉にならない。

「……」

 目を見開いて睨むと、楓真はニヤリと笑う。

 いいでしょコレ。とばかりに自慢気に掲げて見せる。

 やめろって。見つかる。絶対それ、没収対象だから。

 てか、こんなデッカイのよく持ち込めたよね。薄い

 スマホじゃなくて、ガッツリカメラ。プロが持つ

 ような立派な一眼レフ。


「ふふー、いいでしょ。

 あ、ちゃんと許可は取ったんだよ? キョータロの

 晴れ姿だからって言ったら、(こころよ)くOKくれたんだ」

「──は?」

 いやいや待て待て嘘だろ? 許可されてる? いったい全体

 ここの学校、どうなってんの? いくらなんでもそれは

 自由すぎないか? おかげでオレのプライバシー(おか)され

 まくってんですけど?


 でもどんなに不満をぶちまけても、撮られてしまったものは

 引っ込めない。しかも相手が長年連れ()った友人たち

 となると文句も言えない。

「……」

「でもバッチリだったよ?

 全然緊張してないように見えたから意外だったけど、

 ふふ。でも近くだと分かる。結構震えてるじゃん」

 言いながら、つんつん……と腕をつついてくる。

「……う、うるさい」

「残念だなぁ。その震えだけはカメラに収められない

 んだよねー」

 はぁ、せっかくキョータロの観察日記つけようと

 思ったのにと楓真は本当に残念そうな溜め息を吐く。


 いやいやいや、そんなの撮られてもオレは迷惑だから。

 てか何その観察日記って。オレ、朝顔なの? 朝顔レベル

 なの? 全然意味分かんないんだけど。

 オレはムッとして、楓真を睨んだ。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ