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雨の日

作者: naka

短編を書くのは人生初です。

雨が嫌いな少女のお話。

 私は雨が嫌いだった。


 世界が、地球が泣いているようだと思っていた。

 空はどんよりと暗く、雨粒は冷たく触れる度に私たちの熱を奪う。


 それにぽかぽかしたお日様の下で、自転車に乗って、風を切るように走るのが好きだ。

 雨の日はバスに乗らなきゃいけなくて、好きな自転車に乗れない。


 だから私は雨が嫌いだった。



 ある雨の日。


 私は暗い空を見て落ち込みながらバスに乗り込んだ。

 決して都会とは言えないような町だけれど、朝はさすがに人が多い。

 終点の駅へ向かうのであろうスーツ姿の人、私と同じ学校へ行く制服を着た学生、旅行へでも行くのだろう少し大きな荷物を持った家族連れ。

 各々がそれぞれの目的でバスに乗る。


 いつものようにICカードをかざして、入口から少しだけ左側の吊り革を掴む。


 私のすぐ後におばあさんが乗ってきた。

 こんな雨の日の朝から何をしにこのバスに乗っているのだろう。


 おばあさんは足が不自由なのか杖をついていた。

 しかし、始点からはいくつかのバス停に停車しているこのバスに空いている椅子はない。


 私がもし座っていたのなら代わってあげるのだろうか、代わってあげる時にあまりスペースのない中で動くのはむしろ良くないんじゃないか、などとと考えていると私の目の前の大学生のような私服の男の人が、


 「どうぞ」


 そう言っておばあさんに席を譲った。

 おばあさんは大層嬉しそうに、


 「ありがとうねぇ。本当なら毎日頑張ってらっしゃる人に座って欲しいんだけど、歳だからねぇ」


 と言いながら譲られた席に座った。


 その私服の男の人、お兄さんとでも呼ぶことにする、はもの珍しそうに一部始終を追いかけていた私の目線が気になったのか


 「どうかした?」


 と聞いてきた。

 私はただ世の中には出来た人がいるんだな、と見ていただけだったので


 「いいえ、お優しいんですね」


 と返した。

 すると彼は驚いたように目を見開いて


 「いいや、普通だよ」


 と言った。

 それっきり言葉を交わすことは無く、その日の夕方にはもうさっぱり忘れ去っていた。



 しばらくしてまた雨が降った。


 私はいつも通りに憂鬱になりながらバスに乗り込んだ。


 ICカードをかざして入口から少しだけ左側の吊り革を掴む。

 するとこの間のお兄さんと目が合った。


 「どうも」


 と声をかけられたけれど、特段話すこともなかったので、会釈だけしておいた。



 そうやって何度か同じような挨拶と呼べるかすら怪しいようなことをするうちに、ほんのちょっとの関係を持つようになった。



 ニュースで梅雨前線なんて言葉が出始める頃の雨の日。


 その日は少し風が強くて、私もバス停まで来る間に少しだけ濡れてしまっていた。

 これだから雨は。

 なんて思っていたら、最近すっかりお馴染みになってきたお兄さんにタオルを差し出された。


 「おはよう。濡れてるから拭いたら」


 悪いなとは思ったものの、おばあさんに席を譲っていたから優しい人なのは分かっていたし、何より知らない人ではなかったから有難く受け取った。


 「ありがとうございます。返すのは次の雨の日でいいですか」


 洗濯せずに返すのはさすがにはばかられたし、何より貸しをつくりたくはなかった。


 「別に返さなくてもいいけど、そう言うならまた今度」


 お兄さんはそう言ってニカッと笑った。

 私はそれを見て、ちょっと可愛いところもあるんだなって微笑ましく思った。



 次の雨の日。


 いつもならどんより気分の雨の日だけど、この日はそれほど嫌ではなかった。

 返すハンカチは自分でアイロンまでかけたし、お礼に作ったクッキーも作った。


 喜んでもらえるかな、と思ってバスに乗り込むと、お兄さんがいない。

 周りを見渡してもどこにもいない。


 何かあったかな、それとも寝坊しただけ?

 もしかしたらただのお休みの日なのかな。

 次の雨の日でいいよって言ったのに、なんで居ないの。


 学校に着くまで私はずっとその事で頭がいっぱいだった。



 翌日もまた雨が降った。


 一応タオルとクッキーもカバンに入れてある。

 連続だしいないかもしれないな、と思いつつバスに乗り込んだ。


 あ、いた。

 呑気に手なんて振ってくる。私の気も知らないで。


 「ごめん。昨日熱あってさ」


 え、だから居なかったの。


 「大丈夫?」


 私がそう言うと、お兄さんはまたニカッと笑って


 「もう大丈夫」


 って。

 もう、その笑顔は反則なんだから。


 「はい、タオルとお礼のクッキー」


 とりあえず返せた。

 これで貸し借りはなしだね。


 「え、クッキーも貰っていいの? ありがとう! 大事に食べるね」


 いや、腐らないけど早めには食べて欲しい。

 そう伝えるとお兄さんは、


 「じゃあ今日のおやつにする。感想はまた今度」


 と言った。

 これまでならそれで良かったんだけどな。

 でも昨日いなかったし、またドギマギしたくないから、


 「次も会えない日あるかもしれないから、これ」


 携帯にメッセージアプリのQRコードを表示させてお兄さんに見せた。

 お兄さんはちょっと首をかしげて


 「そんなに心配してくれたの?」


 なんて言ってくるから私は目を逸らした。

 別にそういう訳じゃない。ただなにがあるかわからないのがいやなだけだから。



 その日の夜、感想が送られてきた。


 「美味しかった。また食べたい」


 もっとどこがいいとかあるでしょ。何その幼稚園児の感想。

 けどそんなことは言えないので


 「よかった。また機会があれば」


 と無難に返しといた。



 その後もメッセージは続いた。

 晴れの日もバスで通ってるらしい。始点からだからいつも座れるけど普段は足腰弱るから立ってるって言ってた。



 この地方も梅雨になった。


 あれから週に1回くらいでお菓子をあげるようになった。

 相変わらず情緒もへったくれもないような感想だけど、いつも決まって美味しいって言ってくれるのは凄く嬉しい。

 作りがいがある。



 そんな梅雨の一日。


 私はいつも通りに入口左側の吊り革を掴んで横に並んでいるお兄さんと話していた。

 メッセージのやり取りとほぼ同じ、今週何があったとか、友達と何話したとか。


 そんな時、バスが急ブレーキを踏んだ。

 私は吊り革に掴まっていたけれどバランスを崩して倒れ込んで、



 ぽふっ。



 お兄さんの胸の中にいた。

 上を向くとお兄さんと目が合う。

 お兄さんは


 「大丈夫?」


 と平静を装ってるけど顔が耳まで真っ赤だ。


 「う、うん。大丈夫、ありがとう」


 そういう私も顔が熱いのだけれど。

 体勢を立て直してお兄さんの方を見るとお兄さんもこちらを見ていた。


 目が合う。

 そしてどちらからともなく、そっぽをむいて下を見る。


 この間が何秒だったかは分からない。

 けれど、ものすごい熱と拍動が私を襲った。


 その日はそれからお兄さんと一言も話すことは無かった。



 梅雨が明けた。


 本当なら嬉しい、楽しいはずの晴れの日がやってきたはずなのに、なんでかは分からないけれど、胸が苦しい。



 …………あ、そっか。



 好きになってたんだ。




 私は雨が好きだ。


 空は暗くても、例え雨粒が熱を奪っていくとしても、


 お兄さんが、私の大好きな人が、心を明るくしてくれて、私に温かさをくれるから。

前書きでも述べた通り、短編を書くのは初めてなので、個人的には悪くないかなと思っていますがやはりまだ未熟な部分があります。


どこがいけなかったか、どこが良かったかをレビューor感想で教えていただけたら嬉しいです。

また、☆を頂けたら泣いて舞いますので最後にポチッと押していってください。次のお話へむけて励みになります。

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