11.新入生総代。
※R6.7.15書き直しました。
「暖かい春の日差しに包まれ、私たちは伝統ある
私立城峰学院大学附属高等学校に、入学の日を
迎えました。
本日は私たち新入生の為に、このような盛大な式を
挙げて頂き、誠にありがとうございます……」
広い講堂に、オレの声が響く。
……あぁ。もう、死にたい。死んでしまいたい。
今すぐ消えてなくなればいいのに──。
考えても実現不可能だということは分かっては
いるけれど、そう思わずにはいられない。
いったい、ここって何人入ってんの?
軽く冷や汗を浮かべながら、オレは思う。
だって凄いんだ。
人の熱気というか、圧力というか、なんて言うのか。
いつもはギャーギャー騒いでいる同級生たちも、自然
なりを潜め、静かに収納型の椅子にちんまり収まって
座っているのがちょっと可笑しい。
知らない顔も当然あるわけで、妙な緊張感と高揚感が
入り交じったこの状況は、なんだか変な感じがする。
揃いも揃って黒や紺色の服に身を包み、独特な香り
漂う式場の圧迫感といったら半端ない。
今回の入学者は三百人弱。
全盛期には五百人はいた新入学生も、少子化の
波を受けて、年々減ってはいるみたいで、中学の
校長先生は溜め息をついていたけれど、三百人も
いれば、オレはいい方だと思う。
だってだよ? 毎年の入学式は、新一年生とその保護者
それから学校の教員と一部限られた在校生が参加
することになっているんだけど、それだけで
ざっと計算しても千人以上とか、あり得ない。
いや、ちょっと待って。そもそも、その単純計算で
千人以上が出てきたわけだけなんだけど、この会場
二千人は入る施設だったはず。なんで満席なの?
「……」
入場してオレは頭を抱えた。予想を上回る人数。
えっと、どうしてこうなった?
城峰学院の中でも一番の大きさを誇るここ『晴山記念
講堂』は、城峰学院を創設した人の名前がつけて
あるらしい。
創設者の名前を冠した講堂。その名に相応しく、
この講堂は主要なイベントに使われるんだけど
オレが足を踏み入れたのは今日が初めて。
中学校の入学式卒業式では、別の講堂使ったし、
そもそもこんな講堂にお世話になるほど、オレは
真面目に生きてきていない。リハーサルやっとく?
の先生の言葉にも、いやいいです(めんどくさいから)
って断ったのが悔やまれる。
入った瞬間、広さに驚いて、次に満席なのに慄いた。
──え? ここってホントに学院内?
春山講堂は、今回のように何かの式典で使われる
こともあるけれど、普段は一般にも解放していて
コンサートホールとしての機能も、果たしている。
収容人数は約二千人。
オレの予想では、多くて千五百人くらいの参加だと
思ってたんだけど、それを大幅に上回り、この人数。
なんでこんなにミッチリしてるんだ? 空席が
見当たらないどころか、たっている人だっている。
あ、撮影陣か? いやでもあの人たち、座る場所あんの?
オレは頭を捻る。どうしてこうなった?
だってだよ、一階席には新入生と、在校生。
それから学校の教員職員や来賓かんかがいて
合わせて五百人くらい?
二階席は保護者となっているけれど、新入学生三百人弱の
親たちだから、やっぱり同じくらいの三百人くらいが
来るのだと、オレは予想をつけていた。夫婦揃って
来てるところがあったとしてもせいぜい四百人くらい?
だからどう考えても、千人ちょいくらいで座席は
余るはずだったのに、何故か、何故なのか──
「えー……なんで、満席?」
思わず気が遠くなる。
え? だって、中等部の時はこんなにいなかったよ?
もちろん入学する人間は高校より少なかったけど、
そんなに差はないはずだ。
なのになんでこの状態?
在校生? 在校生が思っていた以上に多かったのかな?
それとも保護者? エスカレーター式の学校だし、
ほとんど内部受験で、入学式って言っても特に何かが
変わるわけじゃないから、来るにしても片親だけ来る
計算してた。……そのせいかな?
ちなみにうちは、母親だけ来ている。
本当は母さんすら、来ない予定だった──。




