7話 モンスターロード
「冒険者ギルド…?」
「そ、知らないんすか?お二人も登録した方がいいすよ、今のご時世に入会金も市民権もなしに入れるギルドなんてそこくらいしかねーし」
無事検問を通過し、王都を散策するファリナ達。そういえばまだリョーダ達が王都に来た理由を聞いていなかったと思い出し、話を聞いていたのだった。
「手ぶらで登録できるのは助かるな。ではエリーゼ、我々もまずはそこへ行ってみるか」
「そうですね、資金問題が解決するかもしれませんし」
人の國の貨幣を持っていないことは、生活するうえでの一番の問題だった。最初は適当に魔獣を狩って毛皮や牙でも売ればいいと楽観視していたのだが、よくよく考えたらどこで売ればいいのかもわからないし、そもそも売却に特殊な許可が必要になる可能性もあった。だからそういった働きを専門としているギルドがあるというなら非常に助かる。
「ギルドは確かこの大通りを真っ直ぐいけば見えるはずです。もうすぐ…あっ!?」
「ん?どうした?」
「ぶ、武器屋ゴールドソード…!こ、これがあの有名な…‥!全国から名剣が集うっつー噂の…!」
武器屋ゴールドソード。そうでかでかと書かれた看板をひっさげたやたら豪華な店。その外見に相応しい品ぞろえであることは、ガラス越しに店内を覗き見れば一目瞭然である。遠目でもわかるほどに美しいだけでなく実用性に富んだ剣が至る所に飾られているのがわかる。ファリナの目には魔法や呪いを纏った剣も見えた。
リョーダはそれを見て目を輝かせながらそわそわしている。
「…俺たちは先に行ってるぞ」
「はい!わかりっした!さーせん、あざっす!」
気持ちをできるだけ短く詰め込んだような言葉を残し店に飛び込んだリョーダ、それを見届けギルドへ向かおうとしたファリナだったが、ふとあることに気づく。
「そういえばリシータはどこに行ったんだ?」
「ゴールドソードがなんちゃらかんちゃら言ってる間にどこかへ行きましたよ。欲しい物でもあったんじゃないですか?」
「そうか。まあそのうちまた会うだろう。さて、それではギルドへ行くぞ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつもの如く真っ昼間から安酒を喰らう。上級冒険者の特権だ。馬鹿真面目な連中は今の地位に驕らず最上級を目指しているみたいだが、なんとも無駄な努力だ。人類にたどり着ける限界は上級。それ以上は人外の化け物どもの縄張り、人間がどんなに頑張ったって届くもんじゃない。ある程度の地位に満足してビビりな新人相手にイキリ散らす。中には蔑む奴もいるが、何もわかっちゃない、これが冒険者の一番の楽しみ方だ。
「へへ、ガルドナのアネキ、また昼間っから酒浸りですかぃ?俺にもちぃっとわけてくだせぇよ」
古くからの子分が話しかけてくる。自分に限らず強い奴には片っ端から媚を売ってる野郎だ。こういう生き方もそれはそれで楽しいのかもしれない。
「いいぜ、丁度話し相手が欲しかったんだ」
ーーと、その時、ギルドの扉が開いた。入ってきたのは、ガキと若い女。どちらも見慣れない顔だ。女の方は多少周囲を警戒しているのが伝わってくるが、ガキの方はそんな素振りは全く見せず、自信に満ちた顔で胸を張って腕組をしている。まるで自分が世界の中心にいるとでも思っているかのような尊大な態度だ。
ギルドいたほかの連中も気づいたようで、扉の前に立つ二人を見つめていた。
「あれ?新入りですかねぃ?」
「多分な。私もあンな奴ら見たこと‥‥ンー?」
ふと気づく。あのガキの格好、わざとらしくボロにしてあるが、見たところかなりの高級品だ。それにやたらと小奇麗な整った顔‥‥もしかすると、貴族の連中か。
一般的には金のない庶民やそれ以下の後ろ暗い輩が集まる冒険者ギルドだが、たまに貴族が来ることもある。そういう輩は大抵、面倒な礼儀作法やお勉強が嫌になった遊びたい盛りのガキだ。が、流石にここまで若いのは見たことが無い。さぞかし甘やかされて育ったのだろう。
貴族には特別才能を持った奴らが多い。だからどいつもこいつも最初は自信に満ち溢れているのだが、自信過剰が行き過ぎて無理な依頼を受けてしまいビビって小便漏らすのが関の山だ。
…はあ、しょうがない。流石に若すぎる、最悪命に関わる。ちょっとビビらせて帰ってもらおう。場合によっちゃ少し痛い目見てもらうが死ぬよかマシだろう。--そう思い席を立つ。
「よォよォ、随分とかわいらしい嬢ちゃんじゃァねェかあ」
目の前に立った自分と、偉そうなガキの目が合った。
ーーーー次の瞬間、首が胴体を離れ地に転がったのを感じた。
「----!?」
半ばパニックになりながら首に手を当てる。もちろん首はちゃんと体についている。じゃあ今のはいったいーー
「なぜ目の前に立つのだ?俺様の御前だぞ。道を開けんか」
「---っ!?ひっ…」
鈴を転がすような声、だったのだろう。だが、その声が地獄の鬼のような恐怖を伴い頭の中をかき回す。突如眩暈がし、滝のように冷汗が噴き出した。ーー道を開けなくては。使命感のような激情が思考を支配し、ふらふらと転がり込むように近くの椅子に座りこむ。すると少女は自分に興味をなくしたらしく、そのまま再び歩き始めた。
少女が通り過ぎると、真っ白になっていた頭も少しずつ落ち着いてきた。何気なしに周りを見渡しーー絶句した。
「‥‥…ンだ…これ…」
まるで神に祈りでも捧げるかのように、どいつもこいつも膝をついて頭を下げていた。泣く者や震える者、中には気絶している者までいるようだった。
「‥‥なンだよ…あいつ‥‥」
ソレが神だか魔王だかは分からない。ーーが、
とんでもない化け物が来たと、それだけは理解できた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
冒険者ギルドに入ってからの一幕。初っ端からあり得ないほど飛ばしに飛ばしまくったファリナにエリーゼはーー
「…うわ…」
ドン引きしていた。